成功したけど…絶対絶命です?!
ー海の精霊視点ー
磯の香りがする。
懐かしい香りだ…。
ぼんやり見上げる空が歪んだ様に見える。
あれ?どうしたんだ?
そして、見下ろした私は全てを悟ったのだ。
そして時折しか、保てない本来の意識が戻るのも、これが最後だろうと知ったのだった。
足元には水溜りが出来ていた。それは懐かしい磯の香りがする水溜りで。まあそれは当たり前だろう。
何故なら己の身体が崩れ水溜りとなっているのだ。ふふふ、既に足はないか…。
ぼんやり空中に浮いている身体からもぽたりぽたりと水が落ちてゆく。
後悔はない。私はこの国を愛していたのだ。我が身よりも、懸命なるこの国の人々を…。
。。。
何処からオカシクなったのだろう。それはこの国の人間だったのか、私自身だったのか。
『ウルフィルさ…ま…』
最後に聞こえたのはこの国の最後の王の声だろうか…。
後悔はない。ただ、一つだけ望むならば…、
もう一度、海をこの眼に…。
ー雪菜視点ー
古代地図は手元にない。
やり方なんてうろ覚えなの。でもやるしかない。
「サイラス。『雪星の降る島』へ行ってくるわ。ここからはたった一人で…」
護衛として常に最善を尽くすサイラスだからきっと反対するから気合を込めて。。。ん?
「分かりました。我々はここでお待ちしております。どうぞ気をつけて。」
あれ?
ものすごーーく引き止められるとか思ってた私の立場は?!超恥ずかしいんですけど…。
『僕たちに出来る事ある?』
妖精達の声に、笑顔で答える。
「精霊しか立ち入れないと思うわ。だから私が行くには助けが必要なの。碧ちゃん。そして砂漠の精霊。お願い、力を貸して!!」
『もちろんよ、雪菜。』
『それは無理だな。』
ん?んん??
一人はOKだけど、断ったのは砂漠の精霊?
『この状況で動ける精霊など恐らくいまい。祝卵は別の理の中にあるから例外なのだ。』
『じゃあ私一人でやるわ!!』
ムキになった碧ちゃんの声がした途端、背中をドスッと押す力を感じた。
背中に碧ちゃんが張り付いた?!
『祝卵よ。それは無謀だ…』
背中の違和感に困ってるとサイラスが教えてくれた。
「雪菜殿。背中に片方だけ羽が生えております。碧色の羽です。」
もしかして碧ちゃんが羽に…。
「うわっ!」
サイラスの言葉に反応したのか、片羽がバタバタし出してバランスを崩した私に大きな腕が伸びてきて抱き止めてくれた。サイラスだ。
「祝卵様。片羽では飛ぶには難しいかと…」
言いにくそうなサイラスの言葉に答えたのは。。。
「こう言う時に呼んでくれなきゃ。久しぶりだね、雪菜。」
振り返るとサイラスの影から黒い人形が伸びて来て人間になる。もしかして?!
「ゲルガー?!」
「久しぶりだね、雪菜。でも時間がないから急ぐよ。」
そう言うと、バサッと大きな音がして私の身体が浮き上がった。
は!!
ここは室内じゃない?
不味いわ、ぶつかるーー!!!
バサッバサッ。
いくら構えても天井が来ない…。思い切って目を開けた私の視界は真っ青だった。
下は、広がる海。
上は、広がる空。
あまりの展開の早さに動揺してる場合じゃなかった。見えてきたもの。
『雪星の降る島』
風を切って旋回して向かっているのは、細い垂直に聳える山の頂上。小さい島には山と麓に小さな泉が一つあるのが見えた。
「碧ちゃん、ゲルガー。お願い山の天辺に下ろして。」
その言葉が届いたのか、スピードが緩まりふわりと降下を始めた。
我が家の居間程の小さな天辺は、草一つない平な場所だった。
着地成功。
私の左右に少女の姿の碧ちゃんと、人形になったゲルガーが立っていた。
『雪菜。チャンスは一回よ。今夜のみが星の降る夜だから。』
頷く私は空を見上げながら思い出していた。
[この世界が危機を迎えし時、南の海に眠る雪星の降る島が現れる。雪星を掴みしは復活の狼煙なり。一度のチャンスを掴めるモノは○○に○○されし異界のモノのみ。泉を忘れるな…]
確かに古代地図にはそんな風に書いてあった。
いや、本当はもっと長かったんだけど一瞬で消えちゃったんだ。もっとヒントがあった気がするんだけどな。
『雪菜、雪菜!!降り始めたよ!!!』
え?だってまだ昼間…。
気がつけば、まさかの日蝕で既に暗くなって更には空から光が降り始めた。
螢?
ふわりふわりと落ちてくる光は、手元に来るとパッと消えてしまう。
『それは光の影。本物は違うよ。よく考えて』ゲルガーの声に頷いてもう一度空を見上げる。
光と影は表裏一体。
どちらも同じ大切な…あ!!
