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森に囲まれた!  作者: ちかず
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バーラド村の危機…そして。

お読み頂きありがとうございます。

今回は少し長くなりました。


更新をずっとしていなかったこの『森に囲まれた』を再び書き進めて参ります。


宜しくお願いします。

最初、サイは自分の頭がとうとうおかしくなったのだと思った。


それは。

もう村を救う手段も尽き、祈りを捧げていた時の事だった。



『いい?

薬は正しく飲む事!!


そして、患者にするべき事を説明するわ。

換気はキチンと。看護の人の手洗いうがいは、当然として口元に布で覆ってね!

それから…』


耳に聞こえてくる不思議な声。


その声は幼子のようだ。

だとすれば噂に聞く『緑の目の化け物・フローラ』だろうか。


魔女は、かなり前から見かけない。

長生きだったから、もういないのかもしれない。


だが。

この長い。あまりに長い説明は私に向けてのものだろうか?


目の前に山積みとなった野菜以外の瓶には①②などの記号がある。

その説明も長々と続いていた。


彼女の言う『カゼ』というのも聞いた事がない。

薬を握りしめて、暫し戸惑う。

願いは叶った。


万に一つの願いは、叶ったのだ。

だが。


これは本当に病に苦しむ村人に効くのだろうか…。

我々を本当に助けて下さるのだろうか…。


サイが悩んで瓶を見つめていると後ろに立っていたバーナが声をかけてきた。


「村長!まさか…。

それは薬ですか?

本当に…本当に魔女は我々の願いを聞いてくれたのですか!!」


あれほど、敵視していた我々の願いを…。

バーナの言う事は最もだ。


「もしかして、この後に及んで躊躇っていますか?

それならば。

それならば我が娘に初めに薬を貰えませんか?

このままでは恐らく今晩が山場かと」


サイは、逡巡した後にバーナの提案を受け入れた。



その結果は。。

なんと娘の病気はその夜に完治したと言うのだ。


それからは怒涛の展開だった。

村中が、一気に回復へと向かったのだ。


もちろんそれは、彼女から毎日届く薬や食べ物のお陰だ。

薬だけでなく、珍しい料理も食べれば体力を驚くほど回復させる。それは寝たきりから一気に普通の生活に戻れる程のものだった。



だからだろう。

戒厳令を敷いて他の村々に漏れないように何度も繰り返したのだが。


嬉しさから誰かが漏らしたのだ。

それも。


一番不味い相手に届く事になる。




この辺りを治める貴族ー辺境伯 バールド様だ。




良い噂を聞かないのは、他の貴族と同じだが。

更に強欲でも有名なのだ。

当然ながら、我が村の調査が始まった。

暫くは、村の病に恐れをなして少人数しか来なかったが。


ある日…、


どうやら。

辺境伯の周辺にカゼと似た病が出たようで。

軍勢を連れて乗り込んで来ると、村人の一人が駆け込んで来たのだ。



この事を報告しなかった罪は、恐らく死罪。

私だけならよいが村人全員に重い罪が課せられる可能性が高いのだ。


あれから、我々を気遣う彼女からの薬や料理は更に暖かさに満ちていて。

我々の中に誰一人『緑の目の化け物』と呼ぶ者はいない。


だから、絶対。


彼女の事だけは秘密にしなければ。

恩人を裏切る事だけはしまい。


そう。誓って…その時を待つしかないと。

村人のうち、女子供は離れた場所に隠した。

せめて、逃げ延びて欲しいと。



軍勢が明日到着すると伝令が来たその日だ。



その日の出来事を私は生涯忘れる事はないだろう。

そして、感謝も…。



二、三日前から彼女からの薬などは届かなくなっていた。

さすが魔女の一族だ。

こちらの状況を把握したのだろう。

その不思議な力に改めて感心していると。


バーナが凄い勢いでドアを叩いた。


「どうした?もうバールド様が来られたのか?」


真っ赤な顔を更に赤くしながら、バーナは強引に私を外へと連れ出した。

何も言わないままで。


私は外に出て、薄暗いのに驚いた。

今日は雲一つ無い快晴だった筈なのに。


そう思いながらバーナを見ればやたら興奮して空を指差していた。


ん?

私が空を見上げれば何かが我が家の屋根の上を飛んでいた。



それは。


慶鳥(けいちょう)


ま・さ・か!!!!!



精霊の従鳥というあの慶鳥なのか?

疑いたい気持ちも、あの大きさの鳥を私は知らない。


それに。


その足にあるものに改めて驚いた。


慶鳥がボサッと落とした布に包まれた中身は、彼女の薬だったからだ。


だとすれは。

この慶鳥は彼女が遣わしてくれたものなのか?


