トトラルの雪景色?!
降りしきる雪景色にため息が漏れる。
この場所に、雪景色とは…。
ブルーノよ。
あと僅かしか保たんぞ。
さて、ワシも奥の手を出すとするかの。
頼んだぞ。
ーブルーノ視点ー
暗闇の中で蹲る俺の目の前に、ぼんやりと灯りが見えた。フワフワとして歩むのは難しいけど光のある方向へとひたすら進む。
声がする様な気がするんだ。誰かが呼んでる?
随分と重くなった目蓋を必死に開ける。
だって、ピテレの泣き声がする様な気がするから。
「あ、課長ー!!目を開けたわ。やっぱりあの処方箋で良かったのね。」
「春川。とにかく意識がある間にこれを飲ませろ。服用させれば直に意識がハッキリするだろう」
煩いなぁ。
耳元で騒ぐ二人組に恨み言が言いたいけど、声が出ない。
うっぷっっっ!!
ゴホ・ゴホゴホゴホ!!
「やめろ、溺れるだろ!!」
ガバッと起き上がった俺は涙目の雪菜と珍しく笑顔のカンドリの顔が目に入る。
ん?
随分とカンドリの顔色が…
ドン!!!
考え事をしている俺の腰に激突した奴がいる。
「痛いわ!!頭突きばやめろよ、ピテレ!」
文句を言う俺を腰に抱きついたままのピテレが睨んでる。
なんだよ、痛いのはコッチなのに…あ、
『思い出したんだな?お前が如何に無茶して倒れたかを!!俺が無理だと何度も言ったのに聞きもしないで結局こんな事に…」
こんな事?
いったい何のことだ?
「実はね、ブルーノ。とっても言いにくいんだけど解毒の副作用が出ちゃって…」
言いにくそうな雪菜の台詞に慌てた俺は身体を点検する。
足は二本。
手も二本…指もちゃんとあるし。
痛みや目眩などを点検してもオカシナところはない。
何で?
「あれ?雪菜。
少し会ってない間に大きくなったな。そうだよ、カンドリも…あれピテレ??」
言いかけて嫌な予感が、走る。
まさか…もしかして…悪い考えが頭をグルグルする最中とにかく、立ち上がる。
すかさずふらつく俺を支えてくれたのは、カンドリだ。
やっぱり…。
支えてくれたカンドリを見上げれば首が痛い。目線を戻せばお腹の辺りに視線がさまよう。
間違いない。
俺は縮んだ。5歳児くらいの身長まで縮んだと言う事だ。
「なんでだ。身長を取り上げるなんて残酷過ぎる!!他ならなんでも良いよ。とにかく身長以外で頼む。あーーー、チビを気にして生きてきた俺にとって最大のピンチじゃんか!!返せーーー!!身長ぉ!!!」
空を見上げて吠える俺のそばでカンドリがビクリと身動ぎする。
なんだ?
見ると、雪菜が俺の至近距離に立って両手を握りしめていた。
何?
文句を言ったから泣くのかな?
恐らく助けて貰ったはずだ。
あの『ゼゼレブ』だ。それもあの量。助からないかもしれないと知りつつも少しでも助けたかった。
毒草を扱う人間として。
我が故郷の薬草が誰かを傷つけるのは、耐えられなかったから。
無茶を承知の上での事。
雪菜が気にする事じゃないと言いかけて固まった。
雪菜は泣いてなかった。
いや、そんな素振りも全くなかった。
むしろ、意志の強い力強い眼力でこちらを見つめていた。
「とにかく命を助けたかったから、急いだの。でも、謝らないわ。絶対に副作用を消す方法を探すから!!」
「ふふふ、春川は何処にいても変わらない」
雪菜の力強い宣言で誰の耳にも届かなかったかもしれないけど、俺には確かに聞こえたのだ。
カンドリがそう呟いたのを…。その顔は何処かで見た覚えが…あ、そうか。
ギャビンだ。ギャビンが雪菜を見る目と同じなんだ。
「ブルーノ。ブルーノってば!!!
しっかりしてよ。ここが何処か分かってるの??」
え?洞窟でしょ?
避難して治療にあってくれたんだよな?
「外は雪景色なのよ。私も知らなかったわ。トトラルがこんなに寒いところなんて。
南の国と言うイメージだから」
え?
ええーーー!ー!!
「そんな…」絶句する俺にピテレが叫ぶ。
「トトラルに雪が降ったんだ。意味は分かるよね?」
ふらつく身体を前へと進めると、言われた通り雪景色が見えて来る。
真っ白になった森の姿に、一見何処か分からないが目を閉じてもう一度見つめる。
『毒の森』
二度と足を踏み入れられないトトラルに帰って来たのか。
雪景色を見ながら、俺はへたり込んだ。
そして再び暗闇の中へ逃げ込んだんだ…、
親方。。。




