幻影園の真実…
ーサイラス視点ー
担ぎ込んだその先は、意外な風景の場所だった。マティの意識が朧げにでもあった時、その指差す方向に向かった。
草むらのアーケードの様なモノが見えてきた。その入り口からは気押されるほどの魔力が漏れていた。
ここか…。
拒絶感の強いその中へ足を踏み入れる。
全員が通り過ぎて気付いた。
帰り道はない。
草がその道を完全に塞いでいる。今はまるで壁の様な草の絶壁があるのみ。
少し行くと、数人の人々に迎えられた。
その人影は、当然妖精のモノで。
その中の一人が進み出ると話しかけられた。その声は、心の中へ響く。
『マティよ。この幻影園で治癒を受ければ二度と外には出られぬ様になる。
お主は元々、此方よりのモノ。
おのれの治癒力に賭けるか?それとも…』
意識を失ししているマティに話しかけるのは、どうやらこの幻影園で妖精族を束ねる男の様だ。
身体はマティよりも巨大な男からは強い魔力に近いモノを感じる。
しかし、失神しているマティの意識に今の声は届いたのか?
マティを見ても微動だにしない。
戸惑いの中いる俺を他所に思いもかけない所から質問が出た。リカルドだ。
「何故ですか?もしかして、この幻影園とは…」どう言う意味だ?
疑問を持ちながらリカルドを見た。
ここまでの道すがらずっと俯いて手の中のペペスのカケラを気にしていた様だったのに。まさか此方の様子は掴んでいるとは、流石はゼロと言うところか。
しかし、ペペスは既に消滅していても不思議は無いと俺は思う。何故なら雪菜が居ないのだ。
そんな不安定な状況で何に気づいたのか?
『うむ。其方の想像の通りだ。我々はこの世界に於いて、絶滅危惧とされる本体を持つ妖精や精の集まり。
本拠地を失ったモノやその本体そのものが希少種となり存在を保つのもやっとのモノ。
それらを護るために作られたのがココじゃ』
なんと。
ココはその様な場所なのか。
ならば、先程の意味は…。
あ!!
「ペペス!!!」
透き通る様に真っ白な肌色の青年が優しく此方を見つめる。
リカルドは確かにペペスと呼んだ。
ならば…
「リカルド。ありがとう。どうして伝えてたかった。こうして僕が消滅しない理由を。
それは、リカルドだよ。君は混血なんだ。
人と我々との」
なんと…。不思議な能力を持つ者とは思っていたがマティと同じなのか?
「違います。マティさんは特別な血をひくもの。混血のリカルドの側にあった事。それが僕が消滅しない理由です。でもそれもここまです。分かっているよね?」
そう言えば、先程から唇を噛み締めたまま黙り込むリカルドはどうして何も言わないのか?知っていたのか。
「村の奴らがくっちゃべってた。たぶんそうかなとか。でも、納得できねぇ。別れを言う為にペペスを連れてきた訳じゃねぇんだぞ!
絶対認めらねぇ」
その時、腕の中のマティが身動ぎしたので見ればなんと目を開けていた。
「サイラス、下ろしてくれ。
リカルド、我々はここまでだ。もう、ココ以外では保たないのだよ。
もし、君たちがココに連れて来てくれなければ彼は消滅していた。私もどうなったか。
サイラスよ。聖騎士団を…」
目を見開きながら、マティの告白を聞いていた俺は衝撃を受けていたので何が起きたか一瞬理解出来なかった。
アレは…笛の音?歌声も聞こえて来る。
それも、沢山の歌声が重なる。草や花々の揺れる風音さえまるで唄っているかの様に聞こえくる。
全員が固まった。
その風景は驚くに値するものだったからだ。
アーケードはない。
草の絶壁もない。
光が眩しく踊るように我々の前を通り過ぎるとそこは、草原となる。
先程とは全く違う。
そう。それがここが幻影園で無くなった瞬間だったのだ。




