怒涛の幕開け?!
ー雪菜視点ー
ルーベントへ入ってから、水不足の村々が続く。
あの雨は限定的で全体はカバーしてないみたい。
ピテレに敵の本拠地を聞けば、移動してるらしく定まらないのよ。
とにかく、追いかけろ!!とばかりにルーベントの中をぐるぐるしているわ。
『雪菜!!
近いよ…あと少しかもしれない!!』
え?
やったわ!!!
ようやく、この疲れる移動も終わり?!
(姫抱きは、既にゲランの得意技になりつつあるわ…慣れ…る訳ない!!!うー。。)
しかし、近いとは言えピテレの言葉をもとに地図を見れば目的地まで数キロ。
西を見れば、夕日が沈むわ。
地球じゃ考えられない巨大太陽がこの世界。
初め見た時は、異世界だと痛感して覚悟も決まった。
もう、、だいぶ前の話ね…。
それにしても。
本当に地球とは異質な夕焼け。
そのスケールたるや!!
地平線全部を真っ赤に染める。
圧巻の風景!!
そんな風景を見ながら、やっぱり異世界へ来たんだなとしみじみと感傷に浸っていたら…。
『暗闇の強襲は、地的優位性がない我々に不向きだ』課長の一言で今夜は近くの村で宿屋を探しとなる。
この旅ってば。
行く先々の村は小さい村が多くて。
あんまり小さいと宿屋もなくて、納屋を借りたり村長の家に泊めてもらったりとなる。
ふぅ。
けっこーなアウトドアよね。
まぁ、田舎育ちの私には問題ないけど。
しかし…今回は絶望的ね?
だって。
細い一本道を行くけど、家一つない。
こんなに、豊かな森なのに村がないなんて…。
「困りましたね。
我々は野宿も厭いませんが、雪菜殿を外で寝かせる訳にはいきません!!」
バレンの意外にも大きな声が響いた。
「私ならだ…(大丈夫と言わして貰えなかった)」と私が言いかけるけど。
「当然だ!!」メビル。
「当たり前過ぎるぞ?」ゲラン。
二人の音量に負けたわ。
更に…。
「そうだな。筋肉達磨もたまには良いことを言う」あー、課長の煽り癖がまた…。
「そうだったな。失言だった。訂正し謝ろう」
えーー!!!
そんな事で謝罪とか…マジか。
は!!
何か聞こえる?
水音に人の声?!
村よ。村だわーーーー!!!!
馬から降りて相談していたから、私は声の方へと急いで駆け出した。
良かった。
野宿も良いけど、やっぱりベットの威力には敵わないもの…。
「春川!!!
待て、そんな急いで…」
1番早く追いついた課長が怒ってるけど、関係ないわ。
「じゃーん!!!
村発見!!
お手柄かな?」
ん?
課長?!
聞いてます??
「これはこれは、珍しいお客さんだ。
我がアーダ村へようこそ」
あら?
いつの間にか、村の人たちが門の前に集まっていたわ。
随分と大きな村ね。
沢山、村人がいてびっくり。
さっきまで、村長さん一人だったのに…。
ま、いいか。
とにかく、野宿は免れたわ。
「「「雪菜殿ーー!!!」」」
聖騎士団の皆んなも追いついたみたい。
そんなに早く走ったかしら?
「ごめんなさい。でも、ほら。
村長さんがどうぞって!」
無言のままの皆んなを置いて、村長のあとへ続く。まずは私とエペ。
その後に、課長・聖騎士団の皆さん。
へー。
村の中は思ったより広いわ。
どの家も、可愛らしいフォルムで小さめなものが多い。
キョロキョロしていた私が見逃したのも無理はない。
緊張感に満ちた課長の様子も。
ゲランたちが一言も話してない事実も。
変顔も。
全然、気づかずにいたの。
本当に色んな事に気づかないまま…。
だから。
全てが終わった後。。。
事の真相を知った私が、今度こそ色々と猛省する事になり…。
『暴走はしない!!』
と、硬く誓う!!
今度こそ。。。と。
ーバレン視点ー
驚きだ。
いや、今度こそ本当に心底驚いた。
目的地が変遷して、我々の行く先も点々とする日々。
ピテレ殿の様子からも、急がねば不味いと理解はするも中々敵を追い詰められぬまま時は過ぎる。
そんな時、遂に敵方まであと少しと迫るも日暮れ間近。
村もないまま、野宿は不味いと話し合いをしていたその時。
いつものように雪菜殿の暴走が始まった。
だが、今回はいつもと違ったのだ。
そう、
雪菜殿が掛け出したのを追う我々が追いつけぬ事実。
今思えば…
その時、既に事は始まっていたのだろう。
見失いかけた我々。
もし。
エペ殿がピタリと寄り添ってなければ、雪菜殿を見失ったかもしれない。
エペ殿と繋がっている、従者殿が「こっちだ!」と声を掛けてくれるお陰でなんとか逸れずに追いついて気づいた。
何だ…この村は…。
いったい何処から突然?!
先程偵察に通った場所なのだ。
何も無い、森だったのに。
いつの間に?
俺が間違えたのか?
そんな訳は…。
は!!!
アレは…。
「お前たち。絶対に余計な事は言うなよ?
春川に全てを任せるしか無い。
ここはそんな場所だ。
いいな?」
小声の従者殿の言葉に、我々も頷くしかない。
何故なら、雪菜殿が先程から話しかけておられるはずの人間を我々は見えないのだから。
そう。
何も無い空間に話しかけている。。。
それが今の状況なのだ。
そして。
更に、村へ奥深く入ると異様な事態に気づく。
村の家らしきモノは、全て泥や木の塊で。それはまるで、変わった芸術家の作品の様な風景で。
異様な風景に呑まれそうになる。
だが、これは単なる始まりに過ぎなかった。
生涯忘れ得ぬ、怒涛の日々がこうして幕を開いたのだった…。




