卑怯者でも構わないーギャビン視点ー
ーブルーノ視点ー
「とにかく、沢山集めて欲しいの!!」
雪菜が言うモノを集めるのは、そんなに難しくはないと思う。
突然仲間入りいたオースティンが、商人としての力が発揮して品物が宿屋に山積みとなる。
本当の商人なんだな。
本当に…意外だけどね。
俺たちの国は、全く他の国と関わらない。
が、レサンタ国は別だ。
商人は、何処にでもいる。
それも、レサンタならば。
目の前の山積みを眺めながら、首を捻るばかりだ。
何故こんなモノが必要なのか、全く分からない。
それでも。
たぶん、雪菜はギャビンさんやマティさんを助けようと必死なのだと思う。
俺の勘が正しければ、二人には何か策がある。
だからこそ、敵方が焦ってこんな発表をした、
と、思う。
まさか、聖騎士のリーダーのマティさんを処刑なんて考えられないからな。
本気で不安になっているのは、恐らく雪菜のみかも。
サイラスは、キチンと物事が見えているしな。
旅空で、聖騎士と触れ合う度に思う『覚悟』の深さ。
民の為のストイックなまでの生き方。
なるほど。
だからこそ民衆の絶対な支持を受けているのだな。
そのリーダーを処刑すると言って、得するのはどちらか?
「聞いてる?!
もう。ブルーノも参加してよね!!」
手渡されたのは、キテレツな服。
「雪菜。
皆んな戸惑ってるから、ここにいるメンバーだけでも作戦を教えてくれよ」
ん?
雪菜のニヤケ顔。
嫌な予感がするよ。
「ジャーン!!
『ええじゃないか』作戦よ。
この服を着た人々が、踊りながら陽気に王都に押しかける。混乱に乗じて皆んなを助けましょう!!」
え?
それが作戦??
うーん。
俺でも、少し甘い気がするぞ。
ほら!!
サイラスさえも、冴えない表情じゃん!!
「いや。いい考えだと思う」
!!!!!!
びっくりした。
この人、何処から現れたの?
しかも、もうキテレツな服着てるし…
「レジー。
何故ココに?
君の担当は、違うだろ?」
「きゃーーー!!!
雪菜だぁ!本物の雪菜捕まえたーー!!」
聞いてない。
いや、聞く気がないみたいだな。
雪菜…珍しく蒼白な。。!!!
「レジー!!
雪菜が落ちるから絞め技はヤメロ!!」
少しフラッとした雪菜を抱き抱えたこの人が、あの悪名高き、いや間違えた…聖騎士のレジー殿だと後から知る事になる。
でも、俺には聞こえたよ。
「この人…宝塚?」と言う雪菜のセリフ。
タカラヅカ??
そう言った雪菜の目がちょぴりハートだったのが、謎すぎるが(落ちかけた人間とは思えないタフさだな…)
この人の参入で、結局雪菜のアイデアは一部変更はあるが決行される事になるのだが、
俺。。。
あの服を着た事実を忘れたい…(だってたぶんあれは、女装と言うのでは?!)
ードルタ帝国内ー(ギャビン視点)
「だから言ったろ?
引っかかるってな。
こんな事、如何にも奴らのやりそうな事だからな。民衆は本物だと思うはずさ!
だけど、よく聖騎士達が俺のこんな穴だらけの作戦に付き合うよな」
いつも通りの眠そうな目には、珍しく光が灯っていた。いつもの諦め切った表情とは違うやる気に満ちた表情に秘めた想いを感じる。
あの顔…不敵な笑みが彼には似合う。
恐らく勝算があるのだろうな。
彼は決して負け戦をしないからな。
「だが。
これによって雪菜殿達にまでご迷惑が掛かるかと思うとそれだけが気掛かりだ」
俺の言葉にベレットから同意の声が上がる。
でも。
それでも、この作戦を辞める訳には行かないのだ。
あと一歩。
あと少しで、奴らを一掃出来るのだから…。
苦労して戻った王都の様子に俺は酷く困惑する事になる。
予想外の混乱。
『何故だ?
俺が王でなくても、役人も貴族達も同じように動くだろう。だとすれば、大した混乱は無いのではないか』
そう呟いた私をベレットが嗤う。
相変わらずご自分の価値が分からない人だと。
それこそが、今回の事態を引き起こしたと何度も繰り返すながら。
以前から何度かそう言われていたが、実際、王都が乱れ人々の困窮を目にするまで実感は無かった。
目にした王都は酷いものだった。
街には、仕事の無い者達が道端で疲れ切った表情で座り込み。
家々の煙突には、細々とした煙しか立たず。
広場にいる子供達は、家の手助けにと野菜などの売り子をする。痩せ細った子供の手から買った野菜を手にして分かるとは、自分の馬鹿さ加減に嫌気が差す。
それからは、手段は選ばない。
何でもやると誓ったのだ。
雪菜殿の言われる瓦版から始まり。
第二騎士団のクライスと連絡を取り、貴族に協力を頼む(ベレットに言わせれば、あれは脅迫だと言うが。貴族とは脅迫こそが正義だったはず。だろ?)
更に警護団のバズールは、私兵を募って訓練していた者達を味方に引き入れた。
隠れ住む私兵は、いつでも王都へ攻め込めるように厳しい訓練をして待機している。
意外な事にレサンタ国からの協力も取り付けた。
仲介はフフサ殿だ。
それもこれも、雪菜殿の『薬の販売』の意味するモノから来るのは間違いない。
計り知れない雪菜殿の恩恵。
恐らくその礼なのだろう…。
とにかく、商人が味方するのは大きい。
先立つものは…と言うのも当然あるが、彼らの情報網は影のそれをも超える時がある。
そんな折だ。
聖騎士のマティ殿の行方不明の一報を聞いたのは。
そしてそれを利用する事を思いついたのだ。
無論『雪星の雫』の捜査中の事だと知った後でだが。
ブレンが提案してきた案に乗ったのだ。
『ブレンの酒場』の単なる親父では無い。
彼には、何かある。
卑怯者でも、構わない。
後で雪菜殿へは、何度も何度も詫びよう。
だから。
ガリガリに痩せたあの子供達が、お腹いっぱい食べられるその日まで。
民衆の力を貸して欲しいのだ。
この国の本当の主人である市井の人々の手に我が国を取り戻すために。。。




