諦めの悪い事の意味!!
ー雪菜視点ー
あの美しい紫色の髪は、くすんでいて。
いえ、それどころじゃないわ。
あの痩せ細った身体よりも、艶の全くない肌色よりも不気味なモノは…刺青の様な身体中にある模様。
『雪菜。
これは、無理かもしれない。
サイラス達を連れてきて楽にしてやる方がいいのかも…』
碧の言葉に私は首をブンブンと千切れんばかりに横に振る。
絶対ダメ。
諦めの悪い事。
それは、薬学を修める私の最初の学び。
『良いか?
薬学を志す者にとり一番大切な事は何だと思う?
研究心か。まぁ、それも大事だ。
正確さか?それは当然の事で言うまでもない。
私は諦めの悪い事だと思っている。
医師も我々も命を守る者達が諦めたら患者は誰に頼れば良いのだ?』
優しくて、でもとてつも無く厳しい先生の言葉。
さぁ!やるわよーー!!!
『ふふふ。お説教とは…。
直接触れるのは危険だが、止まらないか。
ならば!!』碧は独り言が多いわね。
小さな声だから聞こえないし…
そっと触れたマティさんは冷たい。
完全に低体温症状態ね。
ぺたぺたと全身を触って服が汗で湿ってる状態だと気づいた。
このままじゃダメ。脱がして毛布を巻き付けて。
。。。
医療よ、雪菜!!
男性の裸が初めてとか、関係ないから。
命を守る行為なのだから、躊躇っちゃダメ!!
お、重っ!!
意識のない人間は重いのよね…
ヨイショと。必死の私は側から伸びた手にビクッとして固まる。
「さあ、春川。
早くしないと心臓がもたないぞ?
強心剤はあるのか?」
その声は、落ち着いたいつもの課長の声。
もしかして、今一番聞きたかった声かもしれない。
我に帰った私は、様々な薬草の準備をするも意識のないマティさんに与えるのは危険だからと別の方法を探る。
必死にどうすればと悩む私の目にあの石が飛び込んできた。
問題はたぶんアレね。。。
アレを何とかしなきゃマティさんはダメになる。
目を覚ますにはあの石を…。
そうだ!!
『緑葉の光』!!!
マティさんが以前にくれた超凄技のお品物よ。
アレで『世界樹』への道が開かれたんだもの。
コレ!!
『緑葉の光』の種!!!
実はあの時、沢山の種を回収したの。まぁ
力は無いよって言われたけど。
でも、とにかく何でも試さなきゃ!!
『まさか、『緑葉の光』から種を取ったのか?おぉ、本当の前代未聞。
雪菜よ。その種をあの石あてに投げつけて見てやれ』
え?
あの石…。
当たるとは思えない。
でも、この雰囲気だと私以外がやっても無駄。と、言うところでしょうね。
では…。
ぽすっ。
ぽすぽす。。
。。。。。
アレ?
全く違う場所に行っちゃう?!
忘れてたわ、自分の運動神経。
そうよね、私の運動神経じゃあんな小さな的に当たらないって!!
やっぱり近づいて…『ダメだ!!雪菜!!!』
金縛り?!
碧なのね…止めるのは。
でもね、助けるにはそれしか無いなら私はやるわよ。
テテテテテテテテ。。。
テテテ???
何の音??
課長と私が振り返るとドアからミニハリネズミ達が列をなして近づいてきて、何か投げては帰っていく。
何コレ?
土の精さん達ってば、何を投げてるの??
『雪菜、精霊石だ。凄く小粒だけど効いてるぞ?たぶん…』
本当だわ。
投げた石は、触れた瞬間砂になって消え去るもの。
次から次へと投げるのを見て、もう一回私も挑戦する。
ぽいっとな。
あーーーーー!!!!!!!
ま、間違えた!!!
投げるモノ…間違えた!!!
『オゼルの大刀』を投げちゃった、どうしよう。
課長!!!
課長が膝をついて苦しそうにしてる?
更にはエペも。
『コレが其方の望みとあらば、応えようか。
暗黒の影よ、消しされ。
浄化!!!!!!!』
刀が勝手にあの石の影に刺さる。
石が、ガタガタと音を出す。
影を縫い止められた石は全く動けないも、まだ踠いてる。
どう?
効いてるの??
そんな不安と緊張の最中でも、全くペースを変えずに土の精さん達はコツコツ投げてるし。
バキッ!!!!!
石が。
石が割れた?!
暴れてた石が真っ二つに割れたわ。
どうなるの?
『我とて長くこの世に在って、初めて見る。
恐らくは…』
石の中から真っ黒い靄が出てきたわ。
こ、怖い。
何か不気味な怖さを感じる。。。
靄は、こちらを見た気がした。
ええー!!!!
に、逃げたいけど、足が震えて動けないし。
ぎゃあ!!
来たーー!!!!!
?!
課長?!
私の目の前に立ちはだかる背中は紛れもなく課長のモノで。
呻く声はすれど、課長は一歩も動かない。
どうしよう。
どうすれば良いの??
「春…か…わ…。ふ、ふ……え」
途切れ途切れの課長の声。
笛??
そうか!!
こういう時ってば、鎮める音楽があるわ。
アレならば…。
私は震える手で笛を構える。
ひたすらに、願いを込めて。
祈りを笛に乗せる。
ポンポン。
誰かに肩を叩かれてハッとした。
どうなったの?
課長ってば、もう大丈夫なの??
「あれから随分長い時間、春川が笛を奏でてくれたから我が主人と土の精の助力が届いたのだ。
ほら、見てみろ」
指を刺された方を見れば。
薄っすらと透けた人型をとった何かが浮かんでたわ。
あの黒い靄が。まさかの??
『☆○※*○□●◎☆★』
??
何か喋って嬉しそうに笑った人型がそのまま消えた…。
「春川!!
マティさんの目が覚めそうだぞ?」
慌てた私が、ベットで見たのはあの美しい紫色の瞳だった。




