祈りが通じない?!
おかしいわ。
何故…。
「雪菜殿。どうされたのだ?」
振り返るとギャビンさんが立っていた。
この人。
物凄く勘の良い人だわ。
私が悩んだり、困ったりするといつも後ろから近づいて来るもの。
これも、魔法とかなのかしら?
「ん?
何か言いたげだが、何かな?」
「んー。ギャビンさんは、困ってる人に敏感なのかなぁと思って」
ギャビンさんは私の返答に苦笑しただけで何も言わなかった。
そんなギャビンさんは、私の困り事に気づいたみたい。
目線がしっかり私の困り事を捉えてるわ。
だから…。
「そうなの。
ここ二日ほど、この通りなの。
これまで一度だって、こんな事なかったのに。
。。。
なんでだろう?」
と、悩みを打ち明けた。
私の視線の先には、ギャビンさん作の棚がある。
その棚には、いつものようにお裾分けの野菜と。
そして最近は滋養のつく料理と風邪薬を置いてある。
「お祈りはいつも通りですか?」
ギャビンさんの言葉はいつも丁寧でとても王様出身だと思えない。
だから、つい…敬語とか忘れちゃう。
まー、ギャビンさんから直々に敬語などは辞めてもらいたいと強く要望されているのだけど。
私が頷くとギャビンさんは暫く考えた込んでいた。
そう。
困り事と言うのは…お祈りが通じない。
お裾分けや薬を森の外へ運ばれていかない事。
なんでだろう…。
「推測だけでお話するのは本意ではありませんので、この事は夕食時に皆の前で今一度話し合いましょう」
そう言って、ギャビンさんは棚のものを片付け始めた。このままやっても無理だと知っているように…。
私も何となく無理だと思ってたから、その場は断念したけど。
その後、ちょっと作戦を考えたの。
もしかして…と。
夕食は、今日はうどん。
小麦粉っぽいものから、作った麺はこの世界で初めてらしくて(麺自体が存在しないのよ…)
鰹節とかないから、焼うどんにしたわ。
『麺』自体を初めて見るらしい4人は目が点状態で。
「あのー。雪菜殿。
これは食べ物ですか?」
えーー!!
サイラス…食べ物以外がこの食卓に出る訳無いのに!!
「もちろんよ!!
『うどん』って名前で本当はお汁と共に食べるのが美味しいけど。
お汁は用意出来なかったから。
とにかく、食べてみて!!」
引いてる…。
食べないとか言わないよね??
「雪菜殿。いつもありがとうございます。
い・た・だ・き・ま・す」
ギャビンさんは、必ずお礼と挨拶をして食べてくれる。
辿々しい『頂きます』はこの世界には無い言葉だからで。
でも、おばあちゃん子の私には挨拶なしの食事はタブー。
どうかしら?
お口に合うかな。
食べにくそうに必死に麺と格闘して『一口』
「美味しい…物凄く食べにくいがこの味は食べた事のないものだ。
何て美味しいのだろう!!
さあ。皆もたべると良い。
忘れなれないインパクトだぞ!!」
忘れられないインパクトって。
でも。
一斉に食べ始めた皆んなの幸せそうな顔で満足していたらギャビンさんから先程の話が始まった。
「皆。食べながら聞いて欲しい。
今日、異変があった。
雪菜殿のお裾分け棚が作動しないのだ。
祈りもお裾分けの品々も変わらないにも関わらず。
私見を述べる前に意見が聞きたいのだが。
どうだろう。」
『うどん』を幸せに掻き込んでいた2人も顔を上げた。やっぱり難しい顔をしている。
その顔をみてギャビンさんは頷いた。
「ふむ。どうやら私と同じ決着点になったようだな。では…雪菜殿に改めて説明しよう。
私達の考えは、ひとつ。
ルスタ国の介入、若しくは王都の貴族か商人に気づかれ『横取り』されたのだろうと。そして、それを知った『大森林』は雪菜殿の願いを叶えるのをやめたのだと思う」
えっ?
そんな事…。
「だって、風邪薬は必ず必要なものなのに。
それにお裾分けの野菜も、あの窶れた人達には必要なはずよ!
なのに…なんで?」
あの声は忘れてない。
悲痛な願いだったわ。子供達や村人を思う気持ちのこもった本物の願い事。
だからこそ、力になりたかったのに。
肩を落とす私に、皆が口々に慰めをくれた。
「雪菜殿のせいではありません。私の国は残念ながらそんな者達が権勢を誇っている国なのです。
雪菜殿に力添えを貰った村人は、これまでのお裾分けに充分感謝していると思います」
サイラスは、真面目な一面をこれでもか!と発揮して必死に言い募る。
アーノルドもギャビンさんも慰めてくれた。
でも。
こんな事で諦めてられない!!
私はさっき考えていた秘策を発表する。
「サイラス。皆んなもありがとう。
でも、私は負けないわよーー!
ふふ。ヤケクソじゃないから大丈夫。
だって次なる作戦があるもの。
じゃん!!コレです!!」
手のひらに乗せた米や麦を見せた。
ん?
分からないみたいね。
キョトンとしてるし。
「私ね。
畑仕事の 合間に、餌付けしてたの。
私の世界には、鳥を飼う人が沢山いるの。
で。
コレで手懐けました。雀っぽいなにかを!!」
ちょっと胸を張って発表したけど、まだキョトンとは…。
仕方ない。
棚の側へ皆を案内して行き、空を見上げた。
そして『ツルルルー』と鳴き真似をして鳥達をいつものように呼ぶと…。
ほら、
手のひらの餌めがけて鳥が集まってきた。
あ。来るわ…。
そら!!
急いで餌を蒔く。
えーと。
実は雀くらいと言いましたけど。
それは最初のうちだけで。
段々と大きな鳥達も飛んでくるようになって。
今となってはどんなの鳥も自由自在で呼び寄せられるのよ!
(特にこれから頼む子は、人間を乗せられる程の大きさなの…)
「この子よ。この子なら村長さん家へ直接届けてくれるから!!」
あら?皆んなの口が開いたままよ。
もう!!
皆んながあんまり動かないから私は餌付けしたい鳥に任務を頼む事にする。
鳥は頷いて風呂敷?っぽい布に包んだお裾分けや薬を持って飛んで行った。
良かった…作戦成功ね!!
その後が大変!!
あの鳥は、どうしたのか?とか。
他のものも餌付けしたのか?とか。
説明にかなりの時間を取られたから、途中で「ちょっと鳥の様子が気になるから」と嘘をついて抜け出したのよ。
だって…。
質問する皆んな話が段々とお説教みたいになってきたんだもの。
(本当の理由は、森の様子がちょっと変化した気がしたから…)
抜け出して。。。正解!!
あそこに誰かいます!!
新しいお客様?
何してるのかしら?
男の人がお祈りしているみたいね。
でも…何処から来たのかしら?
これが新しい住人。
リカルドとの出会いだったわ。
まあ…あの後色々大変だったけど…。




