コスプレって危険です?!
ー雪菜視点ー
「おい、チビ助。そこをどけ!!」
大柄な男の人が、道端で草摘みをしていた私を突き飛ばした。
元々鈍臭い私は、当然膝小僧から血を流す羽目になる。
「無礼者めが。このお方は領主スベルタ様の又従兄弟…」
長いので割愛。
要するに偉い人の関係者である。控えろ!!という訳らしい。(ま、かなり末端らしくてまだ続いてるけど…)
私は慌てて縮こまって平伏した。
偉い人に逆らうのは不味い。彼に迷惑かけちゃうから…。
「まぁ、よい。コヤツも震えて跪いたのだ。
お前、ワシの恩義を決して忘れるなよ」
私の頭の上に満足そうに大柄な男が呟いた声がした。私の目線はぶつかった男の足元のままで。
やがて、その場から足が消えてやっと顔を上げれば.…だれもいない。
ふぅ、良かった。
あ!!
そう言えばアイツ、私の薬草袋を蹴り飛ばしたわよね?!
むぅ。嫌な奴のランクキングが今、入れ替わりました!!
ザルゼが二位に落ちた。
今、一位になったのは…えーっとなんだっけ。
そうだ、ザルグフとか言う大男が一位に急浮上しました。
パチパチ…。
そんな頭の中の復讐大会を開きながらも、手は動かす。散らばった薬草の土や汚れを叩いてもう一度袋に仕舞う。だってどれも貴重な薬草ばかりだから。
カザエルって、本当に珍しいモノに溢れている。
来て良かったぁ…たぶん……
大丈夫よ。
今は、ひとりぼっちだけど、きっと皆んなにまた会える。
でも、
なんでこうなったのかな、私。
変装がうま過ぎたせい?
あの時…
***
「カザエルに入国する手形はラザンガ殿より手に入れましたが、不安が残ります」
サイラスの言葉の続きはこうだ。
カザエルはどうやら、雪菜を探しているらしい。それも王家直属の騎士団が。
そうなると手形ありでも問答無用で王城へ連行されると言うのだ。
「でも。それならかえって好都合じゃない?王様に直談判しに来たんだもの」
「雪菜殿。カザエルは今までの国とは異なります。王家への忠誠心が異常なのです。遥か昔、海の精霊はこの国の王家の祖に助けられました。そこで礼にと契りを交わしました。
コレがカザエル王家発祥ですが、余談があります」
バレンの説明に頷いていたら、最後にきて言い淀むの?何で?怖い事??
「いいえ。恐ろしい事ではないのです。ただ、精霊信仰のある我々にとり不敬にあたるのものなので。確たる証拠はないのですが、契りが失敗して王家と精霊が混じり合ったと言われています」
混じり合う…もしかして、結婚?!
「混じり合うの意味は解釈が色々あるので省きます。ただ、それにより雪菜殿の扱いが乱暴なモノになる可能性があるので出来れば秘密裏に入りたいのです」
そこで、私の名案が登場した訳。
『変装』今風に言えば『コスプレ』
三十路の暴走?いや、単なる作戦だし!!
(。。。)
とにかく、各自が変装した訳。
私は、村の少年で荷物持ち。
バレンはレサンタの商人。
ゲランはバレンの護衛として雇われた冒険者。
メゼルはルーベント教徒で馬車の持ち主。
(お布施を貰って商人に馬車を貸してます…)
そして、サイラスはあまりに顔が売れているので同行せずに隠れてついてくる。
だったのに。
碧ちゃんがめっちゃ張り切ったせいで。
『面白い〜。じゃあ、本当に顔ごと変えてあげるねぇー!!』
って。
いや、本格的なコスプレヤーデビュー?
見慣れないお互いの顔の確認をしながらも、関所を超えてやっとカザエルに入ってホッとしたその時。
あの子が、現れた。
そう、私によく似たあの子が。
「サイラスー!!
碧ちゃんが元に戻しちゃったの。助けて〜」
って言いながら隠れていたサイラスに抱きついた。
「雪菜殿!!」抱きとめるサイラス。
え?
