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森に囲まれた!  作者: ちかず
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朝一の仕事は?

 朝一にする事は決まっている。


 紅茶を入れて、ゆっくり飲む。



 遅刻ギリギリにおきた朝でもそうやってた。

 もちろん異世界に来ようと、小さな身体になろうとあんまり拘らない雪菜の拘りだ。


 お湯を沸かす時間に、その他の材料をチェックする。白米に味噌汁派だが我儘はダメだ。

 ならばと、小麦粉(異世界では蘭粉と言う)に塩と油で練って捻って伸ばして焼く。

 中華風餅チュウカフウビンの出来上がりだ。

 紅茶ではないが葉っぱ(コンユー)を薬缶に投入してクツクツ煮る。

 いい香りに癒される。やっぱり朝はこうでなくちゃね。

 次々と料理を仕上げる。

 野菜サラダに肉の甘辛煮。

 小さいテーブル一杯に並べたところで客人が起き出してきた。

 なにせ、倒れる程の衰弱が見られたのだ。

 昨日の残りの野菜スープに火をかけそちらを出す。身体には刺激の少ない方がいいだろうから。


「おはよう。良く眠れた?調子はどうかしら?」

 何気ない風を装って聞く。

 いや、ちょっとびっくりする事態に遭遇していて。

 サイラスは、ボサボサだった栗毛色の髪の毛を無造作に後ろに流しこざっぱりした服装で現れたのだ。


 何なの…。


 昨日の窶れ熊もどきは、カケラも見当たらない。


 見慣れてないから!!

 こんなイケメンなんて、詐欺よー!!


 イケメンに全く慣れてない雪菜は妙な動揺を隠そうと慌てて声をかけた。


「ありがとうございます。昨夜は久しぶりにゆっくり眠れたので、だいぶ体調も戻りました。」

 笑いかけたサイラスの顔には、昨日までの髭がない(顔中髭だったのに。お約束なのね…コレは…)


「さあ、食べて。お口に合うといいけど。」

 動揺は、三十路の意地で上手くカモフラージュしてさりげなく聞く。


 サイラスは、野菜スープを一口で全て飲み干し他の料理にも手を伸ばす。


 え?

 た、大食漢…大丈夫なの?

 慌てる私をよそに、全く問題ないと言いながら食べ続けてる。


「いやぁ、雪菜殿の料理は最高です。こんな料理食べた事ない。」

 サイラスの食べっぷりにわれに返って、慌てて追加を作る。


「あー、サイラスばっかりいいなぁ。僕にも頂戴。」甘えた声のトーンでジェラルドが登場。

 益々料理の消費が激しくなる。


 作り甲斐を発揮して勢いよく料理を次々と仕上げた。2人で5人前を食べた頃にようやく私の食事の番になる。

 この世界の食べ物は美味しい。

 特に野菜や果物などの味は格別だ。

 ゆっくり味わいながら食べるのが私のくせかな。


「さて。」

 改まった言い方をして話し始めると2人とも直ぐさま表情を変えて向き直る。


「サイラスは掃除や片付けは出来るのかな?」

 と聞くと即答で返ってきた。


「無論出来ます。騎士になる為の学びのひとつですから。」


 その答えに早速頼みごとをする。


「では、計画を話すね。

 まずは、サイラスと私は倉庫の整理から。

 それとジェラルドは、家の周りを調べて欲しいの。庭になる部分を後で教えてね。」

 キョトンとする2人を引き連れて早速仕事。

 ジェラルドには、

「この辺りで耕せそうな場所探しといてね。」


 二人が頷いたのを見て、私は地下の倉庫へ。


 何か「あり得ないー。こんなところで畑でも作る気?」とか後ろから聞こえた気がしたけど気にしない。


 畑は絶対必要だもの。

 自分の口は、自分で養わなくちゃ、ね!


 地下倉庫で戸惑うサイラスに整理の仕方を説明する。


「まずは取り出してリストを作成してね。


 今すぐ必要なもの。

 何か役に立ちそうなもの。

 用途不明なもの。

 最後に役立たず。と四種類に分類したいの。


 今すぐ必要なものは、何でしょう?」


 早口な私に圧倒されつつサイラスの返事は


「生活必需品です。」


 おっ。やるわね。何か有名な騎士さんだとか聞いたから思い込みで下っ端の仕事し慣れてないのかと思っちゃった。

 こういう早とちりが私の欠点ね。


「その通り!!

 それと大至急探したいものがあるからお願いしても良い?

 畑の道具・種・大森林の歴史書。


 私も頑張るから見つけたら教えてね。」


 私の怒涛のセリフに最初は唖然としていたけど、何だか納得した感じね。


 真面目な顔から、やっぱり昨日のあのセリフは、本気のものなんだと実感する。


 それにしても『大森林の声を聞いて、精霊を目覚めさせる。』なんて正直皆目見当もつかない。


 でも頼まれると…(昔からコレで苦労が絶えないのよね…私って)



 だって昨夜の夢で…


『初めまして。

 私の名はフローラ。貴方をこの世界に招いた者です。

 私は、長い間あらゆる世界を覗いてこの世界を救う者を探して来ました。そして貴方を見つけたの。貴方こそ最後の希望。

 勝手は承知で出来る限りの祝福を授けさせて頂きました。

 。。

 春川雪菜さん。

 勝手は承知で申し上げます。

 どうかこの世界をお願いします。


 勝手ばかりの私は許しを乞う事すら許されない。

 でも、謝りたい。

 ごめんな…。』



 消えそうな声は、フローラが最後の力を振り絞っているのが分かって、切なくなる。

 最後は声すら聞こえなくなって完全に消滅したと何故だか理解出来た。

 だからかな。

 もしかして彼女の身体だからなのかもしれないけど…。


 帰れないのに…

 勝手に連れて来られたのに…


 私には不思議と怒りは沸いてこなかった。

(彼女の悲痛な声が耳に残る。その願いが…)


 ひとつだけ気になる事が。


「ちょっと過剰評価と思うけど…」


 切り替えの早さが私の特技。

 やれる事をやろうと決心する。


 そこからは、前向きあるのみ!!


 まずは調査から。

 サイラスやジェラルド達の見方と違うものが見つかるかもしれないから。



 この世界を知りたいの…



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― 新着の感想 ―
[一言] うーむむ。 読んでいる方としては、雪菜の反応の方が当然(むしろ凄いがんばり屋な位)で、残る二人の反応がいちいちわからない。。 騎士としての地位とかこの世界の常識なんかもあるんだろうけど、全…
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