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森に囲まれた!  作者: ちかず
207/233

異世界にもタコ坊主っているの?!


ー雪菜視点ー


井戸を覗いた。

深い井戸には殆ど水がない。治療には真水の存在が不可欠なのだ。

もちろん毒が撒かれたのだから使えないのは承知の上だ。でも浄化すればと、微かな希望を持っていた私を砕いたのは毒ではなく水不足だった。


まさかここまで『雪星の雫』が行方不明な事が影響してたなんて。

絶句する私に後ろから声がかかる。


「井戸が悪いことんじゃないんだ。だって、俺たちは元々川の水を使って生活してたんだ。それが今では頼りはたった一つの井戸だけになったんだ。そんなのどだい無理なんだよ…」


ケリー、いつの間に。

あの時、ケリーが町に戻って魚屋さんと共に走り回ってくれたから、早急に町の人々の治療が出来た。

町の人達はケリーの言葉に耳を傾けてくれたから、沢山の人を助けられたの。そのお陰で殆どの人は軽傷で済んだけど…。中にはまだまだ予断を許さない人もいる。 

ケリーだけじゃない。ベルンの転移魔法も欠かせなかった。だって、私の手持ちの薬草は少なくて圧倒的に足りないから。それを補う為にあの森へとベルンに転移して貰ったのだ(更に言えば、ラドルフと居たあの小屋の近くには私の植えた野菜や薬草が沢山あるから)


「どうして川の水が干上がったの?」とケリーに尋ねたらキョトンとした顔をした。

だって、渇水以外で川の水が使えないなんてあり得ないし。


「え?干上がってないよ。川には沢山の水が流れてるよ。口で言うより見た方が早い。こっちに来て!!」

そう言うなりケリーが私を強引に引き摺ってゆく。

暫く歩くと(海?)と勘違いする程大きな川に到着した。何せ向こう岸が見えない。

え?何故??

余計に混乱した私はとにかく川に近づいてそっと水を掬って口に含もうとしてちょっと固まる。

やっぱり…無謀かな?


「大丈夫だよ、毒とかじゃないから。」

ケリーが私の心中を察してそう声をかけてくれたから、安心して一口飲んだ。


「うえっ!!ペッペッ。。これって塩味じゃないの?しかもめっちゃ濃い味だけど生き物は無事なの?」


海の水どころじゃない。

喉が痛くなる程の濃さとか尋常じゃない。


「生き物はもう見かけないよ。こうなったのは数年前からで原因は分からないんだって。

偉い人が沢山来たけど、ダメだった。原因も解決法もないんだ。」


人は水がなければ暮らせない。

『水守り草』があれば…せめて種だけでも。


『無駄な事だ、雪菜よ。』


いつの間か蜥蜴が居た。

悲しそうに川を見つめる蜥蜴にハッとした。

もしかして、本当は山椒魚だった?!真水無しでは生きられないもの。


『雪菜、そこじゃない…。』

呆れた声でそう言う蜥蜴に名案を思い付いた。真水をかければ山椒魚に戻れるかも…と算段をしていた時の事だった。今度は後ろに新たなる人発見。ベルンだ。


『ベルンよ。手筈通りに。』と蜥蜴が言った途端、バレンさんに腕を掴まれた。あ、転移の前触れだ。

咄嗟に身構えたけど、結局ぐんにゃりする感覚は転移にはつき物らしい。うーん、意外に苦しいのよね。


目の前に広がる風景にちょっと感動中です。


海,海,海ーーー!!

ざっぶーん。

日本語で言うと何か迫力がないけど、波飛沫を上げて砂浜に打ち上げるその光景は懐かしい海の風景なのよ!!

しかも、南国を思わせる真っ白な砂浜はどこまでも続き、真っ青な海原は広がる空飛ぶ相まって美しい。あぁ来て良かった。。


ん?


何あれ…変なモノが海に浮いてる。

波間に見えるのはタコ坊主かしら。こっちの海にもタコ坊主がいるの?

尋ねようと振り向いてびっくり。

後ろに立ってたベルンさんの様子が一変してるから。あのいつも自信満々なベルンさんが、顔色を完全に失って立ち尽くしていたから。いきなりの憔悴って何があったの?


悲しげに見つめる先は、もしかしてあのタコ坊主?だとすればアレは魔獣なのかしら?


『違う。海鬼(カイキ)と呼ばれるモノだ。そう雪菜の予想通り靄鬼と同じモノなのだよ。ただ、一つ違うのは海より陸へは上がって来ないので人間には影響はない。今のところ…な。』


人の肩を定番位置にする蜥蜴にそう言われて、改めて海を見て絶句する。

タコ坊主じゃない海鬼の数の何と多い事か。

もしかして、川の塩害もこの影響なんじゃ。

悪い想像は簡単に広がってゆく。最悪の事態を思い浮かべながら立ち尽くす私は海へと近づいてみる。


「危険です、雪菜殿。お下がりください!!」


え?危険なの?だって人間は襲わないって言ってたのに。


『海に近づかないから危険ではないと言ったのだ!!そんな馬鹿がいないから…あ、お前後ろだ、後ろ!!』


沖合にいたタコ坊主がいつの間にか波打ち際まで来ていた。ギロリと目つきの悪いタコ坊主が沢山ある足を伸ばして来る。恐怖に引きつる私の目の前で足がめっちゃ伸びてるんですけどーー!!!


