ドラ息子現る?!
「だから!!
貴方には売らないから!!!」
怒るってエネルギーがいるわね。
でも、何でこんな事になったのかしら?
今日は、せっかく初めての店屋『美味しい薬屋』がお爺さんのお陰で大繁盛してホクホクで宿屋に戻って来たのに。
初めて見る宿屋の食堂には、飲んだくれの冒険者はあんまり居なかったの。
やっぱり、ラノベ通りじゃないのね。
んー。
明るくて清潔な店内は、お花が飾ってある可愛い雰囲気で。
その上、宿屋のご主人と意気投合して私の料理を話していたら。
ご主人曰く。
「そんな料理何で聞いた事もない!
俺も長く料理人を続けてるが、想像も出来ん」
唸るご主人に私は恐る恐る提案したの。
作ってみましょうか?って。
本職の人に生意気かなと思ったけど、私のは所謂郷土料理的なモノだから。
番外編で受け入れて貰えるかもと。
小麦粉(名前は違うの。強力粉っぽいかな)でうどんを捏ねてみた。
スープは、鰹節がないから。
カレーに似た味付けで『カレーうどん』をご馳走したら。
「ふむ。本当に未知なる食べ物に違いない。
こんな味は食べた事が無いが旨い!!
アンタやるなぁ。
ほら、後ろを見てみろ。
うちのお得意様は旨いモノには目がないんだ。
皆んな、こっちが気になってしょうがないんだな」
ホントだ。
各テーブルでそれぞれ食べてた人達が身を乗り出してコッチを見てるわ。
そうか。
カレーは匂いがあるものね。
なるほど…。
「おい。
コレをお得意様達に食べさせてやってもいいか?」
私の答えは「もちろん!」の一択で。
飲んだくれの冒険者は居なかったけど、美味しそうに頬張る人々に癒される。と思った時だったわ。
あの男が入って来たのは。
最初は、めっちゃイケメンなあの男にちょっと緊張気味でいたら。
「俺にもソレをくれ!」の一言でカレーうどんを出したら。
一気に完食。
そして。
「アンタ、馬鹿だな。
こんなモノを無料で提供するなんてな。
さっきの店屋も見てたけど、アレも馬鹿丸出しだ。
あんなの商売じゃない。
趣味ごとだな」
あんまりの言いっぷりに唖然となってたら。
「まぁ、俺に売ればちゃんとした商売を教えてやろう。特別に、な。」
で。
先程のセリフになるわけよ。
何様なのーー!!!
と、腹を立ててたら戻ったサイラスが知り合いだったみたい。
「オースティン殿。何故ココに…」
と、驚いてる顔をして固まったから。
え?
まさか…どこぞの王様とか?
「ふふふ。
だから、お前は馬鹿だと言うのだ。
俺が王様などと。
単なるレサンタ国の商人だ」
くぅ!
言い方あるでしょ!!
むぅ。
と、膨れていたらサイラスがフォローを。
「雪菜ど…。
この方はレサンタ国一の大商人の長男でオースティン殿です。
レサンタ国は王政は引いていませんから、この方の一族がこの国を治めていると言っても過言ではありません」
なによ!
やっぱり、私の言う通りじゃない!!
王様じゃないけど、あんまり変わらないんじゃ…
「違うって。
とっくに家から追い出されたポンコツだよ。
能無しって、親から言われたから。
だ・け・ど!!
この小娘よりは、商売は知ってるからな。
コイツは商人を舐めてる!!」
は、はーん。
親から勘当されたドラ息子と言う訳か。
だから、私に商売人ぶってる訳ね。
「違う!!
アンタな。
こんな旨いモノを無料でレシピ公開して。
更に店の常連客に配ったら、この親父の思う壺だそ!!
これをタダ取りと言うんだよ!!」
あ、
ご主人…実力行使ね。
分かるわぁ。
首根っこ掴まれたオースティンとか言うドラ息子は文字通り摘み出されたわ。
ふぅ。
スッキリ!!
とにかく、カレーうどんをサイラスにも出してもう一度皆んなで楽しく食べてたら。
「あのな。
アイツの言うのも一理はある。
確かにこの『カレーウドン』は、店の宣伝にはなった。お得意様にも好評で得もした。
悔しいが、俺の手順も悪かったかもな。
まずはアンタに礼を渡すべきだったよ。
コレ。受け取ってくれ。
もし、受け取ってくれなきゃ俺の面子が立たん。
そうなりゃ、店だって閉めにゃならんな」
ええーー!!
ご主人。脅さないでよ。
私は、ご主人の目力に負けてお金を受け取ってわ。
でも。
悔しいけど、アイツの言い分も理はあるのね。
だからって、アイツにだけはぜーったい売らないけど!!
そんな風に怒ってたから、私はこの店をコッソリ覗いている男の姿に気づかなかった。
ソレを目の端で捉えているリカルドも。
ーリカルド視点ー
オースティン。
その名を聞いた途端、俺はある事を思い出していた。
レサンタ国のドラ息子。
だが。
まことしやかに…一つの事実が囁かれていたのだ。
それは…。
ドラ息子とは
世間を欺く仮の姿…と言うものだ。
これは、聖騎士辺りじゃ知り得ない裏の情報だ。
だが、
あの姿。
恐らく、裏の情報が正確だ。
誰にも悟られず、覗き見とはな。
雪菜の何かが、彼の中の隠している一面を覗かせたのかもしれないな。
用心をするか…。
確証を得るまで直情型のサイラスには言わない方がいいだろう。
とにかく、警護も難儀な様子だからな。
何組が俺たちをつけているか…。
サイラスだけが把握しているだろうな、恐らくは…。
この分だと、他の聖騎士が加わるのも間近か。
気配が消えたと、振り返れば雪菜の姿も無い?!
「疲れたらしいよ。
今日は、部屋(図書館から自分の部屋へ…)へ帰ったと思う。
宿屋…楽しみにしてたのにな…」
ブルーノの言葉にオースティンはやり方を間違えたと思った。
のだが…。
翌朝の雪菜の様子を見るまでは…。




