その頃、助けは?
ーオースティン視点ー
目の前の女性は、腕を組んでこちらを挑発的な笑みで見ている。
だが、口を開いた時の衝撃よりはまだマシかも知れない。
「だ・か・ら!!
アンタが頑張って隠している尻尾は分かったから、ココは手の内を見せなさいよ。
いい?
雪菜はこの世界の鍵。少なくともアタシはそう思ってる」
正論だ。
雪菜を目の前で攫われたのは、俺とて同じ。
彼女の居場所の特定は、数分前に検討がつき動き出そうとしたその瞬間に、扉を開けて入って来たのが彼女だ。
聖騎士でも、マティ殿に続く有能な女性。
噂は、本物だった。
チラリと窓の外を伺って用意周到の彼女にため息が出る。
断る選択は始めから無いのだ。
隙のない彼女らしい作戦か…。
「分かりました。
レジー殿の情報以上を私如きが知っているとはおもえませんが一応、少しお話しします。
彼女は、ブルーレル殿の鍵を手にしておられる。
と、なれば逃げようとして逃げられない訳ではない。
では、どうして見つからないのか?
何かの事情で彼女自身が、誘拐犯と共にいる選択をした可能性がある。そう考えました。
俺は商人です。
彼女の行動原理を見れば、変わった食品の購入がヒントだと思いました」
そう。
彼女は、恐らく誘拐犯に肩入れしてる。
何処に居ても最善を尽くす彼女の気質。そこに目を付けたのだ。
「アンタ…侮れないわね。秘中の秘のブルーレル殿を知ってるとは…。
まぁ、いいわ。目の付け所は気に入った。
で、何処なの?そしてこの誘拐犯の目的は?」
全部を話す訳にはいかない。
特に彼らの特殊な能力の秘密などは…。
と、なれば。
「貧民街の子供達が主犯。
そして、隠れ家は何と離宮の更に奥。
枯れ果てた果樹園です」
おぉ、珍しい。
目を剥くレジー殿とは貴重な。
目星を付けていた場所は、恐らく陽動作戦の隠れ家だろう。
そして、本物の主犯を彼女はまだ知らない…
「あの呪われた果樹園?
先先代の皇帝の時に、荒れ果てたアレ?
そう…あそこなの。
まさか、あそこに踏み込む勇気のある人間がいるとはねぇ。
あ!雪菜に影響とか出てない?」
最後のセリフに彼女が真から雪菜殿を大切に想う心が見える。
しかし。
あのレジー殿ですら、あの場所に偏見があるとは。
「レジー殿。
あの場所は、本来精霊に祝福されし場所。
特に、ドルタの山々に住うリュカ様の加護を受けております。
ご存知でしょう?」
苦笑いのレジー殿。
「そうね。
太古の昔から、王家共々あの場所を大切にして来たから。
だからこそ、あの場所を血で汚した罰は重いものだったしね」
そう。
罰は人間だけに限らない。
受けた衝撃は、リュカ様とて同様で。
だからこそ…の自分。
「アンタは、どうするつもりなの?
雪菜をこのまま助け出す為に踏み込む気?」
そう。
そこがネックだ。
踏み込む手勢が集まらないのだ。
あの場所だと告げると、誰も首を縦に振らない。
「「僕らが力を貸すよ」」
突然の声に振り向けば。。。
何とジェラルドとゲルガー。
妖精族の二人。
まさか人間の為に、協力を申し出るとは予想外過ぎて固まったよ。
それにしても、妖精族すら動かす雪菜殿とはいったい…。
「「俺たち以外に来る奴は、誰?」」
レジー殿が呼んだ碧天騎士団が勢揃いしていた。
そして、全員が跪き「我々も共に参ります」と答えた。
にっこり笑ったレジー殿を見れば。
なるほど…俺が試されたのか…。
食えないなぁ。レジー殿自身は。
彼女自身は、偏見など無いのか。
綿密な作戦を立てている途中で、窓を叩く丸鳥が現れ全てが一気に動き出した。
「雪菜が困ってるわ。我々の出番よ!!」
丸鳥を肩に乗せたレジー殿の一言で、我々は離宮へと向かった。




