その夜…夢を見た…
夜になると、図書館へ帰る。
それはいつものローテーション。
まあ…ベラの家へ帰ると言うのが正解ね。
滅多にフローラの姿ではバーラド村に滞在していない。
制限がある感じがするの。
身体の怠さが強まるし、家の周りの薬草や野菜も萎れるし。
離れるだけの力が足りないと…。
そんな訳で今日も図書館へと戻る。
バーラド村では、まだお祭りの最中。
夜になっても、近隣の人々は押し寄せていて。
祝花が効いたわね。
間違いない!!
配る薬草茶を何度も補充する盛況ぶりだもの。
夕闇と共に、こちらへ戻った私はその先の大盛況(別名…飲み会とも言う!!)は知らない。
そう。
疲れてベットにダイブして。
そのまま寝ました…なら良かったのだけど、そうは問屋が卸さないらしいのよ。
ふう。
何と、お迎え登場!!
久しぶりのジェラルド。
珍しく頬がピンクで髪がハネテたままで、まさに走り込んできたと言う感じ。
「雪菜!!
こんな隠し玉があったなら、言ってくれれば良いのに。
ものすごーーく力が漲るよ。
素敵な音色の笛だね。
確か『シノブエ』だっけ?」
こんな感じで寝ぼけた私に勢いよく喋り続けていたけど。突然大人しくなったわね?!
どしたの?
「ごめん。
雪菜をこちらへ招く手伝いをした癖に、勝手に居なくなってばかりで。
あの音色を聞いたら、雪菜のこれまでの生き方が見えてきて少し泣きたくなったよ…」
ええーー!!
もしかして…妖精って過去を見れるの?
凄いじゃない!!
そんな青いタヌキみたいな事。
え?
違う??
「あのね。
そんな驚異の技が出来る訳ないじゃん。
音色には、雪菜の想いがあってそれを感じるんだ。
たぶん。
我々妖精と。
そして、精霊様もね」
そうなのね。だからピテレもあんなに喜んでくれたのかも。
ジェラルド…。
ありがとう。素直に嬉しいわ。
ん?
何?
皆んなの前で今一度演奏のお願い?
したわよ。
さっき、散々演奏して…。
ほら、ジェラルドも聞いたでしょ?
「だから。
精霊様の為に、これから雪菜一人のシノブエを演奏して欲しい」
そう言われて否やは無いわよ。
私の笛で良ければ、是非。
そう言った途端。。。
足下は草地に変わり、空に星が光る。
風は優しく頬を撫でるも、寒さも暑さも感じない。
そう。
私…外にいるみたい。。
しかも、見知らぬ場所にいつの間にか居たわ。
周りの草花が揺れて、遠くには大きな森も見える。
草花に、蛍の姿かしら?
キラキラ光が散っていて幻想的。
ジェラルドの姿も、精霊の姿も見えないけど笛を構える。
目を閉じて、浮かんだのは京都の祇園祭の笛の音。
その音色に焦がれて真似している内に出来た一曲。
長閑にそして、田畑にどこまでも広がるように。
牛車の歩みにも似たその笛を。
いつまでも吹いていた…
ところが。
演奏が終わり目を開けた私は、ベットの上で。
あの景色は?
ジェラルドは?
まさかの夢落ちなの?
変わらないいつもの部屋の様子にため息をつく。
気持ちの良い演奏だった。
しかも忘れられないくらい、素敵な場所で。
あら?
この笛。
アレロアが作ってくれた篠笛は、少し歪で。
素材も日本にいた頃とは、違うはずで…。
何故?
まるで…ココにある篠笛は、私の知ってる篠笛みたいで。
しかも、手に取るとほのかに光るわ。
そう。
まるであの風景の蛍みたいに。
その晩は、そのままいつの間にか寝ていたわ。
ジェラルドも姿を現わす事もなく。
そして、
翌朝…笛を見れば、光をもう失われていた。
でも…。
でも、その姿は…。
本物の篠笛だった。
夢に見た。あの篠笛だったわ。
そして『大森林』は、姿を少し変えていた。
密集は緩まり、
そして…
ベラの家の周りの畑が大きく広がっていたの…。




