一路ドルタへー1名増えた?!ー
「ですから、こうしてお願いに上がっているのです!!」
待っていた?
いえ、来るかと覚悟していたオースティンは、意外な人物と共にやって来たわ。
まぁ、レサンタ国の出身だと理解してたけど…。
「雪菜殿。
私は、貴方様に大変なる御恩のある身。
ですから、言いにくいのも真実。
ですが、この男の口は悪くとも腕前は多少なりともお役には立ちます」
いつもなら、お世話になっているフフサさんのお願いにすぐに頷いたわ。
でも…。
『オースティンを旅の連れにして欲しい』と言うフフサさんのお願いには簡単に頷けない。
でも…。
今日は、オースティンも静かね。
どうしたのかしら?
「ほら!!
貴方もいつまで御大ぶってないで、ちゃんと事情をお話しなさい!!」
フフサさんの言葉に俯く顔を上げてボソボソ話し始めたけれど、内容は…ね。。
「勘当と言うよりも、所払いが正しい。
ドルタ帝国へ入るにも父の息がかかり進めない。
かと言ってルスタ国は靄鬼で行きたくない。
他国へ行くには、何としてもドルタを通り抜けたいのだ。
同行させてくれ。
因みに、俺の身分証は無い」
んーーー。
やっぱり、オースティンはオースティンだったわ。
偉そうなお願いに、ゲラン当たりが握り拳に血管が浮き上がってるもの。
あ!!
「メゼル!!指先に集めた魔力をオースティンに向けないで!!!」
叫びは間に合ったわ。
護衛騎士の皆さんの熱意は、最近高まるばかりで。
ちょっぴり暴走とお呼びしたいのよ。
私にちょっと近づいた人を、不審者だと思うのは完全に自意識過剰になるから!!
(主に私が…!!!)
オースティンも引きつった顔でこっちを見てるけど。少し諦観の表情が見える。
複雑な立場が、あの様な物言いになったとしたら。
少し理解出来る部分もあるわね。
「雪菜!!!
大変な事が起きた、すぐに出発するぞ!!」
駆け込んだサイラスの言葉に、私達は取り敢えず一緒に出発する。
それは、緊急連絡。
『公開処刑の発表。
日にちは、今より一週間先。
処刑される人の名は『マティ』
もしも、コレに異議のある場合は当日申し出よ!
防ぐ手段は、ただ一つ。
国賊、ギャビンとの身柄の交換のみ!!』
そのビラを見た瞬間の、身の凍る感覚。
全身の血が、ザワッと引くほどの衝撃と『嘘だ』と言う心の叫び!!
目眩に似た衝撃に身体が揺れる。
ん?
誰かが私を支えてる?
馬車の中には、リカルドくらいしか…!!!
え?
オースティン?!
「あなた、慌ててたからつい一緒に出発したけど、この先は危険ばかりよ。
別の手段を…」「一緒行きます。私は所詮、勘当の身。他の手段などあり得ない」
私の言葉に被せるように喋るオースティンに、それ以上の反論はしないわ。
『富山の薬売り』作戦の暇もないから、この人に頼んだ方が良いのかも。
絶対に必要な未病の知識の拡散。
薬を飲む習慣の拡散。
頼むのもシャクだけど…。
「ま、アンタより上手くやるよ。
未病も薬売りも任せておけよ。
その代わり、ドルタの内情なんか俺には関係ないからな!!」
目が点になるわ。
そりゃ。
言い方はぶっきらぼうだから、腹が立ちそうだけど。よく聞けば内容はそうじゃない。
これでも、三十路のOL。
言葉の裏も…ね。
「じゃあ、お願いね」と軽めに言えば、また憎まれ口だけど。
この人。
最初の印象と何か違う。
そんな気がするわ。
でも。
今はとにかく、マティさんとギャビン。
二人を助ける手伝いを探さなきゃ!!
平和な日本からのOLに出来る事…だってあるはず!!
待ってて!
必ず、見つけてみせるから!!!
ーその晩のテントの中ー
『ようやく、ここまで来たね』
「ここまでお出ましとは…。よほどこの少女をお気に掛けておいでですね」
『ふふふ。
そうじゃなきゃ、秘蔵っ子のオースティンをここに投入しないよ。
どう?御眼鏡には適ったかな?』
「また…。
貴方様にそんな風に言われる身にもなって下さい。
恐縮します」
『やっぱり、嘘つきだね。
恐縮とか無縁なのに。
とにかく、ドルタの騒動をこのままには出来ないからね!ま、私達は手は出さないけど』
「お役目を必ずや果たします。リュカ様」
二人の会話を聞いた者はいない…。
気配を悟った者が一人だけいた…が。




