ギャビンの試練
ーギャビン視点ー
久しぶりだ。
こんなに高揚したのも、不安や恐怖心を感じたのも。
一人きりでの冒険。
皇帝となった日、それは二度と不可能かと思っていたがこんな形で叶うとは本当に人生は意外に満ちている…。
まぁ、若干無理強いをした記憶はある。
しかし、リュカ様のお呼び出しは恐らく私と雪菜殿のみ。
危険は承知の上だ。
扉が開いたのだ。
準備は万端にし、とにかく自分の果たすべき事を為すために前へ進む。
。。。
一瞬も気の抜けぬ場所。
何故なら、この道は変化するからだ。
樹々の生い茂る森に延びる一本道を進んでいるつもりでも、数歩で周りの風景が変わる。
突如、荒れ果てた平原となったかと思えば、岩山になる。
崖に近い上り道を越えようとすれば、途中で下り坂に変わる。
ある意味命懸けだ。
一瞬でも、気を抜けば転落する。
この試練を最も難しくしているのは、魔法は使えぬと言う事だろう。
[妖精の住む山は、許されぬ者を拒む場所。魔法も使えぬ。近道も無い。
呼ばれし者は疑ってはならぬ。
。。。
。。
この道の先にあるモノを]
記載のない箇所はあるものの、信じて進む。
それのみと心に決めて。
ひたすら無心になり進む。
しかし…。
この後『信じる』事の難しさを思い知らされる事になるのだが…。
どれほど進んだろう。
幾日も経ったと思う。
干肉を口に入れて、噛みながら進む。
水は朝露から。
持っている水はなるべく節約し、夜になるとその場に蹲り眠る日々。
過酷とも言える垂直に近い崖の連続も、必死に這い登るのみで。
時には前も見えない雨。
暴風・吹雪・日照り。
段々とこの道で正解なのか…。
疑問が浮かびそうになり、首を横に振る。気を引き締めて再び進む私の目の前に…。
!!!
いったい、あの光は?
雪菜殿!!!!
光に包まれたフローラ殿の姿をした雪菜殿が目の前に立っていた。
「雪菜殿!!
こちらへ来れたのですか?
サイラス達は?
それにしても、何故フローラ殿のお姿を?」
畳み掛けて聞きながらも、雪菜殿に近づいたその瞬間!!!!
痛い!!!!!!
手に絡みついている蔦から刺が何本も腕に突き出ていた。
幻影…。
力づくでとにかく、腕を引き抜こうとして激痛となる。
毒か…。
侵入者を拒む。
それは理解していた。
だが、それでも持てる力全てを込めて蔦から手を剥がして座り込む。
血だらけになった腕よりも、目の前に広がるクレバス。
あと一歩進めば。
周りを見れば、フローラの姿をした雪菜殿はいない。
腕の止血をすると立ち上がる。
毒は、幸いにも決定打ではないようだ。
前に進まねばならない。
一歩一歩進むも、やがて毒は体力を奪い出す。
必死の私が、ポケットに手を入れたのは偶然だった。
そして、また私は思い知る。
『雪菜印の薬草』の威力を。
それをくれた雪菜殿の言葉をと共に思い出す。
『ギャビン。
薬草は本当に凄いのよ。
前に先生に聞いたの。病がある時は自然の中に必ず答えがあるって。
必ず、打ち勝つ薬草が存在するって。
それを見つけるのは、我々薬学を修める者の使命なのよ』
道端の雑草を必死に見る雪菜殿から聞いたその話を…。
再び、進む私の前にまたもや試練が姿を現す。
もはや迷いの消えた私は、ひたすら無心に進む。
リュカ様の山へと。




