朝ごはんは、まさかの魚?!
ー雪菜視点ー
翌朝、朝ごはんの前に起き出した私は宿屋の中で一番安堵する台所へと向かった。
昨日、今日だしゲランが寝ずの番だったみたいだから美味しい飲み物でも入れてあげようと思ったの。
私が入れるお茶好きだから。
ところが。
台所が、何やら騒がしい。
どうしたのかしら?
「あ、これは雪菜様。おはようございます。今は取り込み中でして」
出入り口にいた下働きの少年が汗を拭き拭き説明してくれる。料理長はと見れば、奥で怒鳴り声をさせている。
うーん。気になる。
「気になりますか?私がおりますので奥へ行かれても安全ですよ」ゲランの助言で奥へと進む。少年もゲランと一緒ならと。
(ゲランってば、私の性格バッチリ掴んでるわね)
「だから、腐ってるだろ!」
「でもね、魚ですよ。無理に決まってる。それを料理長が変に張り切るから!!」
「昨日の夜、魚売りが来たんだ。貴重な魚だぞ!!こんなチャンス逃す訳ないだろ!!」
なるほど。
レサンタだけに合って、カザエルから魚介類を仕入れられるのね。
「雪菜殿。レサンタと言えど魚の流通は滅多にありません。何せすぐに腐りますから」
んん??私の頭の中身がバレてる?!
ゲランのツッコミにオタオタしながらも。
「料理長。魚の具合を見せて下さい」
「ウルセェ!!余計な…あ、雪菜様。。」
おぉ、さすがの迫力。
でも、私の後方のゲランには負けるわね。
「私、魚に興味があって。ダメになってるなら要らないでしょ?」
渋々出してくれたのは、確かに腐敗臭のする青魚。これじゃ無理ね。
でも…。
「あのー。魚ってコレだけ?」
料理長は肩を落とす。
「コレもとても珍しいんでさ。魚自体滅多にこの国には入荷しませんから。あー、昨日の男がもう一度売りに来ないかなぁ。。」「ごめんください」
最後に声が重なり合う。
もう一つ声の方を見れば裏口に佇む男が一人。
「あ、昨日の魚売り!!お前もしかして新しいモノ仕入れたのか?!」興奮気味の料理長が聞けば「あ、あります。ちょっと変な魚ですけど」「何でもいいよ。買うから!!」
おぉ、なんてラッキー。
懐かしい魚料理が食べられる?!
超嬉しいーー!!!
それにしても、不思議な雰囲気の魚売りね。
何となくガタイがいいし。
テーブルに並べられた魚を見て料理長が肩を落とす。
「お前コレ食えねぇモンしかねえよ。持って帰れ」
見れば、確かに外道と呼ばれるグチやエソに似てる。そうかこっちでは食べないのね。
「あ、私が買います!!」
「「雪菜様。これは…」」いくつもの反対の声を無視して
「じゃあ、見本を作るわ」
蒲鉾作りを始めた。
三昧に下ろして、身を叩いて粘りを出して洗って絞る。木切れの上に載せて蒸せば…ほら?
色は悪いけど。どお?
「これは美味しいです」
最初の味見はゲラン。
他の人はちょっとびびってたの。
次々と口に入れては絶賛してくれる。
何故か魚売りまで絶句という名の賛美をくれるし。
ちょっといい気になった私が魚知識を披露しまーす。
「青魚は開いてアルコールで洗って干す。
干し魚にすれば長持ちします。それに加工すれば腐りにくいから運ぶのにも便利。ね?」
あら?
何か変な雰囲気。。
「なるほど。これが魔女の実力か…」
あら?魚売りさんがブツブツ言ってる?
お口に合わなかった?
「ごめんなさいね。お口に合わなかったのね。お口直しにコレ持って帰って。ホットケーキよ。コレは甘くて美味しいと思うの」
魚売りさんは私の顔をマジマジと見て頭を下げて「ありがとうございます。頂戴します」と言うと裏口から帰っていった。
あら?
その隙に、何か戦いが起きてる?!
味見の取り合い?!
ゲランが必死の顔で止めてるわ。
ま、そりゃここには武器には困らないものね。
でも、久しぶりの蒲鉾を口に入れながら思い出すのは課長の事。コレ食べたら感激するだろうな…と。
***
「なるほど。魔女の実力とは恐ろしいモノだな。本人がそれと理解していないと言うのが何とも。。
だが、彼女こそが我が国に必要な人間だと言うことだけはハッキリした。
まずは、精霊様と共に我が君のもとへ帰らねば…」
魚売りとは思えぬ目つきで宿屋を見上げながらそう呟いた。宿屋から伺っていたバレンの耳には声までは届かなかった。
ただ、魔蝶をヒラリと飛ばした。
彼の後をつけるために…。