ええ??なんで…
反論しようにも私…。
声が出ない。
動けない。
その上、誰の目にも私が見えていない?!
えっ?なんで??
その時。
私によく似たあの子がこちらをチラッと見た気がした。
サイラスにしがみついているハレンチな私(に似たあの子!!)に赤くなったり青くなったりしながらも目が合った。
どうして…。
そんなに悲しい目をしているの?
一瞬だったと思う。
皆んながよく似たあの子と共に去った後も、固まったままの見えない男の子の私は、夕方まで道端に座っていた(動かなかったとも言うけど…)
やっと動けたのは、薄暗くなってから。
荷物も何もない、真っ暗な道端に1人。
詰んだ。
これ…完全に詰んだ。
と、思ったら。
「坊やどうした?迷子か」
おぉ、親切なお爺さん…と振り向けば、またもや出た!!イケメン?!
「あの、連れと逸れてしまって」
たぶん、私が涙目で情けない顔をしていたからだと思う。言葉にした途端胸がいっぱいになる。
泣くつもりなかったんだけど…。
謎のイケメンは私を抱っこして家へ連れて行ってくれました。
マジ、神!!
で、到着した彼の家はすごかった。
。。。
いや、めっちゃ汚部屋でも、隙間風だらけでも文句なんて言いません!!
ひたすら有難いです。
例え寝床にカビが生えていても。。
この人、どんだけ無茶な生活してるの?
病気になるよ?!
「お前、名はなんと言う?」私を下ろした彼が優しく尋ねた。
は!!名前の設定なんだっけ。
えーと。えーと…。
「サイです…」ごめんなさい、ちょっとお名前借りました(サイ村長、ごめんね)
「サイ。この辺りは夜は魔獣が出る。事情は分からないがとにかく一晩はここにいろ」
そう言うと台所からおじやを持ってきてくれた。ちょっと勇気のいるお碗を受け取って食べてみると。
美味しい…。
笑顔になる私に「口に合ったようで良かった」と笑ったイケメンにそう言えばと尋ねた。
「あのー。貴方のお名前聞いてもいいですか?」恩人のお名前聞くの忘れてだなんて、相当追い詰められてたんだわ。
「そうか。名乗ってなかったな。
ラドルフ・フォ…ゴホン。ラドルフ・ガードナーだ。ラドルフと呼んでくれ」
この人、今『フォン』って名乗ろうとしたわよね?確かそれって貴族とか偉い人じゃ?
明らかに不審者っぽい態度に私も合わせる事にした。
「年上なのにラドルフさんって呼んでいいの?」少年っぽいよね?
「あぁ、もちろんだ。さ、汚くて悪いが安全は約束する。休んでくれ」
***
で。
今ここ。。。
「遅いから心配したぞ?どうした、何かあったのか?!」
駆け寄るラドルフさんの焦った様子に首を横に振る。
「ちょっと転んじゃって。
でも、貴重な薬草沢山ありました。これで明日は沢山食べ物買えますね?」
そうなんです。
あの後、この家にご厄介になってます。
でも、耐えられないーー!!!
汚部屋脱出ーー!!と。
一念発起して掃除をした後、どうしてこうなったか聞いたら。
不器用なラドルフさんはお金儲けがめっちゃ苦手らしい。
そこで薬草売りをして食べ物の確保をしてるの。もちろん、家の周りに畑を作ってます。
碧ちゃんも砂漠の精霊もいないから、細々。
収穫はまだ先ですが…
「サイ。嘘はダメだ。
誰にやられた?」
珍しく厳しい顔のラドルフさんに事情を話したら。
「そうか」と言ったきり黙ってしまった。
「今日は、好物の里芋が取れたから美味しいお味噌汁作れますよ?」元気づけようと明るい声を出したら。
私の頭を撫でながら笑顔になる。
ま、眩しい!!
ラドルフさんは髭だらけなのを剃ったらきっとめっちゃイケメンだと思う。
その夜はそのまま暮れて行くと思っていた。
でも…。
あの男。
ザルグフが夜遅く、再び登場する事になる…。




