深夜の話し合い?!
編集致しました。内容にはあまり変化のない範囲での編集です。宜しくお願いします。
ーサイラス視点ー
「だから申し上げておるのだ。彼女はあのままでは危険だと。アレを知らぬからそんなのんきなのだよ、君たち聖騎士団は」
アレとは『カザエルの国宝』にして今は雪菜殿の所持品の石だ。この深夜の話し合いにいるのは、バレンと俺のみ。
あとの二人は、もう夢の中の雪菜殿の護衛だ。
「どこから手に入れたかは、私にも分かりかねるが。もし、コレにカザエルの騎士団が気づけば些か面倒な事になる。ソレは私も困るのだよ」
余裕のある態度を崩す事なく、話を続けるラザンガ殿はさすがこのレサンタにその人ありと言われた御仁だと感心きしりだ。
「まずは、何故彼女へ依頼されたのか理由をお話し願いたい」
端的になってしまったが相手には通じたようだ。
「せっかちだな、聖騎士ともあろう者が。ま、いいだろう。雪菜殿へ依頼したのは、彼女の力を試したいからだと言えば其方らは怒るかな?
我が国もルーベントほどではないが、困った事態が続いているのだ。用心くらいは許されるだろう。ま、依頼品が必要なのも事実だ。当然高値で買い付けをさせて貰うつもりでいる」
チラッと見ればバレンが微かに頷く。
任せて大丈夫だな?
「お話の途中ですが、私から一つ情報をお話しさせて下さい。
『雪星の雫』を盗んだ者たちの事です。当初はルーベントの教会関係者と特定されておりました、しかし…ルーベントはあの様になり我々はいよいよ『雪星の雫』へ手が伸びたと考えたのです。内部調査が不可能と言われたあの教会内部にせん…」
「光輝騎士団のバレン殿。そこまでは我々も既に把握済みだ。その先をお話し願いたい。私も暇ではないのでな」話を遮るラザンガ殿。
なんと…。自己紹介もしていないバレンの所属も名前も言い当てられギョッとするも、何故か面食らったのは俺だけだった。予測済みなのか、横槍ですら意に介さないバレンの落ち着いた態度に、さすが頭脳派 光輝騎士団のトップだ。イーサンは良い部下を持ったな。
「ここからのお話しは、固く他言無用で願います。誰が盗んだのか?そこが問題です。もちろんご存知の通り、アレは単なる盗賊には長く所持出来るものではありません。
そうなると…そうご想像の通りです。
アレは人間の仕業ではない。」
余裕綽々だったラザンガ殿の顔に僅かに緊張が走る。
なるほど、レサンタ随一の情報通でも知らないとみえる
「これこそがこの問題の最大の難点です。
ずばり申し上げましょう。
我々は犯人は妖精なのです。
信じられないかも知れませんが、事実です。
これはまさに妖精の反乱、そう言えるでしょう」
重い沈黙が流れる。
そしてこれは、妖精を友とする雪菜殿には到底言えぬ内容なのである。
***
ルーベント精霊教会は負けを認めた。そして戦いに決着がついたのだ。
あの後、俺とアーノルド、マティ等と教会内の捜索に手をつけたのだ。逃げ出して空っぽになった今こそチャンスだと。
無人の教会にあるのは、ガラクタばかりで金目のものは持ち出した後だった。だが、アレを持って逃げる訳にはいかないはずと、必死に捜索を続ける。
誰もが諦めかけたその時、異変を告げたのはアーノルドだった。
『気配が違う。人間では無い何かが…』
キョトンとする我々を他所にアーノルドが辺りの捜索を始めた。
アーノルドの様子がオカシイので観察したいた俺はある事に気づく。
何かを見つけたアーノルドの目が黒色から金色に一瞬変わったのだ。
ドキッとした。
恐らく気づいたのは俺だけだが、何故かその事は口に出来なかった。
『ま、まさか。妖精が悪意を持つなんて考えられない。そんな事が…』
叫んだかと思えば絶句するアーノルド。
その言葉に強い違和感を覚える。
何故わかる?
何故辿れる?
しかしそんな疑問を持ったのも俺のみのようだ。
『事の重要性を考えれば、この事を知る者は最小限に留めるべきだ。ドルタのギャビン殿。そしてルーベントのランゼルド殿。そしてこの場に居合わせた者のみで』
そう宣言したマティが突然叫んだからだ。
《テセレ》!!
なんと、沈黙の魔法とは…。
今のマティにはかなり魔力を消費するだろうが問答無用での使用だ。
この手の魔法は使用前に断るのが普通で。
マティの焦りを感じる。
妖精族を祖先に持つマティには『悪意のある妖精』など悪夢でしか無いのだろう。
***
「なるほど。しかし単なる商人の私にそんな大事な情報を流して良いのですかな?」まだ、ラザンガ殿には余裕があるのか。この内容たぞ?!まさかこの情報を掴んでいたのか…
ん?
よく見れば、彼の右足が小刻みに震えるではないか。なるほど。ラザンガ殿でもショックなのだな。
「あの薬草屋を見張っていたのは、貴方の手のもの。そしてカザエルの騎士団。最後は恐らく…」
トントン。
このタイミングでまさかの来客?!
「大丈夫です。秘匿の魔法をかけてありますから」と小声のバレンに頷くとまた、扉を叩く音がした。
「誰だ?」
「コックです。夜分にすみません」
まさかのコック。
何の用なのだ?執事のベルサークはどうしたのだ?
「サイラス様。緊急事態と判断致しコチラへ参上しました」ベルサークもいるのか?ならばと扉へ近づくと開けて彼らを見た。
そこには、かなり青ざめたコックとベルサークが立っていた。
「ご報告が御座います。夕刻に台所へ来られた雪菜様が作られたパンが」ベルサークがそこまで言いかけたその時。
ん?アレは何だ?!
まさか…パン?!
振り返ればラザンガ殿まで奇妙な顔で凝視していた。
「パンが屋敷中に溢れかえっております!!」
正確だが文章的には聞いたことのない台詞だ。
そう言えば夕刻、やけ食いをしたいと台所へ雪菜殿が向かわれたのは承知している。
何やらホットケーキなる代物を作られたとか。
『だって!!まさかのベーキングパウダーがあるんだよ?!作らなきゃダメ。ちょっとお使い物にしたいから沢山作るんだぁ』とか笑顔で言われてたが。
あれかこ
なんと。
廊下を見やれば、もうすぐ目の前には真っ白なパンがモコモコを煙のように膨れ上がりながら迫ってくるではないか!!
火魔法を使えば我らも無事に済まない。
どうすれば…。
「サイラス!!!
ごめんね、今回収頼んだから大丈夫だよーー」
寝ていたはずの雪菜殿の声が遠くから聞こえてきた。思わず肩の力が抜けた。
「おい、聖騎士殿。彼女にこの事態の収拾がつくとは思えぬ。私は窓から失礼するぞ!」
慌てて窓へ向かうラザンガ殿がウッと呻いた。
あ、窓にもパン。
まさかの庭まで広がってたとは。
だが…。
「ラザンガ殿。大丈夫ですよ。
あの雪菜殿の事です。必ずやとんでもない手段でパンを何とかしてくれますから」
そうだ、
これまでだって何度も見てきたのだ。
絶体絶命のピンチを斜め上の方法で乗り越えるその姿を…。




