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森に囲まれた!  作者: ちかず
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また、訪問者?いや、逃亡者?

 あれから数日。

 畠はかなり賑やかになってきた。

 花梨に蜜柑など医食同源となるものを次々と植えた。蓬に南天。もちろん、いつもの野菜も増産。

 芋類に、葉物野菜。どれも少しづつでもその日の内に収穫出来るから問題ない。


 余り野菜をルスタ国へお裾分けする習慣も変わりなく続けている。

 ひとつだけ、変化があるとすればそれは家。

 また増築して薬品加工室が地下室に増え、更に居間が大きくなった。

 台所がとにかく大きくなったのは嬉しい。

 種類が増えた野菜を使って、得意の煮込み料理を作る。

 シチューやスープ類はいつでも食べれる様にスタンバイ状態。

 とにかくサイラスの食欲は凄い。でも、少しずつ痩せすぎた身体が元に戻ってきたようで安心している。


 そう言えば、なぜか森の精霊の話が出ない。

 いいのかしら?

 サイラスに毎日講義をお願いしてるけど、いい案も出ないままだ。



 そんなある日、畠で作業していると突然森の中に一本道が開かれた。

 サイラスとアーノルドとびっくりして駆け寄ると、向う側から人が歩いて来るのが見えた。

 でも、なぜか我々はその道に入る事は出来なかった。まるでバリアのように一歩も近づけない。


 向う側から近づく人影が、ハッキリと分かる頃になると怪我した人だと分かった。

 片腕を押さえて足を引きずるように歩く姿は切迫した様子に見えた。


「サイラス。あの人がこっちにきたら私を呼んで!まずは動かさないでね。アーノルド。薬を取りに行くからついて来て!」

 駆け出す私にアーノルドが話しかける。


「例の傷薬ですか?」

「清潔な布や温かな水がいるの。そっちをお願い。私は薬を取ってくる!」


 救急箱を作って良かった。

 こんなにすぐに役に立つとは思わなかったけど。


「雪菜!」

 サイラスに声に急いで戻るとひとりの男性が蹲っている。


「貴方を治療したいの。いいかしら?

 私の名前は雪菜。薬草を扱う者よ。」


 問答無用で治療するには、意識がない場合に限る。

 問いかけに顔を上げたその人は、渋めな金髪を今は乱してはいるが彫りの深いギリシャの石像のようなロマンスグレーのハンサムだった。

 だが、顔にも小さな傷が沢山あり出血している腕はかなりの深手のようだ。


「頼む。」

 私の目をじっと見つめたり後、彼はそのまま意識を失った。

 慌てて治療に入る。

 服を裂いて、あちらこちらにある傷を消毒。

 数カ所、かなりの深手だが血は止まりかけていた。

 良かった…出血多量は薬ではどうにもならないから。

 毒消しと傷薬の両方をつけると、しっかりと包帯を巻く。


 この包帯も私の手作り。


 この世界って、包帯とか基本的な物の知識がないのよね。白魔法って便利だけどこうなるのね。

 足は折れてるけど、骨の位置はズレてない。

 添え木をして固定するとサイラスとアーノルドの二人に担架で運んでもらう。

(固定の考え方もないみたい。やろうとしたら、サイラスが驚いて止めようとしたもの…)


 担架はその場の手作り。

 二本の棒に布を巻きつけて作る簡易式。

 今度は、二人は担架になんか興奮してたわね。


 家に戻ると案の定、彼の部屋が増築されてた。

 地下室に運ぶのには苦労しつつ、彼を寝かせる。

 今夜は熱が出るかもしれない。

 傷が化膿していたから。


 解熱剤や化膿止めを用意して二人には夕食をいつものスープでとってと伝えるとサイラスから一言。


「雪菜。我々の事はそんなに構わなくても大丈夫です。それより、雪菜の身体は大丈夫ですか?

