サイラス視点ー分岐点ー
折れた…。
雪菜を守るためならば、些かの躊躇も無い!!
つもりだった…。
命懸けと言う心は真のモノだ。
だが…。
それとコレは違うんだ。
幼い頃から、憧れた『オゼルの大刀』を手にした気持ちを忘れた日はない。
我々騎士に取り、刀はその魂そのものなのだから。
折れた…。
見た事のない『実』
そこから飛び出た『石版』
そこに書かれていた『幻影園』
更には古代地図まで…。
課題山積の我々がバーラド村へ戻り、皆の知恵を集めようと考えたのだ。
ギャビン殿の言っていたドルタ帝国にある地図の話は些か趣が変わっていた。
「我が君。
あの一瞬を記憶に留めた事は驚きと称賛に値しますが、そもそもあの古代地図の入手先が問題です」
理路整然…地で行くようなベレット殿の発言に覚えのある表情のギャビン殿。
「そうか…。
あのイザコザで舞い込んだ品のひとつだな」
イザコザ?
頷くとベレット殿からは、更に驚きの発言が…。
「そうです。
ルーベント精霊強国と先代皇帝のイザコザの件です。我が国の馬鹿大臣共がかの国からせしめた秘宝の一つ。
『精霊代の地図』です」
なんと。
それほどの古い地図が現存しているとは、やはりあの国…。
ん?
俯き加減のアーノルドの様子がおかしい…ような…。
「まさか。
まさか叔父上が、そこまで国を売り払っていたとは。元々、我が父の乱心により始まったドルタ帝国への仕掛け。
我が叔父上のおかげと。そして、そこなギャビン皇帝陛下のおかげで平和へと戻りました。
だが…『精霊代の地図』は我が国の宝ではなく、恐らく『精霊の宝』。
だから、怒りを買ってあの様な有様に…」
憤るアーノルドは、最後には俯いて黙り込む。
あの様な有様とは?
余計気になる。
と、全く予想外なところから返答があった。
「だからか。
精霊強国のお偉方は完全に血迷って、ベラの部屋にある宝を狙ってゼロを雇ったんだ。
他にもたくさん…頼まれたけどな」
目を剥くアーノルド。
そして、考え込むギャビン殿。
混沌に更なる混沌を巻き起こすのは、当然雪菜殿!!
「じゃあ、決定!!
とにかく、ドルタへ一番に向かおうね。
『雪星の雫』の事もあるし、本の謎解きもあるし。
とにかく!!
ドルタ帝国の王宮へ乗り込むから!!」
ギャビン殿。
彼曰く、魔窟と称するドルタ帝国の帝宮。
本当に戻りたいのだろうか?
危険の多い場所へ雪菜殿を連れてゆくのは、本意では無いのでは?
だとすれば、ここは断固反対!!だろう…え?
「雪菜殿。
正直、危ない場所へ貴方に行って欲しくない。
更に、我が国の膿の集まる場所など。
でも。
私も考えを変えました。
最大の努力をして、無事にドルタ帝宮へお招きしましょう。
暫くの間、私に時間を下さい」
ギャビン殿の計画は、こうだ。
ギャビン殿はドルタへ秘密裏に戻り平定する。
雪菜殿を出迎える。
しかし…そんな簡単に。。
「ありがとうございます、雪菜殿。
貴方様を出迎える準備は私の死力を尽くします。
我が君の翻意を。
本当にありがとうございます」
深々と頭を下げるベレット殿。
真剣な様子に見入っていると、ギャビン殿が近づいてきた。
刀…これは!!
ドルタ帝国の秘宝の一つ『王者の刀』では?
「貴殿に、雪菜殿をお預け致したい。
我が宝をお貸ししよう。
雪菜殿と共に、再び会える日までお預けする。
どうか、どうか雪菜殿をお願い致す。
あ、それと。
その刀を直す者を見知っています。
そちらは私がお預りして直しておきましょう。
再会の日までに…」
『王者の刀』は細身の刀。
だが、振う者の潜在能力によっては驚愕の力出す。。まさに伝説の刀。
重々しく私が受け取った。
我が刀より軽いが。
その責務から、大変重く感じた。
頷く我々に雪菜殿がまたもや、混沌を呼び込んだ!!
「分かったわ。
本当は一緒に行きたいけど。
今のシーンだけで、ラノベの10冊分あったから。
満足しました。
でも。
ギャビンさん…必ず絶対、無事でいてね」
雪菜から珍しく両手を握りしめていた。
ん?
「うきゃぁーーー!!!
やっば。
干物自ら、やっちゃったよ。
。。、でも暖かくて…ぎゃぁ!思い出しちゃダメ。
雪菜、頭から離すのよ(勿体なくても…)
。。。
でもね、心配なのは、本当よ。
ベレットさん、見張り宜しくね!」
雪菜……。
完全なる笑顔のベレット殿の返事は…。
「任せて下さい」だった…。




