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森に囲まれた!  作者: ちかず
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ヴァイ様救出作戦をするには…。


ー雪菜視点ー


目が覚めても、まだ夢かもしれないと思えた。だから目を開けるのが怖い。

もし、皆んなに会えたのが幻のだったら…まだサイのままだったら…。そんな気持ちが込み上げた私は布団を引っ張ってもう一度被って潜りる。

夢の中に逃げたいと思いと、弱い心を否定する思いの狭間に揺れていたら…。



「雪菜殿。大丈夫です。もう二度と貴方を見失いません。だから目を開けて下さい。皆さんお待ちです。」


布団の上からサイラスの優しい声が響いた。

もう!!こんなじゃダメ!!!

そう、言い聞かせた私は、涙目になったのを誤魔化すそうと勢いよく布団から抜け出して元気よく挨拶した。


「おはよう、サイラス。寝ぼけていただけだから大丈夫。心配かけてごめんね。」と。


誤魔化されたかは、分からないけどサイラスが朝ご飯だと告げたので、着替えをしようと隣の部屋へと急いだ。


ここは、港町の近くにある小さな町。そして、その町外れにあるベルンさんのお友達の家。

彼は冗談が上手いから「ボロ小屋ですみません」とか言ってたけど(ここって、何部屋もある旅館みたいな大きなお屋敷なんだけど…)すっごいのよ。


「雪菜殿。お疲れは取れましたか?」

食堂へサイラスと向かえば、ランザクの爽やかな笑顔がお出迎えしてくれた…でも。。


「おはようございます、ランザクさん。でも、ずっとお願いしてるじゃないですか!サイだった時みたく普通に話して下さいって!!」


サイだった時は、チビだったからか私の頭をぐりぐりと撫でるのが癖だったランザクさん。

その近い距離が寂しさを紛らしてくれた。だから、今の距離が少し寂しいの。


困った表情のランザクさんが頭をかきながら何か呟くいていた。


「うーん。少年の時も思っていたが鈍感なのかな。自分の容姿が全く分からないのか…」


「え?」よく聞こえない。


「あ、何でもないよ、サイ。だけどな、サイと呼ぶには…あまりにも無理があるのでな…」

途切れがちでもランザクさんが久しぶりに呼んでくれた。サイって…。

顔がニマニマしちゃう。


「あの、満面の笑みの威力を知らぬとは。浮いた噂の全く無いランザク辺りでは辛かろう。」

「トラヴィス。無理を言うな。あの笑顔に勝てる気が俺もしない」


トラヴィスさんとベルンさんが後ろの方で小声で何か話していたけど、よく聞こえない。だって、私が気になっているのは碧ちゃんと砂漠の精霊なのよ。


何故…その姿?!

今日は一段と…。


『無理を言うな。何度も説明したのだから納得してくれ。我々はこの国の縛りに未だ捕られているのだ。この国に於ける精霊は特殊だと…』


ため息混じりの砂漠の精霊は昨日より背が縮んだ。碧ちゃんなんか、次の日には蝶々になってたし。

今は姿も皆んなには見えないかも。


『雪菜がいれば大丈夫よ。』

肩を定位置にしてる碧ちゃんの声は昨日より小さい。そうか、声ももう届かないのか。

肩を落とす私は、部屋に響き渡る明るい声の方を振り向いた。


「さぁさ皆さま。まずは腹ごしらえです。スープの冷めない内にお召し上がれ下され!!」

大きなお腹を揺らしながら、朝食を並べてくれたのはこの家の家主ゾスタさん。

並べられたスープとパンは質素だけど、めっちゃ美味しい。


実は、海の近くという事で少しお魚料理を期待したんだけど。また顔に出てたらしくそんな私に彼は驚くことを言い出したの。


***


『雪菜殿。この国では今や魚料理を食べている者はおりません。それは、雪菜殿が先日目撃した海鬼だけが原因ではありません。海の生き物達に異変がおきているのです。』

笑い上戸の彼にしては珍しく暗い表情でそう言って悔しそうに呟いた。


『とは言え、どんな異変すら調べる事も出来ずにいるのです。我が国認定の魔術師だというのに…』と。


海鬼の存在は、靄鬼と同じなのだろうか?