 夜通しの作業なら我々で。」


 サイラスの言葉を遮る。

「容態が安定したら頼むわ。まずは今夜が山場だもの。どうやら毒が使われてた形跡があるから。」


 サイラスとアーノルドはアイコンタクトを交わして、改まって私の方を向くと彼の正体について話し始めた。


「見間違えでなければ、彼はある国の王様だったはずです。我々がこの森に入る前には国民に慕われる良き王だったはず。

 その彼が毒でこの傷ともなれば内乱が考えられます。雪菜がもしかしたら巻き込まれる可能性もあります。それでも良いのですか?」


 サイラスの目からかなりの危険性がある行為と分かる。分かるけど日本人の私には国とか内乱とか良く分からない。

 ただ分かるのは、かなり毒に侵された傷ついた男性ひとり。


 躊躇いなんかあるはずもない。


「もちろん。さぁお願いした薬を取ってきて。

 私はこの人に、今一度毒消しを飲ませるわ。」


 キッパリとした私の態度に二人は笑みを深くして元気よく走っていった。


 その晩。あの男性はかなりの高熱がやはり出て魘され続けた。


「なぜ?なぜなんだ!言ってくれ!!」


 何度もそう魘される彼は身体より心が傷ついているのだろうと思う。

 水分だけは何とか取らせると、薬をこまめに変える。高濃度のスープ作りを合間にしてはそのスープも飲ませる。

 サイラスもアーノルドも協力してくれた。


 そう言えば、ジェラルドの姿をしばらく見ていない。彼は妖精だけあって気まぐれだからプイッと消えるのはいつもの事。

 今度はちょっと長めだけど。


 何日も続く高熱に男性の体力頼りに最後はなる。

 解熱剤もあまり与え続けるのは良くないから。



 1週間後の朝。

 水を取り替えに行っていた私が部屋に戻ると男性が半身を起き上がり立ち上がろうとしているところだった。


「ダメよ。寝てなくては絶対ダメ!」


 叫ぶ私の声にサイラスとアーノルドも駆けつける。


 男性は無言のままあくまで立ち上がろうとしているところだった。


「ギャビン殿。貴殿の気持ちも分かるがこの雪菜殿の寝食を忘れた看護がなければ貴殿の命もなかっただろう。ここは『大森林』のベラ殿の家。いや今は雪菜殿の家。

 まずは身体を治されよ。」


 サイラスのセリフに彼が今まで属していた世界が身分制度があるのだと気がつく。

 王様かぁ。日本人の私にはラノベの王様くらいしか知らないしなぁ。


 ギャビンと言われた男性は、そのままゆっくり半身をベットに預けた。

 まぁ、あの高熱の後だから当然起きあがるのもびっくりなんだから。


「この様な姿勢のまま申し訳ない。

 雪菜殿と言われたか。私はギャビンと申す者。

 追われる身なればすぐさまお暇乞いをすべきところだが、今しばらくこのまま置いて下さると有難い。」


 微かに下げた頭は、彼の今の体力の限界。

 さすがは王様と感心しつつ答えた。


「もちろんよ。この家も貴方を迎い入れると決めたみたいでこの部屋は貴方の部屋よ。

 まずは身体を治さなくっちゃね。さぁ雪菜特製のスープを待ってるから待ってて。」


 良かった。一時はダメかと思ったから余計に嬉しさが込み上げる。

 私はランランしながら台所へ向かった。


 残った三人の話し合いを聞く事もないまま。



「久しぶりですね。デルタライト王よ。

 かの大帝国の王にかような場所でお目にかかるとは。光栄の至りと申すべきですか?」

 アーノルドの声にはかなりの嫌味が込められている。


「アーノルド王子。久しいな。

 そう嫌味を申されるな。ルーベント精霊強国との同盟破棄は其方の国の事情。

 其方が一番ご存知のはず。

 我は争いを好まぬのでな、同盟破棄でとどめたつもりだったが。

 さて、フローラ殿でなく雪菜殿である不可思議から伺いたいが。」


 サイラスの事情説明中もアーノルドの鋭い目はギャビンを釘付けだったがギャビンの方はサイラスの話を聞きいっていた。


「成る程。ここは希望の地なのだな。

 では、追われた身なれどこの場所にいる意味を今一度考えねばなるまい。あの健気な雪菜殿の誠意に応える為にも。」


 最後のセリフには、三人とも頷いた。

 ギャビンの朧げな記憶にも彼女の励ましや看護の姿が残る。



「あら。サイラスとアーノルドは部屋から出なさいよ。まだお話し出来るほど回復してないわよ。

 ギャビンさんの意志力のみで起き上がってるのだもの。

 さあ、ギャビンさんも意地を張らずに寝て。」


 崩れ落ちる様に、横になるギャビンの顔色は確かにかなり青白い。


 二人は静かに退席する。


「さあ、食べて。」

 スプーンですくって口に運ぶと照れたようになるが雪菜の方が強い。


 少し口にした後、また薬を飲まされてギャビンは目を閉じた。

 寝てはいなかったが疲れて目を開けてられなかった。



「良かった。この世界の毒消しなんて詳しくないから焦ったわ。熱が下がって一安心ね。」

 寝ていると思った彼女はそう言い終えると部屋から出て行った。



 残ったギャビンは、不思議な縁に想いを馳せた。


 片方では裏切られ命すら奪われそうになり、見知らぬ他人の彼女には命を救われ。

 森の入り口で思った事を今一度思い返していた。



「大森林の精霊よ。この身が未だ役立つならばその入り口を開け給え。そうでないならこのままここで朽ち果てる事を許し給え。」




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