鍛冶屋ゼム視点ー注文ー
誰だ!
なんと…闇の魔法使いとは珍しい。
ワシも長年生きとるが、初めて見たわい。
しかしだ。
こりゃたまげた美人だな。
しかもちっちゃい子。
こんな子を使いにやるとはどこのドイツの仕業だ。
ん?
まさかワシに用事か?
「何だね、お嬢ちゃん」
一瞬した苦々しそうな顔をさっと笑顔に変えて挨拶する様子は、おかしい。
大人の女性のような落ち着きもある。
ん、頼み事だと…こんな田舎の鍛冶屋に?
「でも。サイ村長の推薦です。
ベラさんとも知り合いですよね?ブルーレルも知ってたし。
鍛冶屋のゼムさんですよね?」
ワシは、頷くと頼み事の内容を話し出した。
コヤツ…受けるとは言ってないのにサクサク話を進めるとは、やり方が上手いな。
大人みたいだわ。
「はぁ。聞いてましたか?
それに私は大人です!!」
ま、子供は大人ぶるものだ。
さて。
話を聞いたさ。
答えは一つ。
「無理だ」
すると後ろから出てきた男が
「材料でしたら、問題はありません!!
外の馬車に数台分を持ってきましたから」
ふん。
アホタレめ。
このルスタではな。
鉱石を売って貰えなくなって長い。
商人で、ワシらに売れば酷い目に合うらしいわい。
さ、コレで帰るかな?
ん?
「ですから、俺がレサンタ国の商人です!!
ここの雪菜殿に頼まれたので用意しました。
さあ、お受けください」
それは…。
材料が入荷しなくなって早数年。
最近じゃ、腕を振るうのは主に家にある包丁や鎌くらいだ。
なんだ、なんだ!!
ちっちゃい子に引きずられて、外へ出たら確かに馬車が数台停まってた。
もしや…。
淡い期待を胸に覗けば…本物の鉱石。
しかも。
最高級の品揃えとは。
更には手伝いの手配済みじゃ観念するしかないわい。
しかし。
馬車を数頭立てにする。
後は何台も連結する。
そしてショックアブゾーバーを設置する。
何とも言えない馬鹿げた話と笑っていたら、設計図まで出来ていた。
相手側の気迫に飲まれるのは、数十年ぶりだ。
「わかった。引き受けよう」
それからは怒涛の日々だった。
新しいモノが生まれるのは困難は憑物だ。
だが、それこそが仕事の充実感を連れてくる。
久々に、やる気に満ちた日々となる。
後に、この馬車によって世界中から沢山の注文が舞い込んだ。
沢山の鉱石と共に…。
ワシと雪菜の繋がりは、更に深くなってゆく。




