ドルタ帝国の酒場で…
ーとある酒場でー
北地区にあるこの場末の酒場には、今日もむさ苦しい男達が集まってロクでもない話をしていた。
ここでは、街のあらゆる情報が飛び交う。
まぁ…かなりのガセ情報もあるが。
だが、今旬な話題はただひとつだ。
それは…。
「おい。知ってるか?
あのデルタライト王が病に臥せってるらしいぞ!」
隅のテーブルにいた男が驚きと共に隣の冒険者らしき男に話しをしている。
「お前は、だからダメなんだよ。
情報が遅すぎる!!
既に西地区の精霊会では祈りを捧げてるらしいぞ。」
隣の男は呆れ顔だ。
「だってさ。あの賢王が倒れたとなれば反王家の奴らが…」声を潜め男が呟くと…。
相手の男は口に手を当てた。
それは決して口に出してはいけない事。
耳や目は何処にでもある。
それがこのドルタ帝国の常識なのだから。
それから、二人はまるでこの話はなかったように、隣の街にいるいいオンナの話を勢い良くした。まるで何かを恐れるように…。
それを聞いている男達がいた。
反対側のテーブルに座っていた冒険者らしき男達。むさ苦しい姿をしているがその目の鋭さだけはこの酒場に似合わないものだった。
「聞いたか?イーサン。
やっぱり、あの情報は本物だろう」
イーサンと言われた男はかなりの背の高さを背中を丸め小さく見せていた。
暗めの金髪は彼の精悍な顔つきにあったもので男ぶりを上げている。
だが、彼の顔は晴れない。
何か心配事があるのだろう。
「マティの言う通りだな。
やはり、きな臭いのは間違いないな。
あの賢い人をもってしても、この国を統率できぬとは…」
マティと呼びかけられた男は頷く。
大柄な身体に似合わない明るい顔つき。紫色の髪を今はフードで隠しているが目は誤魔化せない。
紫色の瞳が意味するものは…。
「おい。それよりサイラスだろう!!
ルスタとなると事は厄介だ」
もう一人のテーブルの男が途中割り込む。
一番細身の姿は美しい金髪と青い瞳で完成された美となっていた。
全く本人は頓着しないのか、金髪は彼の手によってかき乱されぐちゃぐちゃに。
「サイラスは自業自得だ。
フローラ様の名前を聞くと前後の判断をいつも誤る。
それにだ。あの国とて聖騎士をまさか殺しはしないだろう。」
落ち着いた声で答えたマティの様子に細身の男が食いついた。
「マティ!!
お前はルスタを良く知らないから。
あの国はおかしいんだ。もしかして…」
不安げな彼にイーサンが驚きの情報を齎す。
「アレロア。落ち着けよ。
最近、あの『大森林』の不思議な噂を聞いたんだ。
なんと。
あの恐ろしい病を克服した村があると言うのだ。
しかも、その村はなんと『大森林』の一番近くにある村だ」
この情報には、アレロアだけなくマティさえも目を剥いて驚き顔をした。
それもそのはず。
冬になると定期的に流行る病に毎年沢山の犠牲者が出ているのだ。
「とにかく賢人の行方の捜索から始めるか…」
マティの言葉に二人は頷いた。
聖騎士のリーダーであるマティ。
この世界にたった6人の聖騎士は、特別な立場と力を持った者達。
「サイラス…。
せめて一言便りをくれ…」
アレロアの独り言は、誰の耳に届くこともなく酒場の喧騒に消えていった…。




