使者と会って…
チャンスだった。
グース家の末席に連なるだけの我が身。
ガランド様が次期皇帝陛下に即位される。
それを邪魔する勢力は、当然聖騎士と魔女フローラだ。
噂によると『大森林』の精霊は力を失いつつあり、フローラも同じ運命だとか。
我々も安心していたのだが、先頃様相に変化があったのだ。
そこで私の出番となった訳だ。
実は、ルスタ国内に最近になって、些か見過ごせない事態が生じ始めたのだ。
自滅への道を辿るはずのルスタ国の中に、なんと独立する村が出来たと言うのだ?!
(ルスタ国の軍隊を聖騎士の力を借りて退けたというのだ…まぁ嘘だろうが)
更にはその村に、怪しい者たちが出入りすると隠密が嗅ぎつけたらしい。
ここまでの情報は、なんとグース家当主のランバル様に直々に教えられたのだ。
有り難い…お目をかけて戴くとは。
配下を数人連れて、正式な招待状をフローラ宛にして尋ねればボロを出すだろうと。
ランバル様の言われた通り、遥々とバーラド村と言う辺鄙な村へと到着する。
ま、思ったよりは、まともな村でホッとした。
王宮へ出入りを許されている私には、まぁ物足りないがな。
村長の家と言うのは、すぐに分かった。
何せ、聖騎士の騎士団らしき男達が大勢出入りしていたからだ。
身体がデカいだけのウスノロに辟易しつつ、村長にフローラ宛に招待状を持参したと言うと少しこましな部屋に通された。
それにしても、待たせる。
私を誰の使いだと思っているのか!
やはり、噂の通りフローラは…。
そんな想像をしていたときだった。
トントン。
扉を叩く音がして、3人の人間が入ってきた。
私は、しばし…言葉を失った。
何者なのだ?
この可愛らしい人は?
小柄な身体つきに、王宮でも滅多にお目にかかれないお洒落ドレスが大変似合っている。
「初めまして」と挨拶をする彼女の名はスノー。
可憐な名前は、彼女にぴったりだ!
あぁーー。
笑顔を浮かべお辞儀をする様は、更に可愛さが突き抜ける。
ハッ!!
用件を一瞬忘れていて、私は慌てて挨拶を返す。
「初めまして。私はガスタ家の当主エイダムと申します。次期皇帝陛下であらせられるガランド様よりフローラ殿宛の招待状を持参しました」
さぁ、どう出る?
この場にいるのは、可憐な彼女と聖騎士の二人。
やはり、聖騎士はこの村にテコ入れしていたのだな。それにしても、聖騎士が一つの村に入れ込むとは珍しい。
奴らはやたらと平等とくり返すクセに。
フローラはどこにいるのか?
可愛いスノーさんには、申し訳ないが任務は任務だ。
「あのー。
招待状の件は、私スノーが承りました。
フローラに伝えますが、お返事はどちらにすれば?」
グッ!
柔らかく笑うスノーに見とれない様に、気を引き締めて。
「私が承る。何日後になるのか?」
「えーと。
1日下さい。明日のお昼にお返事します」
なんと、明日とは。
コレは、フローラは未だ健在だと言う事になるな。
では。第二段へと進まねば。
「では。是非ともフローラ殿自身からのお返事でお願いしたい。いかがかな?」
可愛い顔に迷いが見えるな。
直接、フローラに会う者は限られる。
さて、どう出る?
「御使者殿。貴殿は何か勘違いしてないか?
ココはルスタの王宮では無い。勝手に一般人のフローラ殿を招待したおいて、会えるかを強要するなどと。代理人であるスノー殿を蔑ろにする気か!」
チッ!あの小ささは聖騎士のジェマか?
戦闘狂め。生意気な口をききおって!
「ジェマ。
せっかく来たのに、会えないのは気の毒よ。
じゃあ、明日の夜ではどうかしら?
フローラ殿にお願いしておきますから」
「ゆ、スノー殿!!」
ジェマの叫び声から、スノー殿の独断と理解した。
やはり、どこぞの貴族の御令嬢なのだろう。
可憐な姿を見て、私は一目で見破った。
「では、よろしくお願いしますな。スノー殿。
私としては、是非スノー殿にこそ我が国へおいで頂きたい。その時は、私自らご案内など致しましょう。では」
満足な出来栄えだな。
さて、宿屋へ向かうか。
何ーーーー!!
宿屋が無いとは。
かなり、戻らねばならんとは!!
これだから、田舎町など人の来るところでは無いわ!
御者に命令して、馬車に揺られながら今日の成果に満足をしていた。
スノー殿…。
眼福であったな。
あの方だけは、ランバル様へのご報告書に入れるのはやめておくか…。
ーその頃、指令室では?ギャビン視点ー
覚悟はしていたし、当然の結論だと思う。
それでも、いざとなると胸の中にモヤモヤしたモノが生まれるのも事実だった。
「我が君。その顔から察するに、我が国への温情をまだお持ちとお見受けします。
先日申しました通り、第ニ騎士団のクライス団長と警護団のバズール団長から連絡が来ております。
必ず陛下にお戻り戴く道を造ると豪語しております
市井では、不満が充満して爆発寸前だと。
このままガランド殿が皇帝になるなど、出来ますまい」
楽観的観測をするベレットをまるっと無視したままで、サイ村長に使者の名を聞くと。
「私に名乗るの名は持たないそうです」
詳細な姿形から、恐らくガスタ家当主だと当たりをつけた。
なるほど。
ランバルめ…捨て駒を送り込み、奴を抹殺してその責をこちらへ押し付けるつもりか?
「我が君。ガスタ家当主の守護は既に命じてあります。併せて雪菜殿の会話の内容も今、こちらへ」
痒い所に手が届く。
それこそがベレットの本領だ。
だが、これ以上彼が関われば笑い話では済まなくなる。これ以上は…。
「我が君。私も目が覚めました。私へのこれ以上の演技は無用です。一緒に雪菜殿にも協力を求め、我が国を取り戻しましょう!」
「絶対にダメだ。
彼女を巻き込むなど、愚か者でしか無い。
恩を仇でかえすならそれは、人ですら無い!!
雪菜のあの優しさはもちろん、賢さも時には大胆さも持ち合わせ更には…あの姿だ。
それだけは、決して許さない」
あの瞬間を私は恐らく生涯忘れないだろう。
彼女が本来の姿を取り戻した時は、とても驚いてそして納得した。
人の姿は、その人の生き方を写す鏡となる。
雪菜は、そのものだった。
懸命に生きる、真っ直ぐな瞳。
真っ黒な瞳や髪は、神秘的な美しさを出すも小柄な身体つきと雰囲気の柔らかさで可愛らしさもある。
年相応となった彼女から、目を離さない自分がいた。
こんなオジサンで、更に曰く付きだ。
皇帝などと言う職業は、家庭を望まないモノだ。
そんな私ですら、見惚れる雪菜。
と、なれば。
敵は何を狙うかも理解出来る。
単にフローラ絡みだけでは、済まない。
恐らく、全員がそう思っただろう。
「今、部屋の盗聴に成功しました。
明日の夜、フローラの姿で回答すると雪菜殿自身が言われたそうです」
な、なにー!!!
フローラの姿で?!
使者への対処に追われる私達は、家の外の異変にまだ、気付くことは無かった…。




