『靄鬼』に呑まれ人ー
『転移』
目の前から人が消える様子を見て心臓が激しくなる。
魔法なんて、全く見たことない毎日だったのに今では、日常茶飯事だ。
あ、もう戻って来た…。
連れている人間は、どうやら普通の商人のようだ。見る影もないけれど。。
目は虚で、顔は土気色。その上ガリッガリに痩せている男は『靄鬼』にだいぶ深く食い込まれているようだ。
「サイ殿。離れて下さい。
なにをし出すか分かりませんから」
言われて、一歩下がった。
「アーーウ、アァアーー」
世にもおぞましい叫び声だと感じる。
それは強い恐怖を起こさせる事でも有名なのだ。
そして恐れから、他の者達も徐々に飲み込まれていくと聞く(正に奴らの思う壺状態)
だが、それも納得のいく。自分の中にも恐怖心が湧いてくる。
どうやら、
周り全員が感じているようだ。
あーー!
なんと。
ジェマ様がサンドイッチを掴むと男の口に押し込んだでは、ないか!!
(いつも通り男らしい…な)
よく飲み込んだモノだ。
。。なるほど。。
鼻を摘めば、飲むなそりゃ。
その要領で次々と食べ物を食べさせている。
しばらくすると…。
突然、男が狂ったように手でテーブルの上の食べ物を手づかみで食べ始めたではないか。
そして…
それからは、まるで蝶の羽化を、見ているような心持ちだった。
そう…雪菜殿の予測がぴったりと当たったのだ。
商人の男は、見る間に普通の痩せた男になっていたからだ。
目には力が戻り、顔色も僅かに良くなっている。
ヨロヨロしていた足腰も、すっくと立っている様子は通常の男だ。
「ココは…」
男は事態が飲み込めていないようだ。
キョロキョロしている。
私は一歩前に進み出た。
「バーラド村です。私は村長のサイです。貴方のお名前は?」
男は、私の言葉を噛み砕くように口の中で繰り返しながら。
「は、初めまして。
私はルスタ国で商売をしていますラドンと申します。もしかして、私は『靄鬼』から助かったのでしょうか?」
ラドン!!
首都で、王族の衣装を一手に手がけるデザイナーではじゃないのか?
その様子に、ジェマ様が尋問する。
何故『靄鬼』になったのか?
「王宮からの呼び出しを受け、参上したところ。
王宮内は、それはおぞましい姿に変化した者達が蠢くこの世のものとは思われないものでして。
私は恐ろしくなって逃げようと思いましたが、彼らに捕まり、宰相閣下の前へ。
そこであるものを渡されたのです。
紅茶の葉でした。それを明日から売るように、と」
なんと、あちら側も食べ物とは。
「あら!食べ物を冒涜するとは許せない!!
こっちも、薬草茶出すわよー!」
今の声は。
まさか…、
丸鳥?!
「こんにちは、サイ村長。
わぁ、結構若いわ〜。
それにイケメンとか、聞いてないわ!
あ、コレは丸鳥の身体を借りて参上しております。
雪菜です!」
その後の事は正直覚えてない。
それほどの衝撃だった。
しかしイケメンとは、なんだろう。
悪いモノでないといいが…。




