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森に囲まれた!  作者: ちかず
209/233

『光溜り』と海の精霊


ーグレナガ視点ー


アレロアと言う聖騎士は思ったよりおかしな奴だった。時折、空を眺めてボソボソ喋っているところを見た時は完全にイカれたかと思ったくらいだ。


だが、奴の指針には不思議に不安がない。例えば、今がそうだ。

カザエルへは、当然ながら関所を通る一本道が近道だ。それを何故か外れて藪に入っていくのに躊躇いがないその姿に俺も何故か文句を言うのも忘れて従ってしまった。


それと言うのも、懐にある奴らが騒がしいせいだろう。

問題児…だな間違いなく。

アイツらは、出発の朝突如、ペンダントに変身していたのだ。

『ペーパーナイフ』『本』だったはずなのに、気づけばペンダントにぶら下がっているではないか。

しかも、見た瞬間、勝手に俺の首にぶら下がったのだからタチが悪い。


「アレロア。右に行きたい。」

ほら見ろ。今度は俺の口を勝手に利用して我儘ばかりだ。でも、そんな俺にアレロアは素直に従う。奴らの存在に気づいているのかもしれん。しかし、こうして共に旅をしてみると、魔法使いと言うのは誠に便利な存在だ。

藪を一瞬で切り拓くアレロアと共に進むのは何とも楽だ。

時折、目的地を尋ねる目付きで見なければ、尚更良いのだが。

全く…奴らに聞いてくれ。

とは言え、もう何時間も歩いているせいで、足は棒のようだし腹も減った。

それでも、どうしても進まなければダメな気がして足が止まらない。

横をチラッと見ればアレロアも魔法を揮い続けて藪を切り拓いているのに顔色一つ変えない。化け物か…聖騎士とは。


もうすぐ、日暮れだ。

足の豆が幾つも破れて血だらけの靴が歩きにくさを増す。それでも足は止まりやしない。

思わず泣きが入りそうになるのを堪えながら前に進めば人の話し声が微かに聞こえて立ち止まった。


「とにかく、これで5日になります。そろそろカザエルから戻り商売をしたいのですが…」


「分かってる。分かっているが見捨てる訳にもいくまい。」


言い争う声の方へ行きかけて、腕を掴まれた。振り返れば厳しい表情のアレロアが首を横に振った。

無詠唱で隠密の魔法に身を包んだ俺たちが進んだ先にいたのはどうやら商売人の様だ。


アレは…。

『何かご存知ですか?』小声でアレロアが囁く。どうやら遮音の魔法も加わっている様だ。随分と念入りだ。

アレは確か裏路地の小僧供の頭ではないのか?

『カラザという名のレサンタの小僧だ。しかし何でこんな場所に…』

『彼の持ち物から雪菜殿の気配がします。いったいあの子と何の関係が…』

なるほど、そう言う訳か。雪菜の知り合いだから、アイツらが…と思いつつ俺が一歩踏み出す直前に「そこに居るのは誰だ!!」と強い声がした。


「失礼しました。私は聖騎士アレロアと申します。」アレロアがフワッと前に出た。

魔法が破られたショックとか無いのか?!

世界随一の魔法使いだったはずだろ?


「あ、存じております。私は『森の薬屋』を営むフフサと申します。こちらはレサンタの大商人ラザンガ様のご長子で…」「単なるオースティンです。勘当されておりますので。」太った男は商人らしく人好きのする笑顔でこちらを見たが、もう一人は不機嫌丸出しで取りつく島もない。(まぁ、いつもの俺そっくりだがな…)



近づいてよく見れば木の根本に座り込んだカラザは、肩に巻いた包帯から血が滲んでいた。意識が朦朧としているのだろう。誰がいるかも理解しておらんな、恐らく。


「俺が盗賊に襲われている彼を助けたのだ。

あの一本道は、やたらと盗賊が出る。」

オースティンとか言うふて腐れた男が呟く。

アレロアはその説明の間にも治癒魔法でカラザの肩を治していた。


「だいぶ深くやられた様だ。血止めはしたが早急に休ませる必要があるな。」


「さすが聖騎士アレロア様。私も薬屋をしておりますが荷物を全て盗賊に奪われて。いやぁ、助かりました。」フフサとか言う男がやたらと汗を拭きながら話していた。


「おい、お前。胸元が光ってるぞ!」

突然、肩に手をかけてオースティンが胸元を指差した。

手を払い除けると、驚いた顔をした。

「無闇に触るんじゃねぇよ。」

俺のドスの効いた声に静まり返る。

一人全く空気を読まないアレロアがぽつりと呟く。


「向こうに何かあるのでしょう。ソレが導くのですから…」と藪へ向かったその時。

胸元から本が飛び出した。

ペンダントになっていた『魔剣の作り方』の本が丸い鏡に変化して飛び出したのだ。

しかも、その鏡に光が反射して一筋の光が真っ直ぐ藪の奥まで一歩の路を作っていた。


俺は立ち上がって光の路を進む。鏡は既に俺の首元から離れて、空中で留まっている。でも、進まなくてはならない。またもやそんな気がしたのだ(ペンダントのせいか、やっぱり…)


足を一歩前に進めば、足元の藪が左右に分かれて道を作る。何の魔法だ…こんなの単なる鍛冶屋のやる事じゃねぇな、全く。緊張からか、ゴクリと喉がなる。それでも光は更に強まるばかりで、進むしかない。数歩を時間をかけて進んだ先にほんの少し拓けた広場の様な場所が見えてきた。

まるで樹々や草花がその場所を避けたかの様に出来た広場には小さな水溜りがあった。


「アレはいったい…」

後ろから付いてきたアレロアの言葉に反応した様に水溜りからキラキラと眩しい光が反射する。


「アレは水溜りじゃない。光溜りだ。聞いた事はあったがまさか本当にあるとは…」

更に後ろから来たオースティンが震える声でそう呟いた。


チラッとアレロアを見たが、『光溜り』など知らぬ様子だ。俺とて長い間鍛冶屋として様々な書物を読んだが聞いた事もない。

何故、商人の長子がそんな事を知っているのか?

