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森に囲まれた!  作者: ちかず
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神鳥の呟き…


ー神鳥の呟きー


彼女は不平は言わない。

新人の尻拭いが終わり帰途に着いたのは、すでに11時近かったがもう少しで家だ。




こんな事馬鹿げてる。

彼女の上司となって、数年が経つ。


最初から、気が合わなかった。

営業成績が全ての俺と、薬剤師としてのポリシーが先の彼女。

合うはずがなかったのだ。



なのに、何故だろう。

いつからか目で追う様になっていた。


尻拭いが特技の彼女が、変質者につけられたと聞いた時…からだったかもしれない。


上司としての責任感がそうさせたのか…。

残業をする彼女を家の近くまでこっそり送り届ける事を始めた。

だから、今日とて角を曲がって家の近くに着いたら回れ右をして自宅へ帰るつもりだったのだ。



コンビニに寄った彼女が角を曲がったのを見て、気を緩めたのがいけなかったのか。

それとも。。


目の前で光に包まれた彼女がまるで泥の様に溶けたアスファルトに吸い込まれるのを目にした俺は慌てて近づいた。


そして、手を差し伸べたが彼女は全く気がつかずそのまま…。



俺はその泥へ向かって飛び込んだ。

彼女一人用だったらしい泥は狭くて息も出来ないが諦められない。

無性に駆られた想いに突き動かされ、もがいていたら。


痛い!!!!!


身体が突然バラバラになる衝撃が襲って、手足がもがれる様な痛みに呻き声すら出ないまま…気を失った。


いや、正直助かるとは思えない痛みだった。


あまりの痛みに正気に戻った俺が薄目を開けて初めて見たのは…プサラル。

『最果ての一味』と言われる一団の長。


紫色の皮膚と髪の毛を見たパニックすらも凌駕するプサラルの最初の言葉は…。


「ここは異世界。更に言えばお前は招かざるモノ…このままでは助からぬ」


喉というより笛の様な音色の声が告げる残酷な現実。


痛みが現実を思い知らせる。

返事も出来ずにいる俺に。


「それほど気になる者がいたのか。

ならば助けよう。但し、この作業は俺にも命賭けだ。失敗しても恨むなよ…」


それからの事は思い出したくない。

だが、はっきり分かった事は助かったという事。


いや…プサラルの命賭けのお陰だった。


だが、ショックが強すぎた。

ボロボロの身体が回復する頃には完全なる無気力人間になっていた。


プサラルへ礼すら言えぬほど。


それが変わったのは、ある噂話だった。


『おい、知ってるか?

どうやら『大森林』の魔女が招いた者がヤクソウとやら作って近隣の町に配ってるらしいぞ』『そんな怪しげなモノ。誰も相手にしないだろう』『いや、それがだ。ある村じゃキュウキュウバコとやらのカゼグスリに救われたとか』



この世界が魔法による治癒に頼っているのは体験済みだ。


ヤクソウ。

キュウキュウバコ。


無気力の俺の中にやけに残った。


まさか…。

だが、彼女ならば…。


いつもの様に俺の様子を見にきたプサラルに尋ねればあっさり返事があった。



「噂だが、真実だろう。

なんでも、ヤクソウとやらに詳しい女性だとか。確か…名前がゆきなとか」


「雪菜!!!!!!!!」


俺の叫びに部屋の周りが賑やかになる。


「まさか…お前の気になる者とは『ゆきな』という人物か?」


俺は何度も何度も頷いた。

ここに来て初めて血の通った人間ように心臓がバクバクと激しい鼓動となる。


「ならば!!!

ならば、力を貸してくれ。我々の唯一の希望の星…『ゆきな』に辿り着けるように…」



プサラルの話は、驚く事ばかりだった。

だが、俺の心は定まっていた。


もしかしたら…春川の近くに行けるかもしれない。

もしかしたら…二人で元の世界へ帰れるかもしれないと…。



希望は俺を突き動かした。


扉の為。

春川の為…いや、自分の為。


魔剣に生命力を奪われる日々も。

微かな希望に賭けて、犯罪にも力を貸して。



全ての賭けは終わった…。

春川に一目会えたのが、最後の幸運だったのだろう。



気付かないフリをし続けた俺の唯一の…。



ーアーノルド視点ー


気に食わない男が倒れた。


何かを隠していたのは、気付いていた。

それは命賭けのものだったらしい。

倒れた奴を雪菜が必死に呼ぶ声が響く。


なんと…。

雪菜が『オゼルの大刀』の力を奴に注ぐではないか…。

止めようと前に出ようとしたが。


結局、絶対の力を持つ『オゼルの大刀』が奴を助ける判断をした。


恐らくは、雪菜の切なる願いの賜物だろう。


彼の姿が大きく変わった事など、それほどのものではないが…。



「ぎゃあーー!!!

か、課長…まさかの武士。

そんなコスプレ…ズルイわ…」


『オゼルの大刀』の従臣となった奴の姿に頬を赤らめ慌てる雪菜の姿に辺りが騒つく。

奴は、未だ状況を把握出来ていない。


雪菜専属の護衛となるのだろう。。



…やっぱり気に食わない!!!


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