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森に囲まれた!  作者: ちかず
152/233

『風神楽』は空を越えて


ー雪菜視点ー


やるしかない。

不可能かもとか考えないでやるしかないのよ。自分に言い聞かせる様にそう呟いて私は自分の手を見た。


ぎゅっと硬く握りしめた手のひらは丸い形になっている。守る様に丸くしたその中には、感触すら感じなくなったけれど。私はもう一度リュカ様を守るように更に力を込めた。


笛を吹く。

そう決めたと言う事はこの手を離すということで。

もちろん躊躇いならある。でも、迷いはないの。だって、頼み事をしたのは私。しかも物凄く無理な願いを聞き届けてくれたのだもの。



手を開いた。

微かに残っている残像を探す私の目には何も写らない。カケラもない手のひらをそのまま懐へ。笛を掴むと構える。

震える手も、ギャビンが抱きしめてくれる暖かさに今は勇気を貰って『風神楽』を吹く事にした。

風に乗って沢山集まってくれた皆んなに聞こえる様にと願いを込めて吹いた。


気がつけば、いつの間にか草原に来ていた。


圧力にも似た凄い数を感じて見渡せば、草原中隈なく沢山の精達が集まっていた。

ううん。今もどんどん増えている。

さすがにミニハリネズミが多過ぎて重なり合ってるのを見て不安になる。痛そうなのだもの。もちろん他にも沢山の精達も重なり合い集まってくれてる。

そこには、何故だか妖精でも精霊でもいない。

精とは小さい。

その小さな精は、例えば一本の雑草にも宿るモノ。全てのモノに精か宿るのがこの世界。今、草原には凡ゆる精達が集まっていた。


私の願い事を叶える為に。


彼らにも危険があると承知の上で頼んだのは、私。笛を持つ手に力が篭る。



『雪菜。大丈夫だよ。こんなに沢山の仲間が集うのは初めてなんだよ。こんな凄い事が起こるんだ。だからきっと出来る。

僕らを信じて』


いつの間かリーダーにおさまったミニハリネズミの子が『やるよ〜』と声を出せば。


ポコポコポコポコポコポコポコ


穴が次々と開いては、その中に精達が消えてゆく。


不安がこみ上げて身体が震えるけど、笛を今一度取り出して吹く。

心を込めて、私に出来る唯一の事を。

目を閉じて集中して吹いている私の目に突然、見えてきた風景。



草原の上を飛んでいる様な画面。

地面を掘り進むミニハリネズミ達の奮闘。

地の底で渦巻くマグマの前に浮かぶ小さな人影。


まるで、私は身体を離れて飛び回るみたいに感じる。

更に聞こえる。

そして私の周りを飛び回る毒虫の攻撃とカンカンと言う音が必死に私を守るギャビンの剣戟の音だ分かるのだ。


振り返らなくても、目を開けなくても分かる。


やがて、私は草原を超えて、山も越えてゆく。様々な町や村の上を飛びながら笛は吹いている。

なのに、意識だけは遂にはあの森へと。

そうよ隣にあるバーラド村見えた。

笛の音と共に私の意識が世界中へと広がる。

やがて、聞こえて来たのは子供達の歌声。

笛の音に合わせて歌っているの?

耳をすませば、彼方此方から聞こえる歌声に笛の音が更に響く。

胸が熱くなったその時。



『開いた。開いたよ〜』



ミニハリネズミの声がした。


世界中を飛んでいた私は、目が覚めた感覚で笛を止めた。

目を開くと、無数の毒虫が足元に落ちていて剣を杖の様にしてやっと立つギャビン。


大穴から溢れたミニハリネズミや精達が噴水の様に空高く飛び上がる。



身体中の力が抜けた私が座り込むと、遠いて空に煙が一筋見えた。


やったのね。

海へマグマが到着した証の煙。

最後に見えたあの海の風景は、海底火山の噴火に似ていた。



その日。

カザエルの民は、海に新しい島が噴火と共に誕生した事を知った。。


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