国境での、死力…
ールーベント精霊強国国境にてー
王よりの命により、解毒に特化した治癒魔法を持つ騎士団が国境へと差し掛かった。解毒魔法の酷使は体力を大幅に削り続け、誰もがこれ以上の前進は命懸けだと理解していた。
だが。
騎士団になったのは、この国を守るため。
今や、国境地帯に住む人々の被害は目を覆うモノがあった。
例え、聖騎士団から渡された『森の薬屋』の奇跡の薬であろうとも完全なる解毒には至らない。
無論、我々も力の限りを尽くした。
だが、数が桁違いだ。
「隊長、ここは先を急ぎましょう。元を絶たなければ救う事にはなりません!!」
副隊長に就任したのは、王族の一人。
現王の従兄弟に当たるランザク様だ。この隊の編成は解毒の治癒力の大きさによる。
だから、平民出身の私が隊長なのだ。
ま、これも現王になってからの大きな変化の一つだ。
「ランザク。事は慎重に期さねばならない。我々の他に解毒治癒力のあるモノはこの国には無いのだ。我々が倒れれば…」
呼び捨てにする様に彼自身に言われたのは、先日の記憶だ。まだ違和感があるが彼は拘りが全く無いようだ。
「隊長!!行きましょう。これではどれだけの人々が、犠牲者となるか。行くべきです!!」
次々と上がる声に俯く。
身体を巡る魔力は半分も無い。
行けば…。
顔を上げると、隊員を見回した。
どの顔も決意を固めていた。そうか…、やるべきなのだな。
「編成は五人。後はここで待機。もし12時間後に連絡がなければ王宮に戻って報告の後指示に従うように」
編成は力の大きいモノのみで。当然、ランザクも入る。彼の顔は何故か輝いていた。
「王族にいる意味は、此処にあったんだ。皆が傷だらけの中、一人安全地帯にあった意味もあった…」
小さな呟き。
意味はなんとなく理解出来る。現王の控えとして安全地帯に置かれた王族。我々の耳にも聞こえたランザク様の御名は『臆病者』の渾名と共にある事が多い。
王宮に吹き荒れた事件から守られたランザク様の想いのカケラが溢れた…のか?
早駆けする馬を操る彼の腕前はかなりのモノだ。段々と強まる毒風の中、突然
ドン!!!!!と暴風にも似た何かの力の爆発を感じた。
なんだ?!
何が…。
あ。。。。
毒風が、止んだ??
何故?
「隊長!!今のは?」
「とにかく、急ぐぞ!!」
現状の把握の為に、更に先を急ぐも毒を含まない空気となったせいか馬は元気を取り戻すのでかなり早く現場へ着いた。
そこには…。
『此処は、封じられた。お前たちはそのまま帰れ!!』
彼は誰だ?いや、アレは何だ??
ぼんやりと見えるドームの様な結界に包まれたのは『ゼゼレブ』の草むら。
あり得ない。
全てを包んだというのか?
この広大な国境の全てを??
人間にそんな事が可能なのか?
頭の中で我々は誰もが疑問を抱いていたが、その答えはすぐにきた。
『『オゼルの大刀』と言えば理解出来るか?我が主人からの命により、この地は吾が封じた。これより先此処より毒が漏れる事はない。
良いか、王に伝えよ。主人が必ず希望を持ち帰る。それまで待てと…』
その声が聞こえている間中身体が震えた。
それは、我々の触れてよいモノではないのだと身体の底から理解した。
「我が国を代表して感謝申し上げます」
私の声に全員が一斉に跪く。
最上級の礼をした我々はそのまま馬に乗り一気に駆け出す。
我々に課された解毒治癒を待つ人々の元へ。
希望を持って。
その時まで、必ずや守ると、誓いながら。
死力を尽くしますと、彼に心の中で誓いながら。
フフフ。
駆け出していったか。
アレの魔力もついでに戻しておいたのだ。
主人が戻るまで、なんとかするだろう。
が。
それにしても我が主人は、かなりの人使いの荒さだな。
刀剣にある魔石に既にヒビが入り始めた。
雪菜よ。
さて、間に合うかな?
アヤツらに倣って、吾も『死力を尽くす』とするか。
本当の意味での『死力を…な…』