その時の私はそんな事を考えていた。

後ろから必死の表情で見つめる皆んなの顔も知らぬまま…。


***


カザエルの魔術師さんには少し事情があるようで…。それは今も聞けてない。だって、今から話し合う『ヴァイ様救出作戦』が佳境に迫ってるから。


「食べながら聞いてくれ。

我々聖騎士には、それぞれ騎士団がある。俺には『朴是騎士団』が部下として働いている。今回もゲラン達をフォローする一隊と俺へのフォローの一隊に分けていた。

実は、ゲラン達の一隊との連絡が途絶えていたのが、今日になってやっと回復したのだ。」

サイラスがそう言い出すと…皆んなが不服そう。

そりゃそうよね。だってヴァイ様が、優先って決めたから。もちろん私だってゲラン達もすっごく心配だけど彼らは強いもの。信じてる。。


「サイラス殿。ヴァイ様を救出した後に是非とも協力をしたいと望んでいる。

しかし、ヴァイ様は、我が国の存亡に関わる重大な役割を果たしているのだ。どうか、優先させてくれないか?」そう告げるトラヴィスさんの声はいつも通りで落ち着いてる。

そう言えば、声を荒げるところを見た事ない。


「いや、これは言葉が足りなくて申し訳ない。ゲラン達の情報の中にヴァイ様の情報が入ってきたので…」「それは一体何ですか?もしや、ヴァイ様の居場所が?!」


サイラスの言葉の途中でベルンさんが割って入る。ベルンさんにとってヴァイ様の事ならどんな小さな情報でも喉から手が出るほど欲しいのね。

異世界にも、目が血走ってる人って本当に居るのね…久しぶりに見たわ。


「実はゲラン達と雪菜殿の偽物は誘拐されたらしいのですよ。ヴァイ様と同じく教皇一派に…」


え、ええーーー!!!

教皇ってば、本当に何でもアリね。

誘拐とか、盗み(『雪星の雫』の真犯人だものね…)とか。もはやこれって…悪の枢軸じゃない?!


「偽雪菜を庇った彼ら(ゲラン達)は満身創痍だったそうで、それをヴァイ様が完治させて下さったと。」サイラスの言葉にベルンさんが少し落ち着いたみたい。


「なるほど…ヴァイ様ならば簡単でしょうから。だが、相手の場所も分かったところでもはや作戦決行は決まりましたね。早速…」「いや、それはちょっと待ってください。」


。。。落ち着いてなかったみたい。

だって、顔だけ無表情で行動は既に家の外へと出かかっていたもの。止めたのは、なんと私なの。だって…


「あのー。やっぱり、私が囮になるのはダメかな?一番手っ取り早いと思うんだけど…」どうかな?

。。。


うぉ。。


全員が一斉にきっっつーい視線を向けてきた。

これは…


「「「絶対ダメ」です」」そうですよね。

こんなに、ハモってるもの。


でもここで思わぬところから味方が登場したのよ。


『いや、一理ある。但し、囮は雪菜本人ではなくこちらも変身したモノを使うのが良いだろう。』そう言ったのは、今や幼稚園生くらいの砂漠の精霊。


「砂漠の精霊様。お尋ねします。もし、雪菜殿でなければ一体誰が変身を?しかも変身魔法の様な高度な魔法を我々は扱えません。」

久しぶりの後方からの落ち着いたベルンさんの声がした。そうか、魔法使いでも無理なのか。じゃあ私の偽物さんってば凄い人なんじゃないのかしら?


『私しか無いわね。でも…』

「えっ?碧ちゃんなの?」


碧ちゃんの呟きにびっくりして声が出たら、またも全員が一斉にこっちを見た。


「雪菜殿。祝卵様がそう仰ってるのですか?」サイラスのびっくり顔がそう言う。


『そうだ。但しそれには一つ条件が満たされねば…だが。変身など、我々が本来の姿のままならば、容易い。だから一瞬でいいから、アレを完全な状態に戻せば良いのだ。』


そう言い切った砂漠の精霊と目がバッチリ合った。うぅ、無茶振りの予感に目を逸らそうとしたけど間に合わなかった。


『雪菜。お主、海に行け。そして海鬼を捕まえて来い。』


「ええーーー!!!」


私の叫びが木霊する。

あのタコ坊主だらけの所へ?


無理無理無理…。

無茶振り過ぎて、ドン引くわ。


『いや、やれる。それがあれば』


『それ』って…なに?!

聞く前に、トラヴィスさんが発言した。


「それはまさかカザエルの秘宝をお使いになる…と言う事でしょうか?」と。


秘宝…あ、あの『薬草売り』のお店のお爺さんにもらったアレ?ちょっと血で汚れて半透明から赤い石になって余計にボロっぽくなったけど。


アレで海って…大丈夫かしら。。

しかも私ってば、カナヅチなのよ。。。、

溺れる気しかしない。。



そして…。


予想はまたも裏切られる事になる。

但し、またしても『斜め上』に…だけど。





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