オースティンの願いとは…。
ーオースティン視点ー
掴んだと思った瞬間、吹っ飛ばされた。
口に味わう苦味が内臓に何かあったと教えてくれた。
リュカ様。
あの日から、二度目の人生の全てを注いで来たのに最後に来て失敗するとは、情けない。
***
あれはまだ俺が自分こそが、オヤジの跡取りだと認めさせてやるとソレばかりに勢い込んでいた頃の事だ。
19歳の誕生日に、独り立ちをする我が家のしきたりに従って家を出た俺はルーベント・ドルタ帝国・ルスタなど各国を駆けずり回っていた。今こそ自分の力を示してみせると。
今までもレサンタで店を開いて黒字を連発していたのだ。
更に、印象を深めようと少しの無茶もヘッチャラで、いやそれどころじゃない。儲けの為ならば命すら張った。それこそが商人だとの歪んだ信念の下。
そんな、必死の俺に追い風が吹いたのだ。
それは、ルーベントの教皇に取り入る事に成功したのだ。
滅多にないその繋がりは、かなりの利益を俺に齎したのだ。
オヤジからも『中々やるな。だが焦るなよ。焦りは目を曇らせる元になるぞ。』と。
結局、認めているんだな。あの褒めないオヤジが褒めたのだ。(あの時…言葉の真意を理解出来たらもしかして未来は変わったのか…な…)
更に熱心になる俺にとある依頼が舞い込む。
それは…。
ルーベントの教皇からで「盗賊を紹介してもらいたい。それもとびっきりの。」と言うモノだった。
なんの事だ?
盗賊?!
聞いた瞬間固まった俺は、さすがに躊躇う依頼に断ろうかと思っていたら。
「ふむ。其方には無理かな。では別の者に依頼をするか。ま、若いのだから無理もない。」
その台詞に頭に血が上るのが、はっきり分かった。誰にも引けをとりたくない。その一心の俺は、とうとうその依頼を受けた。
苦労した。
闇の伝手を何回も何回も通して辿り着いたのが『ゼロ』だった。
経費は嵩んだ。闇のルートの伝手はバカ高いのだ。それでも依頼により金蔓は確実に手に入れた。
俺は、その事をただ、そう思っていたのだ。
ところが、だ。
その頃から俺の周りでオカシナ出来事が続いたのだ。
例えば、突然荷車の荷物が崩れて人が下敷きになる。幸いにも命に別状はなかったが、怪我人が出たとの噂からの転落は早かった。
金で繋がっていた部下達は、一斉に居なくなり何でも自分でやるしか無くなる。
だが、その頃の俺はそんな事すらかえって儲けを独り占めだと、喜んでいた。
だからだろう。あんな事件に遭ったのは…。
ある日、俺は大量の魔石を届けて欲しいとの依頼を受けたのだ。大口の儲け話に心は踊った。しかし、魔石は扱いが難しい。
本来ならば、魔法使いや騎士団の誰かに護衛を依頼するのだが。
魔石は、風の魔石を100個。
軽くする魔法を、掛けてある。そう言う契約だった。だから、俺は一人でも大丈夫と護衛もつけずに馬車を走らせた。期日がギリギリだったので町でも休まず、森も突っ切りひたすら進んだ。目的地ドルタ帝国に。
しかし天候が大きく崩れ出したので、さすがにこれ以上進めないと馬車を止めた所を数十人の盗賊に襲われたのだ。
「盗賊共!!これはお前たちの扱えるモノでは無い!!」そう言うが相手はせせら笑う。
「おめでたいねぇ。まだ分かんないのかい?アンタはとっくに地獄の窯を覗いたんだよ。
この魔石は囮さ。お前さんを始末する為の、さ。」
リーダーの男の言葉にギクリとした。
心当たりはあった。
教皇様…。
剣術も長く使ってないが、錆びてはいまい。騎士団に入れる位の腕前はあるのだ。一人でも多く道連れにしようと対峙すれば、意外にも戦いは長引いた。ところが、俺が半数は確実に倒したところでトンデモナイ飛び入りがあったのだ。
小さな女の子。
そう言えば此処らは小さな町の入り口近い。森だと安心していたが、薪拾いらしいその子に気づいたのは俺だけで。
弓矢で狙われた俺は、一瞬迷ったのだ。
避ければ、彼女は確実に巻き添えになる。
そして、その迷いは、俺の肩を射抜く事になる。
「きゃあー!!!」
血飛沫をあげる俺の怪我に彼女が、悲鳴をあげたのだ。
しまった…悪党に気づかれた。
「は、はーん。お前仏心を出したな。ま、それが命取りだ。さあ、目撃者ごとやるか…」
痛みに呻く俺にその言葉が、火をつけた。
せっかく助けた彼女だけは逃したい、と。
馬車に飛び乗り鞭を振るう。無茶苦茶な鞭に驚いた馬が嘶き駆け出す。暴走に近い俺の後を盗賊達が追う。
そりゃそうだろう。
魔石100個は本物だ。俺如きと心中などは依頼者にはあってはならぬ事だろうから。
そこが狙い目だった。
夢中で追いかける盗賊を彼女から引き離す事に成功したのだ。
代償は大きかった。
まずは転がる魔石の爆風で馬車が半分吹っ飛ぶ。馬が今度こそ、暴走して崖に向かって暴走する。
「お前、ヤメロォー!!」と叫ぶ声も遠ざかる。そりゃそうだな。このまま行けば崖下一直線だ。だが、もう失血し過ぎた俺に馬車を止める力も無い。
崖下へ馬と共に…。
フワッと浮いた感触がしたのは、気のせいか。
気づけば、木っ端微塵になるはずの俺は何故か崖下に一人寝ていたのだ。
全く訳がわからない。
そう慌てそうになる俺に話しかけるモノがいた。一人の男の子だ。
『あの女の子を助けた君を助けよう。だが君の本来の道筋は歪めてしまったよ。だから、もう君は人間ではない。それが分かるかい?』
優しげな声で言われた言葉は、内容はとんでもないモノで納得できるはずもない。
人間でない?!
歪めた?!
『僕の眷属っぽいかな?でも大丈夫。僕の道連れにはしないから。』
眷属と言う事は、もしかして彼は…。その上、道連れ?!
『うん。僕は精霊だよ。リュカと言うんだ。でもね、もうすぐ爆発する山を鎮めるためにこの身を使わなければならない。だから君をこの後導く事が出来ないんだ。ごめんね』
リュカ様?!
淡々と話す内容が、あまりの事柄で俺は自分の立ち位置を理解するまでかなりの時間を要した。
そして、やっと理解したのだ。
リュカ様に救われたこの命の使い道を。
人の理から外れた身だからこそ、するべき事を。
***
だからこそ、このまま倒れる訳にはいかないのだ。リュカ様をお救いする術は、ゼーラン様にもお会いして具体的に理解したのだから。
それなのに…。
光の精霊様の誕生を見届けながら失敗するとは。やはり人外とはいえ、所詮、リュカ様のカケラ擬きの俺には荷が重いのか。
気を失う寸前で思い出したのは、何故か雪菜の事で…。
『ひと目、彼女にもう一度会いたい。』
明るく笑う彼女が頭をよぎった。。




