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森に囲まれた!  作者: ちかず
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富山の薬売り作戦?!

ーゲラン視点ー


「だから、沢山の引き出しが必要なのよ!」


今日の雪菜殿の気合いの入り具合は、尋常じゃない。

やはり、昨日の出来事が原因なのか。


アイツ…次に会ったら半殺しだ!!!


「だから!!

ゲランってば、聞いてるの?

一段目と二段目では、引き出しの大きさを変えたいのよ!!」



設計図なるモノを出されたが…。

ま、とにかく口伝を頼りにするのが安全だ。


沢山の引き出しのある箱作り。

持ち運び可能が希望。


俺が棚型の箱を制作中にも雪菜殿は沢山の薬を丁寧に包むんでいた。

同じ袋作りは、バレンが。

薬の分量を計るのは、メゼルが。


護衛任務を放り投げての、内職作業に追われていた。ククク。普段は取り様している奴らが必死の姿が笑える。


しまった!

雪菜殿の睨みが。


「もう!!

一番大事な作業を頼んでるのに。

ゲランってば、真剣にやってね!」


反省…。


それからは、コツコツと全員の作業が無言のまま続いた。


表では、サイラス殿が警戒に当たっている。


これまでも、サイラス殿でなければ防げない事案が続いていた。

山道は、山賊が多数出たし。

各国の影が付き纏うのを撒くのも我々の仕事だ。


時折は、雪菜殿の側を離れて影を捉えたりもした。

そんな時は、レジー様の部隊がいつの間にか現れて影を連れてゆく。


レジー様は格別の方だ。

裏から各国の弱みを握り…いや…間違えた!!

各国の情報を利用して有利な立場を引き出す。


外交力のある聖騎士は珍しいのだ。

当代のリーダーのマティ様のお考えは革新的なモノが多い。



ん?

表から視線を感じるような…。

窓辺での作業をしていた俺がふと見れば。


あ・の・男!!!

オースティンだ。


どの面下げて!!


顳顬(こめかみ)の血管がピクピクするも、奴の表情に違和感も覚える。


俺の視力は聖騎士団でも、ズバ抜けて良いのだ。

だいたい、1キロ先の鳥の模様もはっきり見える。

まぁ、信じていない人間が多いが、事実だ。


怒る奴の顔からは、考えられない複雑な表情。

ん?


我が騎士団が近づいた途端に、表情を変えた?!


どうも、違和感が強まるばかりだ。

俺の中で、奴をぶちのめす計画よりも見張る事を優先せよと本能が告げる。



「出来たわ。

これで良いかも。


ねぇ、リカルド。どうかしら?」


リカルド殿は、ああ見えて常識派だ。

態度は、我儘なガキ的イメージなのだが。


「それで、何が変わったの?」


リカルド殿の言われる通り。

いったい、何を目指したのか?


この箱は?

薬売りに何が使うのか?



「私、家に帰って冷静になって考えたのよ。

薬の取り扱いと、売り方。

安くするもの大切だけど。

それぞれの価値を正しく伝えるのも大切だと。

しかも、量も値段も日々バラバラではね。


遊びだと、あの男に言われても仕方ない思って。

だから、この中に種類別・量別に薬を入れたのよ。

私でなくても、正しく売れるように。

街ごとに違う価格とかにならない信用のある商売をするようって!!


そして、コレ!!


雪菜殿は、小さな小冊子を我々に見せた。

題名は『薬の効用と飲み方。その注意点』


「コレに私の知識を書いたわ。

皆んなに出来たらコレを説明して貰いたいの」


中身の見事さを知るのはずっと先になる。

それでも、立派な本だと理解した。

誰でも分かる書き方は、挿絵付きと言う画期的なモノで。

(後に、様々な場所でこの挿絵付きが出回るようになり。画期的な本の改革だと言わしめるのだ)



これなら。

俺でも、いけるかも…。



「雪菜。

余程、オースティンの言葉が堪えたんだな。

だが。


コレはすごいよ。

はっきり言って薬売りの革命かもね。

その点は、奴に感謝かな?」


雪菜殿は、苦笑いだ。

誰でも優しい雪菜殿が苦手とする人間がいたなんて。



そう思うと奴はある意味凄いな。

俺の脳裏にチラッとあの時の表情が思い出される。


ホッとしたような。

嬉しそうな。



この事を予感していたのだろうか?


「手伝ってくれてありがとう。

お陰で『雪菜の美味しい薬屋』は、ちゃんとした移動販売となりました。

特にゲラン。

素敵な富山の薬売りになれたわ!!」


トヤマノクスリウリ??


分からない言葉はあるが、褒めされる事が少ない俺にとり照れるも嬉しい言葉だ。

表情を崩さないように気をつけて礼を言う。


「ありがとうございます」


「もう!!

ゲランはいつもソレね。

単語は、二つくらいしか喋らないんだから!!」



ちょっと拗ね顔の雪菜殿は、可愛らしい。

耳が赤くなるも、気づかずホッとする。


彼女は自分の容姿を完全に間違えて認識している。

我々護衛任務は、そんな彼女を狙う者達も含まれる。



コレが意外に大変な作業になる。

ギャビン殿がいらした時は、威圧感で蹴散らして下さり助かったのだが…。



ー雪菜視点ー


気合い入れて用意した富山の薬売り屋作戦は大成功したわ!!


信用のある商売は。


昨夜、何回も思い出していたおばあちゃんの薬売り。


安売りでない。

適性価格。


親切と、安売りは違う。


毎回違う価格は、信頼を失う。

気がついた時の血が引く思いは、結構堪えたわ。


だから、今一度原点に戻って。



リカルドにも、サイラスにも。

そして、宿屋のおじさんも。

皆んな納得してくれたから。



今晩は、薬膳スープを作ってご馳走しようと思うの。



これは普通に広めたいの。

この世界の人は『医食同源』を知らないから。

未病の考え方を更に広める為にもね。



リカルドにオースティンに感謝しなきゃね。と言われて正直ムッとしたけど。


確かに…。


アイツには売らないけど。

ちょっぴりなら感謝しようかな。



薬膳スープを配りながら。何となく扉を見ちゃう。

あのオースティンがまた、来るか!と。


少しだけ、待っている自分に違和感を感じながら…。




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