降ってくる光の中に、一つだけ真っ黒なふわふわが落ちて来た。
ゆらゆらするソレをそっと手を伸ばして掴もうとすると、軌道をスルリと変える。
必死の私を揶揄うようなソレを思わず「あのね、皆んなの願いが貴方に籠ってるの!!ちゃんとこっちに来て!!」
聞こえたのかな?
ふわりと避ける様に動いていた真っ黒なソレは手のひらに落ちた。そしてその上に今度は光のふわふわが。
手のひら上で二つは溶け合う様にくっ付いて一つになった。
様々な色を発する雫の石に変化したそれを握りしめた私は叫んだ。
『碧ちゃん、ゲルガー。泉に行くわよ!!』
羽は便利ね。あっという間に泉へ着いたわ。
覗いた麓にある小さな小さな泉は透き通って底が深くて深くて見えない不思議な泉だった。私は手のひらに乗せたソレをそっと泉に浸す様に差し出したら…あ、コロリ。
え?
あーーーー!!!!
お、落ちた。
まさかの底無し泉に…。
絶望に打ちひしがれて頭を抱えていた私は気がつかなかった。
泉から眩しい光が空高く広がっていた事に。そしてこの島がそのまま、沈み始めている事に。
ちゃぷん。
冷たい!!
あっという間に海に放り出された私は、始めて島が沈んだ事に気づいて碧ちゃんとゲルガーを呼んだ。
「お願い。陸まで運んでー!!」と。
浮かびながら、二人を待ってるのに返事がない。どうして…。
[雪星が泉に戻ると全ての精霊が原始の姿を取り戻す。この世界が再び力を得る時だ]
なんで今思い出すかな、私。
まさかの味方なし?!
25mプールでやっとこさ、泳ぐ私が海の真ん中では…。
理解した途端、息が苦しく感じる。腕も重いし水が冷たいよ。
どうしたら…。
でも、そんな考えもの長くは続かなかった。
服を着たまま浮くなんて、所詮私には無理で。
重くなる腕が動かない。そう思った時には口の中に海の水がどっと入った。最後の意識で、こっちも海の水は塩っぱい。なんて埒外の事が頭を掠めた。
ー図書館で サイラス視点ー
羽の生えた瞬間、消えた雪菜殿のいた場所を見つめていると後ろから声がかかった。
「サイラス殿…良いのか?」
「ん?」
ベルン殿の言いたい事は分かっている。それでもとぼけたら。
「雪菜殿だ。一人きりで彼女を行かせるとは正直思わななかった。貴殿は雪菜殿を…」
言い淀んだ台詞は、雪菜殿以外ならば意外に有名な話だろう。そりゃそうだ。誰が見ても俺の気持ちが何処を向いているか丸わかりだからな。
俺は徐ろにボタンを二つ外して肌を晒した。
そこには、ある誓いが刻まれている。古い魔法だ。知っているだろうか?
「まさか…」
彼の絶句を笑みで返した。
さすがはカザエル一の魔法使いだ。
本来これは役に立たない方が良い。もちろん彼女ならば、きっと上手くやるだろうが…。
話はそこまでにして我々は本来の目的である書物を探す事にした。ここにしかない貴重な本なのだ。しかし目的以外を持ち出せば何が起こるか分からない。それのみを見つけなければ…と熱中している俺の耳にベルン殿声で「あったー!」と、聞こえたので振り向いたその時。。
『タスケテ』
雪菜殿?!
その声が聞こえた途端、臍から身体中を引っ張られる様な感覚に耐えた瞬間。
ぶくぶく。口に水が入る。事態を把握する早さは聖騎士として訓練済みなのが功を奏した。
沈んでいた彼女を腕の中に抱きしめて、必死に水の上に出る。
口付けと言うにはあまりに切羽詰まった必死の行為は、やがて彼女の「ふぅ、ゴボッ!」
息に安堵する。
良かった、間に合った。
もちろん危機的状況は全く変わらない。
しかし…。
大海原の真ん中であっても、彼女は俺の腕の中にいる。その事実こそが全てだった。
ふうふうと苦しげに息をする彼女を抱きしめて、陸地を探していると空から光が戻ってきた。
日蝕が終わったのか。その途端、風が顔を撫でた。
そして「ミャーミャー」と声がする。
声のする方を見れば空高く海鳥が優雅に飛んでゆくのが見えた。
動き出したのだ。
止まっていた全てが…。雪菜殿は成功したのか!!
歓喜の俺の目の前に驚くべくモノが見えた。
『命の恩人はココに居たのか。』
そう言って、海の上に立つ青年。
海の精霊様だ。
***
ベルンに見せた誓いの印。
あの時笑みで返した俺の誓いそれは…。
[命の危機を共にする]
今は失われた古代魔法。
内容は。
彼女に命の危機が訪れた時、何処にいても自分が壁になる。もし、彼女を助けられない時は。。。彼女と命運を共にする。
と言うモノだ。
失わしし古代魔法を掛ける俺には全く躊躇いはなかった。
。。。
彼女は俺の全てだから。
間にあった…。




