私の選択は…。
ー雪菜視点ー
草原は良い風が吹いていて、花々が揺れるたびに微かに香る。
なんて素敵!!
そう、私一人でなければ…。
この年で迷子でなければ…。
ちょっと前まで、ずっと側に居てくれた碧の気配もない。
本当の一人。
ペペスの事・マティさんの事。
必死に辿り着いた私達の喜びはいかばかりか。
姫抱きされたマティさんの後ろを歩いていて、足元の草に蹴つまずいた私が顔をあげたら…今!!
そう、誰も居ない草原。
前とちっとも変わらない風景が異常事態だと理解する。
ここで私は大切な事を思い出した。
迷子は動かない。
ジッとしてれば、きっとサイラスが見つけてくれる。
彼なら必ず!!
うんうん!
そう思ったら、少し落ち着いてきたわ。
足が疲れているところをみると、結構長い時間立ちつくして呆然としてたのね。
座り込んだ私は、始めて手元の花々や草達を意識した。
ん?
んん????
コレって…えーーーー!!!
貴重な薬草しか無いじゃない?!
あり得ない景色に這いつくばって、辺りを確認し始めた。
起死回生の薬。
万能薬。
超スーパーな毒消し。
ブルーレルの図書館で見たモノ。
あれは『希少なる薬草辞典』『絶滅した希少種・薬草の行方』等で確かに見たモノばかり。
なるほど…コレが幻影園の真の実力。
本当の凄さなのね…。
手を伸ばして、起死回生の薬草の葉を掴んでそのまま止まった。
コレがあれば、ペペスだって。
いえ、超スーパー毒消しでトトラルだって…きっとブルーノも喜ぶ。
でも、手をそのまま離した。
この幻影園へ雪菜はお邪魔した身だ。
ジッと見つめながら、物思いにふけっていた雪菜はその気配に気づかなかった。
ワサワサ…。
ワサワサワサワサ…。
『このままじゃ間に合わない…誰か誰か…』
!!
誰?
誰なの?助けを求めてるの??
耳の奥に聞こえた様に感じた声の主はキョロキョロしても見つからない。
相変わらず、優しい風が吹くばかり。
『あと少し…リュカ様。
間もなく参ります。あと少しお待ち下さい…』
この声は!!
そうよ、ギャビンよ。
でも…ココニイルわけがない。
『雪菜…君に会いたい。せめて一目』
頭の中に、ボロボロのギャビンが崖のヘリに掴まっている風景が見えた。
そう、頭の中に…。
危険が迫ってる。
そう、間違いなくリュカ様やギャビンに危機が迫ってるんだわ。
でも…マティさん・リカルド…皆んな。。。
『どうする?選ぶ時には、人は何かを捨てねばならない。君はどうする?』
まただわ。
あの声…。
幻影園への道を恐らく開いた存在。
私の返事は…決まっている。
『お願いします。どうかギャビン達への道を開いて!!』
サイラス。
リカルド…皆んな。
私は行くわ。
迷いのない私に不思議がる声。
『ふむ。単純な生き物なのか、人とは。
まぁ良い。この選択はお主自身のモノ。進むが良い!!』
その瞬間、目の前がぐにゃりと歪む。
上下が逆さになる感覚に気持ち悪くなり思わず胸を押さえた。
本当は一言言いたかった。
単純なんかじゃない!!
仲間を信じてるだけ。
絶対、ギャビンの方へ行けって言うはずだと。ここは我々に任せろと言うだろうと知ってるだけ。
崖のギャビンを助ける力なんてない。
でも…。
呼ばれたもの。
確かに私の名前だった。
だから…
今、行きます!!
待っていて…ギャビン!!!




