屋根から仲間が降ってきた…らしい。
ーグレナガ視点ー
オカシイ。
とにかくどこの宿屋も我々を受け入れてくれない。その原因がなんと俺…らしいのだ。
やっとこさ、到着した宿屋に断られ、正直心が折れそうになる。
単なる鍛冶屋のオヤジになんの文句があるのか。全く心当たりがない。何せ、俺の顔を見た途端皆、怯えて逃げるから原因追及も出来ないし。
怪我人がいるのだ。
「では、私も商人の伝手を使って泊まる場所の確保に参ります。」
意外に力持ちだったフフサとか言う商人は笑顔のまま、動き出そうとするところをアレロアに止められていた。
「フフサ殿。貴方は『森の薬屋』を営まれる方だ。今、彼らに必要なのは薬です。どうにか入手出来ないでしょうか?」
フフサは珍しく少し苦々しい表情になって告げた。
「アレロア様。そりゃココがレサンタならば如何様にもお役に立ちましょう。
しかし、ココはカザエルです。商売をした私が一番分かっています。この国に今、薬草は無いと。ですから…」
言葉を濁す彼にアレロアが雪菜の名を挙げた事で風向きが変わった。
「フフサ殿。あの雪菜殿がこの国に入国してのは確かです。あの方ですよ?どんな状況でも薬草を作っていないはずはない。そう思われませんか?」
雪菜の名は、フフサとやらの特効薬だったのか…奴は「そうですね。分かりました、行っています。ただ、少しばかり時間を頂くかもしれません。」
そう言い終えると、俺の方を見て。
「グレナガ様。どうぞ、我が国の次代を担うオースティン様とこれからビックな商人に育つはずのカラザを宜しくお願いします。」
そう言って頭を下げると走り出して行った。返事も聞かずに…。
アレロアも当然、宿屋探しだ。
だから、俺が怪我人の側に居る事になる。
正直、断りたいと思っていると(顔に出たか…)
「グレナガ様が側に居れば二人は持ちます。だからどうか宜しくお願いします。」
何故…と問う暇はなかった。
そのまま、アレロアはその場から消えたからだ。
移転の魔法とは流石聖騎士…規格外だ。
時折聞こえる呻き声に、生きているのだなと思っても俺に出来る事もないし、な。
待ち時間をこれほど長く感じた事はなかった。
夕暮れ頃に、アレロアの姿を見つけた時は思わず嬉しく思って自分でも苦笑いした。(人嫌いの俺が…)アレロアが借りたと言う町外れの農家の小屋に、やっと怪我人を寝かせることが出来た。まぁ…藁の上だかな。
二人の息遣いはまだ荒い。
治癒魔法か、薬草かがなければ助かるまい…と、そんな悪い予感ばかりが過る。
長い間、他の人間を気にせず生きてきたのだ。だからこんな時どうすれば良いか、分からん…。
食糧の調達にまたもや、アレロアが出掛けたので、俺は少し落ち着いて改めて周りを眺める事が出来た。
ま、結果、正直『ボロ小屋』で呼び名は決定だな。以前住んでいたはずの人間は、かなり昔にココを手放したのだろう。たった一つのテーブルに息を吹きかけると、埃がブワッと舞い上がり思わず顔を顰めた。
だが、やりたい事は出来た。
テーブルの上に置いた『ペンダント』
鏡からまたもや勝手に戻っていつの間にか首にぶら下がってたんだ。ただし、様子が違う。
元々は、魔剣『オゼルの大刀』だったのだ。
元々は、『古代地図』と言う失われし宝だ。
あの出会った精霊の台詞も気になる。
あー、俺は単なる鍛冶屋なんだよ。
もう、雪菜に会ってから振り回されてばかりだよ!!
そんな風にじわじわと怒りが沸いてきたその時、
ドーーーーッッッ!!!!!
『ボロ小屋』が『半壊の小屋』になったのだ。
そりゃそうだ。
空から人が降ってきたのだから。
子供と優男。なに、このコンビ?!
だが、俺にはギョッとしてる暇もないらしい。ちょうど帰って来たアレロアが彼らのうちの一人に向かって叫んだのだ。
「怪我人を、頼む」と。
おぉ、優男は薬師か?と期待すれば、なんと動き出したのは、なんと子供の方で。
チラッと怪我人を見た子供が的確に素早く手当てをしたと思ったら。
「もう、大丈夫だ。」と言うじゃねぇか。
ホッとして良かったと呟くと優男がこっちを凝視していた。
お前…誰だ?!
ーアレロア視点ー
魔蝶からの連絡を受けながら、グレナガ殿をカザエルへと導く。それは即ち雪菜殿やサイラス達への近道だろう。と。。。
紆余曲折して、目標は達成した。
お陰で仲間と怪我人が増えたが、それ以上にどうやらグレナガ殿は厄介なモノに好かれた様だな。いや、違うか。
あの鏡に秘密がありそうだ。
とにかく、怪我人の治癒をと思えどあの鏡を持つグレナガ殿は威圧を放っていて普通の人間には側に近づけない為に、宿屋に入れない。フフサ殿に調査を兼ねて薬草入手を願い出てやっと見つけた小屋へと戻る。
食糧確保も難しかった。この国では容易には、転移が出来ないのだ。
この国は魔法が歪むせいで。ま、私は規格外の魔力持ちだから力技で多少の魔法は何とでもなるが、こうなるとメゼルの魔蝶と接触出来ない。
そんな気持ちで小屋へと戻るとなんと、嬉しい珍客を発見した。
。。。
これは…。
何やら不思議な導きを感じながらも頼りになる仲間の増加に一息ついた。
怪我人は、峠を越えたのだ…。
だが、あのオースティンという人物から、未知なる力を感じるのだ。
要観察というところか。。。




