雪菜の能力?!
ふふん〜らら〜♪
あ、いけない。
つい、歌が出ちゃうわ。
薬草に囲まれてると何か幸せなのよね。
昔から…。
それにしても、この薬棚は凄いわ。
種類の豊富さはもちろん。それ以上に精製の仕方が勉強になるのよ!
だから、つい…歌も出るわけ。
それにしてもギャビンさんは凄いわ。
あれ程の怪我なのにあっという間に元気になったし。
いえ。
それ以上の驚きは生活能力!!
王様とか聞いたのは、嘘だったのかしら…と思うほどの高スペック!!
洗濯・掃除なんて朝飯前。
庭仕事から、家具作りまで手を出して来たから本当に助かるー!!
それに、アーノルド。
王子様気質が、災いして分からなかったけど超器用なのよねぇ。
だから、私の大の苦手の裁縫をお願いしたら…
売り物になります!ってレベルで。
力仕事はサイラスだし。
どんなものでも軽々と運んでくれるから、野菜の収穫から収納まで全部お任せ中。
だけど、三人から毎回疑問を言われるのはちょっと困るの。
「雪菜殿。
本当にまた、野菜のお裾分けをするのですか?」
私のお祈りに精霊さんが答えてくれるらしく、野菜達は今日もお裾分けとして、目の前から消えた。
この世界の事に詳しくないから知らないだけで、ルスタの人々は受け入れて無いのでは…と。
どうやら、私が精魂込めて作った野菜を粗末に扱っているとしたら私がどれほど傷つくか心配らしいのよ。
うーん。
それってたぶんフローラのイメージかな?
まぁ、この身体はフローラなのだから仕方ないけど雪菜としての私は31歳よ!
心配ないのに。
「雪菜〜!!
ただ今ーー!!」
あら?
ジェラルド?
ここ暫く全く姿を見ないから心配してたのに、呑気にふらふら飛んで来るし。
(魔法に…妖精。正直最近やっと慣れたのよね。
いくら私がラノベのオタクと言っても、現実だもの。空飛ぶジェラルドに後ずさらなくなっただけマシかも)
「ジェラルド。暫く姿を見ないから心配したのよ。何処にいたの?」
おや。
ニヤニヤしてる?
「ふふふ。聞いて驚け!!
なんと。俺はこの森の外へ出て偵察に行って来たんだ。
だって、雪菜たちはまだココから出られないだろ?だから、情報収集な訳!!」
私の側で静かに作業してたサイラスが急に言葉を挟む。
「それでルスタはどうだったのだ?
王都から軍勢が押し寄せて来たか?」
ええー!!
軍勢って…。
ちょっと、私如きでは太刀打ち出来ない事態じゃない?
ま、不味いわよね。
「ハハハ!!
何をそんな心配してるんだか。
ルスタ国だよ。飢饉ばっかりで民は痩せ細り貴族以外は生きるのに必死さ。
それより。
雪菜!
なんか野菜のお裾分けとかしてたよね?」
私は頷きながら、ホッとしていたら…。
「アレ。近くの村で命綱になってるよ!
もう!!
雪菜は、優しいから。
フローラなんて、何度も酷い目にあったのに。
それより。
何か村が大変そうなんだよ。
変な病気が流行ってさ、そ」
途中から話しの中身に驚いて、身を乗り出していたら…私は突然耳鳴りが!!
あまりの音に思わず頭を抱えて蹲る。
何?
何の音?
人の声…かしら?
『お願いします。
罰は私が幾らでも受けます。
村人を。せめて子供達だけでもお救い下さい。』
!?
もしかして、 村人の声?
祈りの先は…あたし??
せめて、どんな病気か分かれば私も薬を…え?
『高熱、感染力が高い、身体が、頭が痛い…。
助けて〜』
重なり合う声が聞こえる。
これってたぶん、村人の声。
この症状は、風邪で間違いないわ。
たかが風邪って言うけど侮れないのよ。
特に小さなお子さんは、ね!
だとすれば一刻を争うわ。
「ねえ!雪菜ってば!!
もう。急に黙っちゃって。何だよー。
僕の話しを聞いてるの?」
「ごめんごめん。ジェラルド
それどころじゃないのよ!!聞こえるの。
村人の声が。
たぶん、風邪だわ。
でも、事は急を要するから急いで薬を用意するわよ!!」
私はそのまま薬を取りに家に戻ったから皆んなが何を話していたかは、聞こえなかった。
「おい。カゼとは何だ?」と、アーノルド。
「それより、声が聞こえた方が一大事だよ!!
フローラだってそんな能力持ってなかったんだ。
野菜のお裾分けだってそうだよ。初め見た時、どんだけ驚いたか…」
ジェラルドは、フローラとの違いに戸惑いがあるのだろう。
「とにかく、カゼとやらで村人達は大変なんだな?」
サイラスの問いかけに頷くジェラルド。
「では、事は一大事だ。
今、この国で病は隔離政策になる。
そう。見捨てられるんだ。
まるで。
村ごとなかったことに…。」
暗い表情のサイラスに今まで一人黙って聞いていたギャビンが呟く。
「彼女は、特別な人なのだろう。
困っている人の事を見捨てられない。
それこそ、本当の王の役目なのだろう…」
最後の方はほぼ独り言で誰にも聞こえなかった。
それも、そのはず。
雪菜が両手いっぱいの薬や食べ物を持って駆け込んできたからだ。
ギャビンの作ったお裾分け用の棚に並べるといつものお祈りをする。
苦しむ子供の顔が脳裏にチラつく気がした。
だから。
本気で祈った。
その瞬間!
いつも通りに棚の上にあったものは、消えた。
ただひとつ違うのは…。
祈り終わった雪菜が動かなかった事だ。
駆け寄るサイラスは雪菜の祈りがまだ続いてるのに気づいて肩にかけようとしたら手を止めた。
「①の瓶は、1日3回。
食後に。大人用よ。
②の瓶は、高熱が続く人用。
1日一回。
守らないとダメよ。
料理は、薬膳よ。
薬だと思って食べること。
特に身体の弱ってる人にね!!」
説明のような祈りはまだ続いていた。
雪菜…。
詳し過ぎる説明は、彼らに届いているのだろか。
一抹の不安と共にサイラスの心の中に村人の喜ぶ姿が見えた気がした。
きっとそれは、雪菜の能力のお裾分けなのだろう。
サイラスは、雪菜の後ろに同じように跪くと祈りを捧げた。
雪菜の想いが届きますように…と。




