[森の薬屋]開店します!
[森の薬屋]
立派な看板を眺めてフフサは満足だった。
アレロア様に頼まれれば否やはないが。
こんな遠くまで、たかが薬屋如きに自分を呼ぶとはと、かなり腹立たしかった事は確かだ。
商人の国レサンタの中でも、新進気鋭と呼ばれ様々な商売を手掛けるフフサは忙しい。
だが、アレロア様には恩義がある。
まだ、駆け出しの頃に世話になったのだ。
でなければ、弟子の一人でも寄越しただろう。
ルスタ国と取引がある関係で近場にいたので、呼び出しから数日でバーラド村に着いた。
『大森林』の近くにある村と言う以外、全く知らない村。
そんな田舎の村に薬屋を出すなどと。
アレロア様には申し訳ないが、商売人として躊躇うものもある。
だが、資金は聖騎士団から出るとの事。
ならば、と頷いたのだ。
目の前に見えてきた村は予想通りの寂れたもの。
恐らく宿屋や飯屋もないに違いない。
ふぅ。
ため息が出る。
おや?
村の入り口には、アレロア様以外に人影を見つけた。
えーと。
横に立つ可愛らしい女性は、どこかで…。
その隣はこの村の者だろう。ルスタ国の服装だ。
「フフサよ。久しぶりだな。こんな遠くまで悪かったな。ちゃんと団として資金は用意したあるから損はさせない。
それだけは、約束する」
それをにこやかに聞いて、私は一枚の紙を差し出した。
『契約書』
ん?ドン引きかな。
どんな恩人であろうと商売となれば別。
それが、レサンタ国商人の常識なのだ。
「アレロア。この者の申す事は最もだ。
我らもその名の元に契約書を交わそう。
ただし。
フフサ殿。その代わり他言無用の商人としての根幹は必ず守って下さいね」
アレロア様の隣の女性が助言してくれた。
レサンタ国の内情にも詳しそうだな。
…!!!
もしかすると、ジェマ様か?
あの可愛らしい風情とは全く別の戦士としての物言い。そうだ…聖騎士一の戦闘狂いのジェマ様だ。
なんと、聖騎士が一度に二人関わるとは驚きだ。
それほどの薬屋なのか?
何か秘密が。
「フフサよ。これから案内する場所に薬屋を建築する予定だ。
ただ。
驚いて腰を抜かすなよ!」
アレロア様。
これでも、百戦錬磨の商人。
ちょっとやそっとでは…。
!!!!!!!
『慶鳥』!!!!
はぁ…
腰が抜けました。
気を失わなかっただけでも、私としてはかなり努力したのだ。
だが、本当の驚きはそれからだった。
ルスタ国から独立した村『バーラド』
(正直、ルスタ国が独立を認めるなど誰も信じないに違いない。私とて『慶鳥』を見た後でなければ決して信じなかっただろう…ただ、それだけではない気がするが)
風邪薬を始め、この世界全体を揺らがす『基本的薬』と名乗っている『画期的薬』の数々。
(いったいコレのどこが『基本的薬』なのか!!
憤慨に近い感情的が起こる程の『画期的薬』間違いなく世界を揺るがすだろう…もう、ドン引きレベルだ)
『大森林』の中から次々と届く薬や資材。
どれだけの人物がそこにいるのか?
うっかり呟いて、ひどく後悔をした。
それは、この場の雰囲気がガラリと変わったからだ。
硬質的になるアレロア様を始め見た。
間違いなく聞いてはいけない事だったのだ…。
『大森林』には触れてはいけない秘密がある。
肝に命じて、私は自分の商売人の全てを賭けて薬屋作りに励む決意した。
これはそれだけの価値がある。
この『基本的薬』はこの世界の沢山の人間を救う。それは我々庶民の夢。
病や怪我を恐れない日々。
(本当だろうか?疑心暗鬼な気持ちも起こる。だが、それもこの先に起こる事件で一層するが…)
私の全精力を傾けた[森の薬屋]。
それは後に大繁盛をする。
(ま、当然だろう…扱う薬がアレなのだ…商人としての醍醐味はないが…)
私はレサンタ国の店全てを弟子に任せて完全なる移住を果たした。
独立村『バーラド』の住民となる為に…。
ージェマ視点ー
丸鳥が運んで来た手紙の内容は、我々の作戦を根底からびっくり返すものだった。
まずは。
ルスタ国によるサイラスの監禁と拷問。
(これには、アレロアが大激怒で大変だった。あの国は彼には鬼門なのかもしれないな)
デルタライト王の亡命。
クーデターが本当だと分かった後の行動は素早かった。
それほど、我々はあの王に期待していたのだ。
怪我して瀕死の状態だったらしい。
(森の魔女が助けたというが…)
アーノルド王子の失踪。
それは、あの秘密主義のルーベントでさえ発表したもの。
だが、なんと『大森林』にひょっこりと現れたと言うのだ。
『彼はいつもの調子だった』と手紙にはある。
だが、どうやら裏がありそうだとサイラスは読んでいた。
そして、最大の驚き。
フローラ様の消滅と異世界から招いたユキナと言う人物の内容は驚きに満ちていた。
それは、我々が今追っている『ゼロ』の行方が分かった事実より驚く出来事ばかりで。
今、『ゼロ』には重大な疑惑が持ち上がっている。
あの泉の秘宝…
『雪星の雫』が盗んだと言うものだ。
だが。
彼は自分の為には決して罪なることはしない。
もし、依頼されれば、どうだろうか?
。。。
アレはあの場所にあるべきもの。
それがない。
と、なれば…泉は枯れてゆくだろう。
そしてこのままでは…。
予想される重大な未来に、我々六人全員でことに当たっていたのだ。聖騎士として異例中の異例。
しかし努力も虚しく、いつまで経っても『ゼロ』の足取りは掴めなかった。
それが…。
『大森林』に別の人物を名乗って現れたと。
(その後の動きは、奇怪だとサイラスの手紙にあるが…それはこちらを油断される彼の手かもしれない)
アレロアは、焦る私に『森の薬屋』作りの重要性を理解させようと必死だ。
もちろん、私も理解している。
『大森林』は、無理に押し入る事の出来ない場所だ。我々の力を結集しても無理だろう。
だが…
どうしても『ゼロ』を捉え問い質したい。
あの泉は、我が故郷の近くなのだ。
気持ちが逸るのだ…。
だが、自体は思わぬ方向には転がっていくことになる。
ーリカルド視点ー
まただ。
ここに来てから頻繁にあの頃の夢を見る。
夢の中では、まだ元気な姿をしていた。
俺も笑顔を失う事なく、彼の隣で笑っていた。
あの頃は、お腹が空いてばかりだが楽しかった。
手のひらの中の『羽のカケラ』
手がかりはもう、これしかない。
最後に彼が言った言葉を頼りに生きてきたのだ。
『これがサヨナラじゃないから。
いつかまた…会えるよ』
消えてゆく彼の手を握りながら、俺は泣きじゃくった。
「嫌だ。嫌だよ!!どうすればば良いの?お願い、教えて!!」と。
消える寸前に微かな声で。
『もしかすると、だいし…』
最後はよく聞こえなかった。
でも、俺はひたすら再び彼に会う方法を探してきたんだ。
諦めない。と!
だけど、ここは俺の記憶を呼び起こす。
だからこそ、上手く『ゼロ』の仮面が被れないんだ。
魔女ベラの秘密の部屋への侵入を試みるが…。
今夜こそ。