しかし当の本人は全く他が目に入っていない。ひたすら『光溜り』を見つめていた。

そして…

「ゼーラン様の仰っていた事は本当だった。」そう呟くとフラフラとその『光溜り』へ近づこうとしたのだ。が、その途端、突如起きた爆風によりオースティンの身体は近くの樹に激しく叩きつけられた。

「ぐぅっ。」呻き声と同時に口から血が吹き出る。慌てたアレロアが治癒魔法をかけるも顔は苦々しい。


「これでは誰も近づけぬ。しかしアレは意思を持つモノなのか?もしや…」と呟けば何と答えがかえってきた。


『そうだよ。アレは既に産まれたから。もう手出しは出来ないよ。困っちゃうなぁ…』


頭の上から突如響く声に全員の目が釘付けになる。


精霊だ。

しかも、青いその姿から察するに『海の精霊』だろうか。


初めて見る精霊の威圧感に、胃の腑が熱くなるぼどの圧迫感を感じて思わず膝をつく。


『カザエルに来るなら、絶対にソレを持って来ないでね。でないと大変な事になるよぉ?』チラッとこちらをニヤリと見てそう言った途端、またもや突風が吹き荒れ俺は必死に腕で顔を庇って蹲る。

やがて、息も出来ない風が収まって辺りを見回せば海の精霊の姿は消えていて『光溜り』だけが変わらずそこにあった。


「コレは我々人間が扱って良いものでは無いようです。海の精霊様の言われる様に、このままにして去りましょう。オースティン殿の容態もありますし…」そう言ったアレロアは既にオースティンを担いでいた。フフサ殿はあの少年の近くにいて良かった。怪我人がこれ以上増えては身動きが取れない。


俺は、アレロアの後に続こうとして樹に手をかけて樹が手を顔に近づければ、何故か濡れていた。何故だ?しかも、海の匂いがするような…。


こんな影響が出るとは、さすが海の精霊だと感心しながら俺がその場から離れると、ゆっくりと藪は静かに閉じていった。


だから、知らなかった。

あの鏡が『光溜り』から何かを吸い上げたのを。


そして、海の匂いのする本当の意味を。


いつの間にかペンダントに戻ったソイツに気づいたのは、苦労して二人を近くの宿屋へ運んだ後だった。その頃にはヘトヘトの俺がその変化に気づくハズもなかった。



ーサイラス視点ー


「どうだ、やったか?」

地面に倒れ伏す人間を跨いで近づけば、剛腕と盾で盗賊の殆どを鎮圧してゲランが頷いた。


「サイラス様。今、魔蝶で知らせを飛ばしました。拘束は私がしますからお早く雪菜殿の元へ。」メゼルの言葉に有難いと頷いてバレンと共に安全地帯へと逃げ延びた雪菜殿の跡を追う。


ゲランも隣をひた走る。さすがはジェマの鍛えた戦士だけあり、息ひとつ乱れていない。


「サイラス様。このところ、あまりに盗賊が多くありませんか?まるで薬師を狙っているかの如く。この国に異変が起きているのでしょうか?それとも…」


敢えて伏せた言葉に心当たりはある。

雪菜殿の事だろう。

バレたのだろうか…我々の存在が。


敵は…妖精のハズ(『雪星の雫』を盗んだ妖精は確かにこの国に居るのだ)。

何故、人間の盗賊が狙うのだ?

疑問は募るばかりで。


やがて追いつくと、バレンに文句を言っている雪菜殿を発見した。これもいつもの光景だ。


「遅くなりまして申し訳ございません。盗賊は全て退治致しました。」


「遅いわ!!あんな盗賊などゲラン一人で充分よ。私、サイラスは近くにいて欲しいのに。」


その言葉が、何故か嬉しく思えなくなっている自分に腹立たしさと違和感を覚える。

それでも、そんな自分を押さえつける様に胸に手を当て跪く。


「申し訳ございません。次こそは…」と。

だが、心の中では、ゲラン一人では無理だと判断すればまた、離れるしかない。と呟いて。


「もう、いいわ!!早く宿屋へ連れて行ってね。疲れちゃった。」

怒りながら歩く雪菜殿の後を追いながら、ゲランが済まなそうな顔で頭を無言で下げてくる。

俺は静かに首を横に振る。


無言のまま、宿屋へと向かう俺の目に丸鳥が空高く飛んでいるのが見えた。雪菜殿の遥か頭上を超えて飛んでゆく丸鳥に、ふと、ついて行きたい様なそんな心持ちになる。


疲れているのかもしれない。

結局、いつもそんな結論のまま終える…しかない、のだ…。

寝ずの番を交代でしながら、そんな事を考えつつ夜は更けて行く



俺たちの宿屋の上を丸鳥が何回も旋回していたのを知らぬまま…。







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