またもや少年に変装して、いざ港町へ!!
ー雪菜視点ー
鏡の前の少年の姿に、私はちょっと首を傾げた。そうだ、何か足りないよと髪の毛を摘み上げた。
もちろん、あの変装状態に戻ったのではありません!!
港町へ潜入する為にゾスタさんの用意してくれた変装をする。
男の子になる為にと鋏を掴んだところで、扉がドタンッと大きな音を立てて開いた。酷く慌てた風情で入って来たのは…。
「雪菜殿!!な、何と言う事を…。」
と、絶句する。
え?
髪を切るだけよ?
美容院とか無いから、ボサボサだったしね。
「何故です?!自暴自棄になるなんて…。こんなに魅力的な女性なのに。」そう言って、私に涙目のおじさんが縋っているこの図。カオス?!
「あのー。単に変装の為ですし、こっちに来てから全然髪を切ってなかったから丁度良いのです。」
どう?
そんな風に笑顔を向けたけど、何故かいつの間にか入って来たサイラスにさり気無く鋏を取り上げられた。
「雪菜殿。
髪の毛は大切な魔力の素なので、髪を切られるなどとんでもない。」トラヴィスさんまで、飛び入りとか。
単に髪を切るのが、騒ぎになってく。。。
「あのー。私は魔力なんてちょっぴりしかないから大丈夫。変装はちゃんとしないとね。」
沈黙が重い…。
「女性が髪を切るなんて、生涯を独り身でいると宣言するのと同じなので…」
めっちゃ言いにくそうにそう言ったのは、ラドルフさん。
な、なるほど。そんな異世界ルールがあったなんて知らなかった。だから皆んながそんなに必死なのね。
でも…それでも。。
「でも、港町の検問は厳しいのでしょ?どうしても皆んなを助けたいの。だから港町へは絶対に行きたい。」
海鬼を捕まえる場所は、どこの海でも良いと思ったの。でも、ほらあの時捕まえた海鬼は、蒸発しちゃったし。
あの石を使うには、船の上からしか無理だと。だとすれば、今の海に船を出せるのは港町のみで。
侵入しようにも、トラヴィスさん情報では、ラドルフさんを捕まえようと沢山の検問があるらしいの。だから変装を、絶対成功させなくちゃ…。
え?コスプレにハマったんじゃないかって?
いや、それならもうちょっとやりたい役が。。。いや、嘘です。血迷いました…。
「雪菜殿。それには俺も反対です。美しい雪菜殿の髪が無くなるなんてこの世の損失ですよ。」
。。。
貴方。。。どなた??
本物の、サイラス?!
サイラスってば、あの日から、一部故障中なのよ…。それにしても、赤くなるのが私だけとは納得出来ない!!
ぎゃぁ!
手を、手を握っちゃダメでしょが!!
私がワタワタと慌てても、動じないサイラスがニッコリ微笑んで。
「気になさらないで下さい。」って。
いやぁ、私が気にするから!!サイラスってば全然聞いてないし…。じゃあとか言いながら、髪を撫でるのはヤメナサイよ。皆んなの注目の的じゃない?!
「サイラス殿の仰る通りです。それは助け出される皆さんも同じはず。それにゾスタ殿は化粧が非常に上手いから安心してね下さいね。」
ラドルフさん…貴方もか!!
少年だった頃の様に気さくにお話しして下さいって頼んだのに。
何故、フェミニストに?!
「ははは。雪菜殿無理ですよ。彼は生粋の貴族の坊ちゃんです。箱入りですから、女性にはコレがスタンダードです。」
トラヴィスさん、笑い事じゃない!!
その間にもサクサクとゾスタさんに化粧されて、髪を切る以上に素晴らしい変装が完成してるし。
オカシイ…自分でめっちゃ頑張ったのに。
「雪菜殿。コレは彼特有の魔法です。化粧品に魔力を通して別人にする。隠密活動に於いて、この国に彼に敵うものはおりません。」
そう言ったのは、恐らくベルンさん。
変装…ですよね?!
まさしく美少女からそのお声が出てますけど…ベルンさんよね?
「そうです。この通り彼の手にかかればご覧の通りです。さっそく全員が変装します。そして最初の手筈通りに三手に分かれて港町へ潜入します。」
それからの皆んなの行動は早かった。
まず、私とサイラスのグループは、船に乗せてくれる人を探しに港へ向かう。
そしてトラヴィスさん達騎士団とラドルフさんは陽動作戦を。
最後にベルンさん達魔術師軍団は、カザエル最大の国営図書館に古代魔法を防ぐ方法を探しに向かった。
検問所の入り口に着いたときには、誰が仲間かも分からない程の変装のクオリティで臨んだ。
最大の危険度は恐らくラドルフさん達との全員の予測は見事に裏切られた…けど。




