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森に囲まれた!  作者: ちかず
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陽動作戦と海の光柱…。


ーとある兵士の1日ーPart3


殺気立つ現場で睨み合いが続いていると、後方から増援が到着した。警報を聞きつけて集まって来る仲間たち。その中には明け方交代した同僚もいた。無論その手にも剣が握られていた。


多勢に無勢。

こんな言葉は騎士団相手には通じないかも知れない。だが、この街を守るのは俺たちの使命だ。みっともなく震える足にそんな風に言い聞かせ初めての実戦を…あ!!


ザカット先輩が膠着状態から一歩踏み出して、トラヴィス様に向かって襲いかかる。

最大魔力を込めたらしいその剣からは馬ごと燃やし尽くす程の炎が襲い掛かる。それを見た我々も一歩を踏み出した。


はずだった。


もんどり打って転がっているのは理解しているが、何故こうなったのだ?槍を突き出したところまでは覚えている。周りを見れば全員がトラヴィス様の振るった剣の風圧で飛ばされたらしい。

いや、一人だけ立っている。



ザカット先輩。


額からは、一筋の血が流れていたがその眼だけは抜かりなく敵を見つめていた。


「俺がこの場で息をしている限り、ここは通さない。」


ザカット先輩はそう言い放つと、剣に纏わせた炎が空高く立ち昇る。限界まで魔力を高めたのか。

ザカット先輩は、一気に全てを賭けるつもりだと分かっても、あまりの迫力に動けない。微動だに動けずにいる俺と呆然と同じで仲間達の誰もピクリとも動けないままだった。


「うぉぉぉぉーーーー!!!!」


「せいやぁーーーーー!!!!」


気合の籠った声に空気が震え知らぬ間に俺の口の中がカラカラになっていた。あの力がぶつかり合えばタダでは済まない。それに気づいたのは、俺だけでないらしく仲間の張った薄い防護壁がぐるりと囲んでいた。


静まり返る中で、二人の激しい撃ち合いの音だけが響いていた。片手で操るトラヴィス様も化け物だが、あの威圧に耐え剣技を重ねているザカット先輩化け物の仲間だ。


しかし…何故騎士団は動かないのか?

後ろに控えた騎士団は、防護壁も必要ないらしく時折飛んで来る風圧や炎を造作なく片手で受け止めていた。


「うぁぁーー!!!」


先輩?!

呻き声と共に防護壁まで飛ばされる先輩を咄嗟に身体で受け止めた、つもりだったが結局二人して転がっただけ。ここまで、か。そう思ったその時、同僚の一人が悲鳴を上げ全員が振り返った。


「う、海から光がー!!」


一斉に海の方角を見れば、白い光の柱が海から空に向かって真っ直ぐ伸びていた。そしてその光と共にドドンッと爆発音が響くと騎士団が動いた。


あ!


我々が騒然としているその隙に騎士団が海へ向かって駆け出していた。その速さたるや先程の早駆けが子供のお遊戯程度と思えるほどで。「俺達も追うぞ!」ザカット先輩のその言葉に我に帰った仲間達が海へ向かって走り出す。もちろん、自分の足で、だ。単なる兵隊に馬などないのだから。



ーサイラス視点ー


何かが、音を立てて崩れた。


少年から雪菜殿へと姿を変えたその背中から流れる血の暖かさに自分の中の獣が目覚めた時に…。


後悔…そんな生温いモノでない。

その塞がる事のない傷は今の俺にとって救いなのだ。


許せない自分を抑える唯一の…。




祝卵様によって回復した雪菜殿。

再会の喜びに笑顔になる雪菜殿。

そして、護衛のゲラン達の為に再び立ち上がる雪菜殿。


一人きりを怖がる夢の中の雪菜殿。


そのどれも彼女だ。

そして、そんな全ての彼女を俺は深く愛しているのだと気づいた、のだ。

何と言う事だ…。

許さない自分が、よりによって彼女を…。

悩む俺は一つの解決法を思いついたのだ。


そして、港街への出発の早朝に決意を胸に彼女の元へと向かった。


寝静まる音のない屋敷は、俺の掛けた安眠の魔法によるモノだ。


ガチャリ。

ノブを回して中へと入ると深い睡眠状態の雪菜殿がベットに眠っていた。

頬を赤くした彼女は、少し暑かったのかもしれない。布団を足で蹴飛ばしてお腹まで見えていた。服と布団をそっと直すとピクリと動いた彼女がモグモグと寝言を呟いた。

思わず笑みが溢れる…雪菜…。


『○○♡☆○…』

昔覚えた古代魔法を最後まで唱えて、目線を感じて振り返った。


少女に姿を変えていた祝卵様と、

少年に姿を変えていた砂漠の精霊様がじっと此方を見ていた。


『ほう、皆を眠らせてまで何をするつもりかと思えば。』砂漠の精霊様はご存知なのか、この古代魔法を、と思えば答えは違う方から戻ってきた。


『人間より長い時を生きてきたのよ。古代魔法くらい知ってるけど、その魔法を使うのを見たのは2回目よ。』


唱え終わるまで止められなくて良かった。そう胸を撫で下ろしていると。


『お前の覚悟は分かった。。

しかし人間というモノは何とも不可思議な生き物よ。これを雪菜が喜ぶとは思えぬが。』


自分の胸に刻まれた印にそっと触れると満足感で笑みが漏れた。彼女をもう一回見つめてそっと部屋を出た。



ーラドルフ視点ー


陽動作戦を言い出したのは、俺だ。

だが、それを作戦としてまで高めたのは、トラヴィスだった。それは恐らく俺への…。


「では、手筈通りに。」


陽動作戦として、単身先に入るのは俺。トラヴィスへ変装して…だ。

次にトラヴィス達騎士団が追ってくる。騒ぎを起こして街を閉鎖させる目的だ。街人を守る為に。

そう。雪菜殿達が船に乗るには少々乱暴な展開をする以外ないのだから。


海の精霊様はこの国の救い主。

我が王家の護り手。故に、許しなく海へ向かうのはご法度中のご法度だ。

当然、トラヴィス達に付いている影が本格的に動く。それを撒きたいのだ。


ベルンの話が本当ならば、間もなく我が国は護り手を失う。それを防ぐ唯一の存在は、水の精霊様。お救いするには、雪菜殿だけが頼りなのだ(何と言う情け無い事だ…)



護り手を失う意味は誰よりも理解しているつもりだ。トラヴィスなどは何となく勘づいているだろうが。


断罪されたあの日より、我が身が役立つなにかを探してきたのだ。



検問所での一芝居から走り出した馬と共に、影を振り回す。警報により街人に被害が及ぶ事にはならないはずだから。

久しぶりに刀を掴んで、影の攻撃を躱しながら馬に鞭を打つとスピードを上げる。肩を掠める攻撃にあとどのくらい持つだろうかと考えながら。



俺は…雪菜殿へ願いを託してひたすら走り続けた。








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