慌てたとて、反射神経が1評価の私が気がついて反転して走り出した時にはもう既に遅し。身体に巻きついた足が締め上げにかかってる。「やめてー!」と叫びたくても、痛いし、苦しいし息が出来ないから声も出ない。必死に藻搔いても全然足が外れない上に更に絡まってくる。

藻がく私の目に助けに入ろうとするベルンさんが見えた瞬間、砂浜が遥か下に見える。

腕を振り上げたのか、と苦しい息の下で意識が朦朧としかけた時『ヴッッ』と呻く声がして私の身体が空高く舞い上がった。


「雪菜殿ー!!」

叫びと暖かな腕の感触に包まれた。

『グワァー!!!』

ドス黒い叫び声を他所に私の近場では「雪菜殿、雪菜殿。しっかりして下さい!!」と天使様のドアップが迫ってくる。


よく頑張ったわ、私。

天使様に抱かれる夢を見るなんて…気絶して良かった。

「いや、気絶とかしてないから!!しっかりしなさい。目を見開いて、海鬼を見なさい!!」


天使様=ベルンさんの声にギシギシと痛む身体を起こして海の方を振り向けば。


のたうち回る海鬼の姿が見えた。

その姿は真っ黒い身体からタコどころか無数に伸びる腕が不気味な黒靄を放ち金色の目がギロギロと左右を見ている。


「トドメを刺さねばならないのですが、コレに効く魔法や武器がないのが現状です。だから」と言いかけたところで海鬼が急に萎んで干からびた。


残されたのははぁはぁと荒い息で海鬼を見つめる私と抱きしめたまま固まるベルンさんだけ。気づけば既に空気に溶けるように海鬼の姿は無くなっていた。


『お前、懐に何を持っている?!』

またもやの怒声に振り向けば、今度は蜥蜴!!

良かったぁ、無事だったのね。人の肩の上を定位置にしてたから心配してたのよ。


『懐のモノを出せ!!』


もう!!そんなに怒る事ないのに、機嫌が悪いわね…そう言えば蜥蜴ってば黒っぽくなった様な気がする。

懐にあったのは、単なるお茶っ葉。更に言えばどくだみ茶です。だって、ラドルフの家にはお茶が無いから作ったのよ(家の周りに沢山あったから…安上がり万歳!!)


『お前、寄越さない気か!!』

わっ!!

突然、蜥蜴が私のところへ突撃して来たから持ってたどくだみ茶投げちゃった。


『うぅぅ、頭が頭がぁ』と言って蜥蜴が固まっちゃった。え?蜥蜴はどくだみ茶が苦手だったのね。急に来るからごめんね。


「ヴァイ様!!」

ベルンさんが慌てた様子で蜥蜴に駆け寄る。

嫌よ、まさか…無事よね?


「ヴァイ様。ご尊顔を拝し嬉しく存じます。」


へ?

この少年どこから来たの?まさか…さっきの蜥蜴=少年?!


「そうです。雪菜殿のお陰でヴァイ様は本来のお姿を取り戻されました。何と……お礼を申し上げれば」震える身体で俯いてそう呟くベルンさんの声は確かに泣き声だった。


とは言え、ついて行けない。

疑問が次々とわく私に気づいたのは蜥蜴=少年で。


『まずは礼を述べよう。我が名はヴァイ。この地の水の精霊だ。ある事情で消滅寸前だった私が蜥蜴に姿を変える事で何とか生き延びていたのだ。だが、それでも力尽きようとしてた時、あの町でお主に出会った。お主のお陰で僅かに力を取り戻した我が、今また完全復活したのは恐らくは先程の『どくだみ茶』とやらのお陰だ。』


なんと。水の精霊様だったなんて。

ペットにしようかなとか考えてたのを口に出さないで良かったぁ。


『ふむ、ペットとな。其方は日頃から色々とダダ漏れだ。自覚するが良い。我も海鬼の事も『どくだみ茶』の威力とみて良いだろう。何故効くのかなどは今はまだ不明だがな。』


立ち直ったベルンさんが私の前に跪いて胸に手を当てて頭を下げた。


「我が忠誠、我が生涯をかけて貴方に捧げます。ヴァイ様を、この地をお救いくださり厚く御礼申し上げます。」


忠誠。

そんな『どくだみ茶』如きで大袈裟な。


『いかん、ベルン。ベルサの町で人騒ぎおきておる。戻るぞ。』

少年のその一言で私が姫抱きの刑に合うのは異論があるけど今は全身が痛くて抵抗出来ないから受け入れます。。

予断を許さない患者さんが気になるし。


転移で戻った途端、テントの中が満員だったのでぎゅっとなり思わず「むぐっ。」と唸った。


なに?

この人達、全員患者さん?!

押し寄せる人並みにびっくりして固まった。町中の人が来ちゃったんじゃない?!


急展開続きで、疲れと焦りの中にいる私には、状況が全然掴めなかった。

もし、ベルンさんの顔を覗き込んだから一発で分かっただろうに。


でも…。

天使様の満面の笑顔で撃破されてたかも…ね。





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