レサンタの宿屋?!
ーゲラン視点ー
聖騎士団に入ってから、疑問など持った事もない。一途に戦闘能力を高めジェマ様のもとで役立ちたいと願っていた。
しかし…。
リュカ様の消滅。
ルーベントで土の中に埋められた人々。
極め付けは『ゼゼレブ』という名の毒花。
この世界の何かが狂っている。そう思わざる得ない事態が続く。考えるのは苦手な俺だがジワリとわいてくる疑念はやがて確信へと変わる。
もちろん、壁護騎士団の誇りを捨てた訳ではない。
『我が命を賭して、雪菜殿を守り抜く』
今となっては、たった一つの自分の核となるものだ。この世界を救う…いや。この世界の真なる姿を見せてくれる雪菜殿への…。
ーサイラス視点ー
暖かな腕の中の存在に安堵の気持ちが広がる。度重なる出来事の連続、役立たぬ我が身に歯痒さが募ったが此度はキツかった。
神鳥殿しか共を許されぬルーベントへの道。
それもこれも『ゼゼレブ』の毒への我が身の不甲斐なさだ。最善を尽くしたつもりだ。
だった…。
だが、雪菜殿と共にいられぬ日々は何度も眠れぬ夜となる。
足りないモノを数えて…。
丸鳥の連絡で急行したレサンタで雪菜殿へ手を出そうとする輩を見た時、体中の血が沸騰する音を聞いた気がした。
ゲランがヤツを止めなければ…
危なかった、完全に頭に血が上った。
だからこそ、抱き上げた雪菜殿の暖かさを離したくなかった。
それなのに。
「ね、サイラスってば。もう聞いてるの!!私を降ろしてってば!!」
そう言われて、あの場所からだいぶ離れたところでゆっくりと降ろした。離れがたい暖かさに手が伸びそうになるのを理性で必死に食い止めながら。
降ろした理由は一つ。
宿屋に到着したからだ。
「着いたぞ、ここが今日からしばらく泊まる宿屋だ」「綺麗な宮殿ね」
「ん?」「んん??」
俺と雪菜殿の声が重なった。
「ま、ま、まさかコレが宿屋だとか言わないわよね?!」
何故か不安げな雪菜殿の質問に頷いて答えた。
気に入らなかったのだろうかと、不安が掠めるも…
「ええーーー!!!!」
叫ぶ雪菜殿にこちらもドギマギする。
他の宿屋を手配するしかないのかと、思案していると。
「本当の本当にコレが宿屋なの?冗談とかじゃなく?!宮殿よ、コレ。ま、ま、まさかこの宮殿の部屋を取ったの?」
あー、そう言う事か。
雪菜殿の不安が理解できた。
「大丈夫だ、違うとも。
当然、この宿屋の全てを借り受けたのだ。少し小さいが手頃だし何より買い物に便利だからここにしたのだが、気に入らなかったか?」
俯いた雪菜殿の顔を覗き込むように答える。もちろん安心させるように優しく言ったつもりだが、何故か震えているような?!
「サイラスーー!!!
む、無理無理無理!!!!あのね、宿屋ってば宮殿じゃないから。
何、この横幅。何部屋あるのよ?!全部なんて使い切らないし。掃除も行き届かないし!!」
真っ赤な顔をした雪菜がてを握りしめて叫んでいる様が少し可愛らしくてつい、最初の方は聞き逃した。
しかし掃除の心配とは、さすが気配りの雪菜殿。
手ぬかりはない、安心して欲しいと玄関の方を見ればナイスタイミング。
大声を聞きつけた執事が使用人を連れてこちらへ駆けてくる。
「それは大丈夫だ。あ、ほら」と指させば雪菜殿が後ずさる。
ちょうど私の前にすっぽりとはまった雪菜殿の両肩に手を置いて紹介する。
「雪菜殿、こちらはベルサーク。執事としては金星印の凄腕だ。ベルサーク、こちらが雪菜殿だ。宜しく頼む」
私の手の中で震える雪菜殿をもう一度抱き上げたい衝動と戦いながらベルサークを紹介した。
「ようこそ、お待ちしておりました。
この館の執事ベルサークでございます。後ろに控えておりますのは私が選びました精鋭です。まずはお寛ぎください」
急に静かになった雪菜殿を連れて部屋へと案内してもらう。
「こちらの部屋は二間続きとなっております。護衛の方々の詰める部屋付です。お気に召したでしょうか?」
コクコクと頷く雪菜殿はまるで人形のようで可愛らしい。
「夕食はこちらで取るから二人分を用意してくれ」とベルサークに言いつけると雪菜殿を椅子へと勧めた。
ちょっと小声でさっきから話しているけどよく聞こえない。こんな風になる事が雪菜殿には度々あるので気にしないが。
窓へ移動すると周りを確認した。
もう、他勢力が見張を多数放っているのが見えた。
あのバレンが一緒だ。罠の一つや二つ既に配置済みだろうが…。
『ベルサイユ宮殿に執事。騎士団に護られる私。
に、似合わない。完全なる場違い感満載!!!
耐えられないけど…くぅっ。ちょっとだけ、ちょっとだけ…、
。。、何という誘惑なのーー!!
あぁ異世界ってば、本当に侮りがたい…わ…』