恐る恐る慶鳥の方を見てみると。

慶鳥が屋根に大きな石を乗せていた。



ま・まさか。

精霊石なのか?

あの緑色の美しさは、間違いないだろう。


この世界には緑の石は精霊石だけなのだから。



あまりの事に言葉を失っていると。



ポトンと私の上に小さな石を落として慶鳥は飛び去っていった。



慶鳥の落し物。

それは精霊石だった。


しかも。


その精霊石には慶鳥の絵があるではないか!!!

もしや…。



そこにバールド伯様が到着したのだ。

一日早く到着された軍勢は、村人を蹴散らしながら私の家の前まで進んで来た。


馬の上から私を見下ろすバールド様に跪いて礼をするとカチャリと音がして肩に槍の刃が乗った。



首を刎ねる用意なのだろう。

油汗がワッと沸いてでて、私の顔から血の気が引いた。


「ふん。

随分と舐めた真似をしてくれたではないか。

この落とし前がお前一人の首くらいで済むと思うなよ」


脅し文句ではない。事実、実行するつもりと理解出来、身体中が震える。

それでも。

自分一人だけでなく、やはり村人全員の命に危機が迫っているという想いは私に勇気を齎した。


「申し上げます。どうぞ、コレを」

そこまで言ったところでガッと兵士に蹴り飛ばされ私の身体が吹っ飛んだ。


痛い。

蹴られた腹が燃えるように熱く痛い。

息も上手く吸えないほどの痛み。


それでも。


「お願いです。コ」

今度も最後まで話せない。

それどころか、手に持っている精霊石を毟り取るように奪われた。


だが。

コレを見ればきっと…。

精霊の加護は、この世界最大のもの。


ある国では王族になれるものだとも言われてる。

慶鳥の加護もそれに属するものだから。


「ほぉ。身分不相応のものを持ちおって。

良いだろう。コレをワシが貰ってやろう。

この礼に、首はお前一人にしてやる。

有り難く思えよ!」


と、取り上げられた。

だが、我が国の貴族なら然もありなん。

それでも、私一人の首で済むところまでいったのだ。やはり、彼女にフローラ様に感謝を捧げよう。



そう悟って、だが身体の震えは相変わらずだ。

怖い。

ひたすらその時を待つ私の耳にバサ!!と大きな音と共に沢山の人々の悲鳴が聞こえ思わず顔を上げた。



何が?!


目で見たものが信じられない。

何?


コレは…。


衝撃的なその風景は。



慶鳥が沢山の兵士を羽の力で吹き飛ばし、更にバールド様の目の前に迫っていた。


その鋭い爪がまさに肩に食い込もうとするとバールド様が必死な形相で何か差し出した。


あれは…精霊石?


『キィーーー!!!』


ひと鳴きした慶鳥により、バールド様は馬から落ちた。


そして。

頭の上に羽を一枚落として、そのまま飛び去った。


飛び去る前に私に再び精霊石を落として…。

その途端、腹の燃えるような痛みが引いた。

ご加護の凄さを改めて感じていると、悲鳴が聞こえてきた。



「ひぃーーーーー!!!!」


その悲鳴に振り向いて私は確信した。


これは、慶鳥の罰だと。



なんと!!


バールド様は、ヨボヨボの姿に変わっていたのだ。


その上。

兵士達の武器はそのまま、砂となり消え去った。

それだけではない。鎧も服も同じ事で。

生まれたままの姿になった兵士達はヨボヨボのバールド様を見捨てそのまま逃げ去った。


ヨロヨロしたバールド様を我々で馬へと押し上げる。そのまま、馬は村の外へと。



私は、手のひらの石をもう一度見つめる。



見上げれば、屋根の上にも大きな精霊石。

唖然として固まっているバーナ達村人を置き去りにして家の中へと。



布に包まれた中身を改めて見つめる。


番号の書いてある薬。

不思議と暖かさが残る料理。

そしていつもの野菜。



ぼたぼたと涙が床へと落ちる。

覚悟をした。


拙い覚悟だったが。


フローラ様。

私だけでなく、村人全員を助けてくれた。

その場に跪いて私は祈った。



このご恩は生涯忘れません。

どうか。

フローラ様にもご加護があらん事を。



その日の奇跡は、王都まで一瞬で伝わった。

だが、誰一人村を攻めてくる者はなかった。


そして。



バーラド村は、その後、ルスタ国から外れた。


[精霊の加護の村]


と呼ばれ特別な場所となる。


ただ、違う人々の目を引くことにもなるのだが…。






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