恩人の行方を追って…
ー雪菜視点ー
「こんな所に隠れてるおるとは、流石に気づかなかったわ。しかし、お前もこれでお終いだ!!」
悪役ぴったりのザルグフとか言う奴のニヤけ顔がこちらを向く。
ビクッとする、私。昼間の事まで因縁をつけられたら…。
「なんだ?小姓だけ連れて逃げて来たのか?やっぱり腐っても生まれは誤魔化せぬという訳だな」
どうしたんだろう。
苦虫を噛み潰したよう表情で黙り込むラドルフさん。体格から見て戦えば絶対勝てるのに何故諦めているの?
「私は従うからこの子は離してやってくれ。迷子を拾っただけで家の者ではない。本当だ」
ラドルフさんが出口に向かって私の肩を押す。行けって事だと分かる。素直に私がドアへ向かう。
見捨てるんじゃない。
好機を狙う方が良いと理解してるから。
心の中で何度も言う事を聞かせるように呟く。
「フン。追われている身でありながら呑気なものだな。連行しろ!!」
両手首を身体の前で縛られて乱暴に連れてゆかれる彼を家の外から眺める。
必死に目が合うのを望むけど無理だった。
あの家を見た時から思っていた。
二週間一緒に居たもの。
訳ありだ、と。そんな気がしてたの。
嫌な奴第一位が彼を連れ去ってから、家の中へと戻る。部下らしき奴らが家中を探してたけど見つからなかったみたい。
あ、お金は全部盗まれてる。
でも、薬草までは分からなかったみたいで無事だった。これさえあればきっと。
ボロ布の鞄に薬草と僅かに無事だった食べ物を詰めて彼の後を追う。
え?もう見失っただろうって?
いえいえ。ちゃんと目印つけましたとも。
光苔…。何故か私の目にしか見えないアレ。
どうやら精霊とか妖精が見える人のみ見えるらしいの。
しかも、残像がいつまでも光って残る便利グッズ!!
トイレ用に私が家の周りに沢山植えておいたのよ。夜中のトイレが外とかマジ無理だから…。
私は少年になってるから、いつもより足が早いの。この変装は碧ちゃんが協力したから肉体改造まで完璧でこんな時は有難いわ。
待っててね、ラドルフさん。
私のカザエル唯一の仲間!!!
満点の星空の下を必死に次の街へと走り出す。奴らは宿屋に泊まったみたい。
私も薬草を売りに行かなきゃ。
サイラス達。
今どこで何してるの?
あの子、とまだ一緒?
もう、あの子が雪菜なのかな…。
ねぇ、サイラス。
貴方もこの星空見てるかしら?
ーサイラス視点ー
頭の中がぼんやりするのを顔を叩いて戒める。カザエルに来てから、どうしてもこんな風になる。
それにしても雪菜殿の様子がオカシイ。
王城へ行く気力が沸かないのか、寄り道ばかりしている。
確かに珍しい薬草が多いが、カンドリの事もある。焦りこそすれ何故、ゆっくりしようとするのか。
やはりあの噂は本当だったのか?
妖精や精達に異変ありとは。
彼女は祝卵様や砂漠の精霊とも繋がっている。全く姿を見せなくなった彼らを心配しているのかもしれない。
「ねえ、サイラス。
次の街で薬草を売りたいの。いいでしょ?」
ぴったり密着してお願いされるのは、中々毎回ハードな事だ。彼女らしくないこんな態度も不安が大きいせいなのか?
嬉しさよりも動揺や疑念の方がどうも湧いてくる。雪菜殿にこんな不敬な考え方をするなんてやはり俺も疲れているのかもしれない。
カザエルの町は小さいものが多い。
大きな街は港町と王宮のある王都くらいで、あとは宿屋なども二軒有れば良い方だ。
「あ、あったわ、サイラス。あそこに売りに行っても良い?」
駆け出す彼女に即座にゲランが寄り添う。
この国に来てからは、ゲラン達も休む間もない。変装も解いてはいない状態での対応は他人の振りしての警護になる為とても良い難しいのだ。
それにしても、何故彼女だけ変装が解けたのか?
店内に入ると彼女と店主のやり取りが聞こえる。
「だから、コレはいらねぇって言ってるだろ!」
「なんで?コレはカフの種よ。滅多に手に入らない薬草なのに…。」
「大量にあんだよ。しかもアンタより安く仕入れたんだ。この辺りじゃまず無理だな」
「そんな…」
雪菜殿が絶句したのを見て割って入る。
「ご主人。この方の作る薬草は同じものでも品質が違います。見比べるて下さい。どうですか?」
その言葉に、雪菜殿も元気を取り戻してこちらを見た。
片眼鏡を出して、主人がじっくりと眺めている。
唸り声が聞こえる。
やはり、雪菜だ。他の人間とは出来映えが違うのだろう。
「いや、ダメだな。こりゃ仕入れた方がよっぽど上質だよ」
えっ。
うっかりと俺まで絶句してしまった。
まさかの一言に、雪菜殿は足早に店をでる。
「田舎だと見る目もないのね。残念だわ」
とても小さな独り言だ。
だが、俺の訓練された耳はそれを拾ってしまった。
その言葉は、氷のカケラを流し入れられたようにヒンヤリと滲みた。
店から出た瞬間、雪菜殿の姿が一瞬別人に見えた。まるで男の子の様に。
変装してあの姿ではない。
何故か痩せこけた少年の様な姿に見えたのだ。ほんの一瞬だが…
「サイラス!!
ねぇ、聞いてるの?もう薬草は諦めて次の町まで行きましょう」
軽やかな足取りの彼女は、やはりいつもの雪菜殿だった。
思い過ごしに違いない。
彼女の背中を追いながら、ふと変装した男の子の姿を思い出そうとして気づいた。
記憶にない。
俯いて考え込む俺を振り返った雪菜殿が、何故か眉間に皺を寄せていたのには、誰も気づかなかった。
次の町へ着いたのは、もう日暮れた後で。
空には満点の星空だ。
ただ、疲労感が募る我々には、それを見る余裕もないままだが。




