化けの皮が剥がれた…。
ーとある王族の話ー
捕まった。しかも最悪の形での身バレだった。
元々、王族と言えど秘された身の上。兄上と呼んだのは一人きりの部屋でだけだ。それも影のいない状態で。
何故市井に暮らす僕が王族だと分かったかと言えば、王族特有の異能にある。何故異能があるのか、他にどんな異能があるのかは知らない。
一言だけ、兄上である陛下に言われたのだ。
「無限ではない。しかも力を使えば寿命も減る。それを承知で我が使命を全うする気はあるか?」と。
たった一度だけの優しい言葉だった。
周りの側近の人達は問答無用で、僕を母から引き離しココヘ攫って教育をした。
母の命があるのも、陛下のお情けだと。
王族とは言え、末端であり名乗りは許されぬと。(よくある女中のお手つきだった)
恩に報いるためにも使命を全うすべしと。
8才から王宮の隅でされた教育は厳しさの一言だったが、市井の頃の様にひもじい思いはしなかった。教育とは凄いモノで僕は段々と王様に尽くす気持ちをハッキリと持つようになったある日にあの言葉を貰ったのだ。
選択がゆるされる?!
しかも、危険を先に知らせてくれて…。
頭を上げて陛下を見た瞬間、僕は「やります。」と答え頭を下げた。
優しそうな眼差しの奥にある痛みに気づいたのだ。
異能は使えば、余波がある。
僕が一番分かってた事だ。
陛下の異能が何かは知らない。でもあの顔色から察するに恐らくは…。
その日、僕の迷いはなくなったのだ。
兄上のために生きると決めたから。
それなのに。
最後の一番大切な使命を大失敗するなんて…。
「ふふふ。お主らでも知らぬか。我が教典は古代魔法を沢山伝えておるのだ。その中には今は失われたカザエルやドルタの歴史なども含まれる。お主ら王族の異能も、それを破る方法もワシには造作もないのだよ。
破られたのだ…雪菜は元の姿に戻ったな…、
あの子娘には煮湯を飲まされたのでな…大切な用があるのよ。」
気色悪い顔で笑っている教皇にゾッとする間も気になるのは護衛として騙して僕を守らせていたゲラン達だ。あの傷では…。不安が募るも助ける術すらない。
「教皇様!!大変なモノを捕まえたとラザクがココへ参っております!!!」
その伝令が言い終わるや否や、男が一人入ってきた。手には小動物を携えて。
!!!
アレは…もしや…、
悪い予感は当たった。
「でかしたラザクよ。コレはこの地に住む水の精霊ではないか。此奴さえ捕まえれば『雪星の雫』を盗んだ妖精共に一泡吹かせられるぞ!!」
ゾッとする発言に、首を捻る。
我が国では精霊様は、『海の精霊様』お一人のはず。水の精霊様などいらしたのか?
「へへへ。ランザクを捕まえて雪菜を捕まえるはずが、コイツが引っかかったんでさ。コレと言うのも教皇様の御威光のおかげかと。」
ヘコヘコする男は嫌らしい笑みを浮かべて教皇に小動物を差し出そうとして押し留めされた。
「やめよ。精霊様をち、近づけるな。
ふう…ワシには少しばかり精霊様が眩しいのだ。とにかく、例の部屋に押し込めておけ。此奴と一緒にな。」
恐る様に精霊様から遠ざかると教皇は部屋を出て行った。
。。。
一つの仮説が湧き上がる。
もしかして…教皇は。。。
部屋に閉じ込められてすぐに理解した。
この部屋は異能が使えない。
魔法も、恐らく精霊様のお力も使えないのだろう。
薄暗い部屋に目が慣れた頃、精霊様と俺の他に倒れている人影を見つけた。
もしや…慌てて駆け寄って絶句した。
ゲラン達が無造作に捨て置かれていたのだ。満身創痍のままで。
意識はない。
脈も弱い。
異能を封じられた俺は、単なる役立たずだ。
助けたい…でもどうすれば…。
その時、声が頭の中に響いた。
『ほう。利用するだけかと思えば助けたいと。本心であろうな?』
精霊様の前に慌てて跪く。
頭の中に声がする…即ち精霊様だ。
跪く前にチラリと見た小動物の姿のままの瞳が、何故か僕には恐ろしく思えた。
『ふむ。封じられても無能ではないのか。ワシはな。姿を変じて力を誤魔化しておるのだよ。この者らをワシが助けよう。だが、騙していたのだ。彼らの憎しみの矛先を受け止める覚悟はしておるか?』
僕は頷いた。
出会った時から、雪菜がどんな存在か知っていた。恐らく護衛の三人よりも。そして彼女を誘拐する罪深さも…。
覚悟ならとっくに出来ている。
異能を封じられた僕に出来るたった一つの事だから。
『よかろう。
ゲラン・バレン・メゼル。目覚めよ、そしてその身を我の前に示せ。』
光が溢れて眩しさに目を閉じた。
目蓋にも感じられる光の乱舞が収まってようやく目を開けて驚いた。
精霊様の前に跪く三人は、傷ひとつない完全な状態だったからだ。
精霊様の凄さを感じたい瞬間にゲランが振り向いた。
「お主が、雪菜殿を騙っていた少年か。頭の中に精霊様より情報は頂戴したから事情は全て承知している。そこで質問に答えて欲しい。貴方は偽物になる時に、雪菜殿を害したのか?」
今まで感じた事のない三人からの厳しい目線に身体が勝手に震える。
聖騎士団員として優秀な三人の能力は特別だ。守って貰ってる時から知っていた。
だけど、対立して逆な立場になっての目力の強さに声が震えた。そしてそんな情けない自分がどうしようもなく嫌だった。犯した罪を逃れるつもりはないのに…弱虫め。
「雪菜殿は害していない。当初王宮へと拐う予定だったのだ。しかし、彼女に僕のチカラは及ばなかった。精霊の加護もないのに彼女は不思議な力で僕の支配下からスッと逃れた。」
謝らなかった。
やるだけの事はしたのだ。
謝って自己の罪を軽くするのは違うと思っていたこらだ。
しかし彼らの回答は全く想像していないモノだった…。




