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森に囲まれた!  作者: ちかず
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バーラド村の新住人?

変化があった。


と、言うには変化は酷すぎた。


王宮に響くものは、悲鳴と怒声のみ。

そんな声も、恐れから聞こえなくなって久しい。


今では、王宮に残った者達は風前の灯となっていた。逃げる力もない彼らのみ。


この惨状は、いずれ広がって行くだろう。

だが、今の時点で気づく者もいない…

何故なら…



ーバーラド村ー(サイ視点)


森の前にあるこの村は、平凡な田舎の村だった。

いや。

寂れた村は、廃村寸前と言うべきだっただろう。


今は…。


ルスタ国から独立?したせいなのか。

それとも、フフサ殿の影響なのか…。


もちろん、雪菜殿の加護があっての事だろう。

だが、ある日を境に鳥達の姿が見えない。

丸鳥のみ便りを運んでくれるが…何があったのか。



やはり、あの土魔法が。

アレは、論外なモノ。


人間の領域を遥かに超えたナニカだったと思う。



それでも、我々の生活は当たり前に続いて行く。

今日も今日とて…。


目の前のフフサ殿も、通常運転中だ。

そして。


野菜の他に、雪菜殿の料理が届きそれをフフサ殿が食べた事がこのいつもの大騒動の発端だったと思う。


「これはーーー!!!」


まただ。


毎日、何かに叫んでるフフサ殿は、この村ではもう慣れたもので。

誰も叫び声に反応しない。


それでも。

目の前に座る者の礼儀と。


「何か気になりましたか?」と尋ねた。


鼻の穴を膨らませた彼の姿から、最高潮の興奮が理解出来て、私の方は更に気分がダウンする。

こう言う時の彼は、私を離してはくれないから。


やはり、始まった…。


「何とお聞きになりましたか?

これを叫ばずに、何を叫べと!!!


この料理。

素晴らしく美味しい。

もちろん、美味しいがそれ以上に驚くべき事が多い。

まずは、素材ですよ。

何か理解の範疇を超えている美味いものたち。

これだけでも驚きなのに。


しかも。

しかもですよ!レシピがまた、凄い!!ときたのですから。


こんな不思議な感じ美味しい料理なんて私は、初めて食べましたよ!

こんなに様々な国を旅してる私が!ですよ。


そして極めけはレシピが、タダで。

タダで!!!公開してるんですよ!!」


なるほど。

大好物『タダ』がこの興奮の訳だったのか。

納得出来たが、耳が痛いな。

あ、また始まった…


「これが叫ばずにいられますか?

いられません。

サイ殿もそう思うでしょう!

もし、もしもですよ。

これで、食事処を開いたら。。。


あぁ。あぁ、何と言う事だろう。

私は、いや我々は今、歴史の証人となろうとしてるんですよ!!

サイ殿!!

貴方、分かってますか?」


不味い。

途中から聞いてなかった。


長すぎる、いつも通り…本当に長い。

私も、この村に次々来る来訪者の対応に追われて忙しいのだが。

様々なタイプの来訪者は、悩みのタネだ。


今のところは、聖騎士のお二人が在中してくれるから乱暴な訪問者も何とかなるが。

もし…


ブルル…嫌な想像はやめよう。


とにかく、新しい来訪者が着いたと連絡があったからフフサ殿に挨拶をして(無理矢理別れて…)村長小屋に向かう。


いや。

今や国境警備室的な何かになっているが…。


戻ると、聖騎士のお二人が既に居て驚いた。

お二人同時にこちらに来る事は滅多に無いのだ。

対処に困る場面に、何処からともなく現れ解決してゆく聖騎士の凄さは共にする時間が長いほど理解出来る。

有能とは、彼らの為にある言葉だと。

彼らは、無駄な動きはしないのだ。

その彼らが二人がいると言う事は、今日の相手は余程の人なのか。



アレロア様とジェマ様の前のソファには、一人の男性が座っていた。


身体つきからは、騎士などの職業とは思えない。

だが、挨拶する様子からは無駄がなく逆に警戒心が起きる。


「単なる放浪者に、これほどの大物のお二人のお迎えとは。恐縮しますね」


恐縮とは全く別物の笑顔で話す姿は、間違えなくウンクサイ。


「では、お名前から伺ってもよろしいでしょうか?」


ん?

どうしたのだろうか?


突然、目を剥くとは。何が?


「いえ。

貴方は、どちら様でしょうか?」


しまった。

この緊張する空気に押されて、無礼を働いてしまった。


「申し訳ない。

名乗りをしておりませんでした。

名前は、サイと申します。この村の村長をしています」


名前を聞いた彼は、深く笑った。

安堵したような笑みは、彼の美貌にぴったりだった(いや、彼は男性だ。ただ…少し美し過ぎる男性かもしれないだけで)


「なるほど。

貴方が、かのフローラ嬢の心に届いた方か。

いや、ユキナ殿だったか…」


いや。

聖騎士のお二人からの殺気を浴びながら、平然と喋り続ける貴方は、どなた?


「失礼。

私の名前は、申し訳ないが伏せさせて頂きたい。

ただ、この森に知り合いがおりますので、ココに滞在させて貰いたい」


真っ直ぐな瞳だった…。


「おかしいですな。

ドルタ帝国にこの人有りと言われた『ベレット』殿ともあろう者が名乗れぬとは…。

かの賢王は、追われて今この森におられます。

我々は、賢王に力を貸す者。

反逆者をこんな場所に置く訳には」


珍しくアレロア様の怒気の篭った声だ。


「ふふふ。人は信じる者の為に生きます。けれど、我々愚かな人間は時に見誤る事もある。

そう言う事です」


彼の目の中に、薄っすら悲しみを見つけた気がした。


そのせいだろうか。

思い切った事をしてのは…、


「良いです。この村にどうぞいつまでもおいでになって下さい。

ただ、村のきまりは守ってもらいます」


「「サイ殿!!」」


聖騎士からの私を諌めようと声がかかる。

だが、それも彼を見た時までで。


彼は、固まっていた。

そして、その二つの美しい蒼色の瞳からは滂沱の涙が溢れていた。


本人も自分が泣いてるとは思わなかったみたいだ。


聖騎士のお二人から呟きが聞こえる。


「鉄仮面のベレット殿が…」と絶句するジェマ様。


「雪菜殿の加護を受けたサイ殿の勘。我々の知らないものがあるのか…」


三人三様の動揺が去った後、アレロア様が言った。


「いいでしょう。

サイ殿こそ、この村の村長だ。

許可は理解しました。

しかし、貴方を見つめている目がココに二つあると覚えておいて下さい」


キツめの声に、ベレット殿は静かに頷いた。



新しい住人のベレット殿。

彼が居てくれで良かった。


そんな風に言うようになるまであと少し。


あの事件まで…あと少し…。




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