また新たなお客様?
男にはひとつの秘策があった。
それは、その男の生まれにも関係するもの。
これさえ出せば…或いは…。
誰も入れないと言われた世界最大の『大森林』
今、その場所は各国の思惑の中心にあるといってもいいだろう。
内偵として生きている身としては、なんとしても中へ入らなければならない。
その為に、長い旅をしてきたのだから。
あれは数ヶ月前の事だ。
雇い主を選ぶ自分にしてはドジを踏みある国に貸しを作った。
「フン。お前が有名なゼロか。
全く存在しないもの『ゼロ』とは随分と欲張った名前よな。
まあ、そんな事は今はいい。
よいか!この国は一番にフローラ様に接触しなければならない。
その理由お主なら理解出来るな。
よいか!『大森林』に潜り込み必ずフローラ様をこの国にお連れせよ」
「はっ!承知しました」
俺の順従な返事に満足そうな神官の鼻息が荒く聞こえてくる。
偉そうな神官に跪いている為見えない顔には、苦笑いが浮かぶ。
精霊強国などと名前負けしているのは、どっちだか…。
まあ、いい。俺は俺の目的の為にもあそこへ行かなければ。
そう決意して数ヶ月旅に続けようやく、この『大森林』の前に。
だが、いくら探ってもこのルスタ国にはこの中へ入れる方法など有りはしなかった。
ならば…と。
俺は改めて懐からそっと『あるもの』を出した。
そして、跪くと『大森林』に祈った。
(祈りの作法など知るわけもないが)
俺はひたすら俺の願いを心の中で呟き続ける。
時が経つのも忘れ、人生で一番真剣に祈った。
朝日が夕焼けになろうと気づかないほどに。
「ねえ。貴方は何処から来たの?
ギャビンの時とは違って、入り口は開いてないのに…不思議ねぇ」
頭の上からのんきな少女の声がして、意識が浮上した。
やったのか?
まさか…バードラ村に担ぎ込まれたのか?
ダメだったか?
顔を上げて、俺は悟る。
成功した!!!と。
必死に湧き出る喜びを堪えて周りを見渡した。
小さな小屋。
周りは、見たこともない森に囲まれている。
確かに聞いていた『大森林』のベラ殿の家か!?
「雪菜殿。警戒心を少しはお持ち頂きたいな。
サイラスなど、大慌てでこちらへ来ますぞ。
ほら!」
彼の指差す方を見れば大柄な見覚えのある男が凄い勢いで走って来るのが見えた。
(この世界にあって聖騎士の顔を知らない者は無いのだ)
思わず…後ずさる。
恐怖などあまり覚えた事はないが。
あれはない。
聖騎士ともあろう者があの勢い。
「離れて下さい!!
まずは私が検分致します!!」
聖騎士は、その名の通り冷静沈着なもの。
彼もそのはずで…。
いったい何が?
「あのね。この『大森林』が選んだのよ。
間違いなんである訳ないわよ。サイラスは最近心配性ね。あの風邪薬以来よ…」
二人のやり取りで確信した事がある。
この場所は、目的地。
しかし、指差した男の顔にも覚えが…
ギャビンとは…まさかのドルタ皇帝か!?
少し驚きの情報が多過ぎる。
更に…。。。
あれは!!
「なんだよー。皆んなそんなに急いでさ!
この場所は、変な奴は入れないよ。
でも…コイツ誰?」
まさかのアーノルド王子とは…。
指令とは全く違うが、雇い主が知ったら仰天するだろう。
死んだと思われていたのだから。
更に言えば、その情報はアーノルド王子と対立するカール王太子から出ていたのだから。
この混沌は、いったい…。
心の中は、大嵐だったが全く動かない表情筋が役に立つ。
「私の名前は、リカルドと申します。
レサンタ国の外れの村に住んでいます。私の村には、病が流行っていて…最後の頼みの綱とここへ。
『大森林』の前で祈りを捧げておりましたら、いつの間にかここへ。
ここはいったい…」
俺のスラスラ出る嘘を信じたらしい少女は、目を潤ませて両手で俺の手を握りしめていた。
「大変だったね。大丈夫。出来る限り力になるから!!」
張り切る少女は、大声で叫んでいた。
これが…まさかフローラ様か?
嘘だ…儚げな少女の姿だと…。
俺は、弱気な村人らしくそこで力尽きた。
ショック…。
ちょっぴり聖なるフローラ様に夢を抱いていたのに。
しかし、俺の願いはは一歩近づいた。
俺は、信じていない精霊に祈った。
感謝します…と。




