秘密のドアの向こうには?
ーベルン視点ー
『秘密のドア』にはある伝説がある。
用事のある者の前に姿を見せる、と言うモノだ。
本当なら、、助かるが。恐らくガサネタだろう。、
とにかく、閲覧禁止地区の最下層を目指して進む我々の前に走り出す職員と何度も出会す。どうやら警報の効果らしいが、その度に止まらねばならない為に焦りも出る。
それでもようやく最下層へ到着するも、相変わらずどの部屋もこれまでと同じ単なる図書室に過ぎない。壁や行き止まりをジックリ調べても特別なモノはない。
ん?
足元に花びらを見つけた。
それを手に取ろうとしゃがんだ俺の目に信じられないモノが現れた。
何の変哲もないドアノブが突然、魔力を重ねた仕掛けのあるドアノブへと変化したのだ。
危うさ満点のソレは恐らくは…。
全員の目が釘付けになる。
それはそうだ。こんな危険なモノは見た事がない。この仕掛けを迂闊に開ければこの図書館毎吹き飛ぶ…だろう。
「師長。まさかコレを開けるおつもりなのでは…」珍しく弱気なゾスタの額には脂汗が滲んでいる。ドア越しでも押し寄せる魔力の圧力に耐えてるのは、さすが副師長だ。既に他の部下は膝をついて何とか耐えている状態だった。
「やるしか無い。ただこの扉を開いた後の事は未知そのものだ。万が一もある。」
全員が頷いた。
行くしかない、のだと。
心を落ち着けて目を閉じた俺はそっとドアノブに触れたら、来たか、まずは『毒』
自身に掛けた防御魔法でそれを無効にしながら、ソロリと水魔法を鍵穴に注ぎ込めば。。
「ウッ」
思わず声が漏れた。
お次は痺れだ。更には魔力が逆流して身体中で暴れ出す。思わず痛みで涙目になるも、すかさず治癒魔法を展開したゾスタのお陰で倒れずに済んだ。
そんな中でも水魔法の触手は鍵穴深くに潜るのをやめた訳ではない。背後では部下達がドアから溢れる魔力を防御魔法で食い止める。
何重にも掛けられた防御魔法はこの図書館にいる全ての人々を守る為のもの。
例え王から『特別な力にはそれなりの責任がある。それが分からねばここより去れ』と追い出されたとしても。
我々はカザエルの魔術師なのだ。
この国の民を救う為に捧げた忠誠には些かも変わりはないのだから。
複雑な仕組みを少しずつ解除して進むのには、神経と魔力の消費が半端ない。それでもあと少しだと終わりが見えたその時。
しまった、トラップか!!!
触れたトラップのせいで、ドアノブの一部が破砕して細かく飛び散る。更には念入りで、そのカケラ一つ一つに毒と雷魔力の攻撃が仕込んである。
防御魔法も間に合わない!!
さすがの俺もここまでかとグッと目を瞑ってその時を待つも、何も起こらない。
何だ?と目を開けて絶句する。部下二人が防御魔法毎、俺の前に飛び込んできて全てを受け止めていたからだ。
二人の身体中から溢れる血飛沫はゾスタの素早い治癒魔法の展開のお陰で最小限になっていたが重症なのは一目瞭然だ。
「ここは、大丈夫です。しかし俺たちは誰もお供出来ません。」
残った部下は微動だにせず、そう言いながら未だ防御魔法を展開したいた。ゾスタも治癒魔法を最大にして展開している。
「師長。この先は頼みます。」
魔力のギリギリを注ぎ込むゾスタの声にそっと頷く。そうだな、誰が倒れても必ず前に進むと誓っていたのだったな。
俺はそのままドアノブを掴んで捻ると、ドアは呆気なく開いた。
溢れていた魔力は今はないのを確認して足を踏み入れると背後で音がした。
ガチャ。
嫌な予感と共に振り返って悟る。
退路は完全に失ったのだな、と。
そう、今まであったドア自体が無いのだ。
そこにはただ、壁があるだけ。
そこは小さな部屋だった。
但し、天井の高さが桁違いだ。そう、まるで空のようで。
そしてそれ以上に異常な事に、本棚の全てはその空の高さまであるのだから。
古代魔法の本は、本当にここにあるのか?と。、
背表紙に目をやれば
『精霊と妖精の誕生と消滅』
『妖精を縛る方法』
『○○を縛られた精霊の末路』
『契約と精霊』
なるほど。
全てが古代の本のようだ。あり得ないタイトルばかりだが、どうしても手に取れない。
理由は簡単だ。
敵意剥き出しの存在が本棚の隙間からこちらを睨んでいるのだから。
『お前たちにコレは渡さないぞ!!』
怒鳴ったその存在の手には見覚えのあるモノが握られていた。
アレは確か…。
『雪星の雫』




