その頃、トトラルでは?
ブルーノが行方不明になった。
ワシは、それを聞いてもちぃとも驚かん。
まあ、予測していたからな。
だが。
国主様は、別だったようだな。
久しぶりに呼び出されたわい。
跪くには、歳を取り過ぎた。
立ったままでおると、周りから呻き声が聞こえきたか。
国主様は、苦々しい顔でコチラを見ていたが。
「そのほう!
無礼にも程があるだろう!!」
責め立てようとする周りを宥めたのは、やはりこの方か。
「やめよ。
国主様。この男は兄上により跪く義務から免れております。
ご理解をお願い致します」
国主様にとり、叔父上に当たるこの方は賢い。
力もあれど、臣下に降ったのだから。
そのお陰で、国が真っ二つになるのを防げたのだ。
「よい。
そのまま、聞くがいい。
お主の弟子であるブルーノが脱走したと報告が来た。もし、誠なら彼奴は二度とこの地を踏めぬし、お主も牢屋行きよ。
どうだ。心して返答せよ」
「申し上げます。
ブルーノは、行方不明になりました。
何処へ飛ばされてたかは、誰も知りません。
彼は、呼ばれたのでしょう」
ワシの返事に、反応は二つに割れる。
飛ばされたの意味を探る者。
無礼だと、牢屋行きを訴える者。
それでも。
国主様のお考えは違うようだな。
どれ。
「国主様。
もしや、心当たりがおありか?」
無礼な!!との叫びであたりが騒然となるが、そんな事を気にしていたら、ココでは埒が明かない。
「お主、やはり何か知っているか?」
「国主様。
何度も申し上げました。
遠い国ですが、ルスタ国がおかしいと。
そして、それはこの地にも広がりました。
もし、異変を止められるならブルーノしかおりません。彼だけが『幻影園』に入る事が出来ますから。そして、それがこの国を救う事にもなります」
しまったな。
言い過ぎたか。
槍がコチラを狙っているな。
まぁ、あの弟子には全て教えたはずだ。
口は悪いが、心根は優しいからしっかりやり遂げるだろう。
目を閉じて、槍がコチラを狙うのを待つと。
カチン!!
薄眼を開ければ、槍を叩き落としたであろう国主様の姿が?!
何故なのだ?
ワシが煙たかったはずでは…。
「ふふふ。
賢者と言われて、この世界に知らぬ者とていない貴方でも、分かりませんか?
私にとり、この座など未練もない。
ただ、ただひたすらこの国を想うだけです」
続けて国主様が言われた一言は。
「今こそ、賢者と言われた貴方の力が必要なのです。ブルーノが帰るまでこの国をお守り頂きたい」
なんと。
ワシに跪く国主様に、悲鳴にも近い声が力無く上がる。
そこまで、疲弊したのか。
この国ですら…。
ブルーノよ。
お主の言った『国主様は、賢い人』の意味を今、理解したわぃ。
どの空にあっても、ワシと国主様でお前を待とう。
「分かりました。ブルーノの帰るその日まで微力を尽くしましょう」
その日から、ワシの住まいは王宮になった。
再び、ココに戻る日が来るとは。
長生きすると、不思議な運命に出会うものだな。
王宮の庭を、珍しい丸鳥が飛んでいた。




