捉えた『最果ての一味』
ーバズール視点ー
月明かりが明るい夜だった。
希望が叶う日が来ると信じてはいた…。
だが、目の前の光景は生涯忘れる事はないだろう…。
命令を受けてこの森に着いたのは…
この『大森林』の異変に気付いた日から数日が経っていた。
何という事態だろう。
コレは…
完全なる拒絶。
全てからの拒絶だ。
いや、この状況は、『大森林』の精霊さえも存在そのものを懸けた結果なのだろう。
敵は…
『最果ての一味』と『オゼルの大刀』
最悪のコンビネーションに鍛冶屋バンブル。
『大森林』の終わりを意味すると誰もが思っていたのだから…。
だからこそ!!
一縷の望みに2日間の間、何頭もの馬を潰して走り続けた。
最低限の栄養のみで駆ける俺について来れるのは、我が隊でも数人のみで。
それでも、間に合うとは思って無かった。
フラフラになり到着した俺が目にしたのは…
森の前で、蠢く数人の人間。。。
恐らく見捨てられた『最果ての一味』だろう。
確保しつつも、初めて生きた『最果ての一味』の確保だと少し浮かれた。
奴ら、謎の集団『最果ての一味』。
奴らを生きたまま捕らえた者は無い。
正体不明の存在。
しかも…
狙ったモノは絶対に外さない。
だからこそ、誰もが手を焼いていたのだ。
ようやく、だ。
ヒントをやっと手に入れ…ん?
不味いぞ!!!
捕らえた者たちが急に顔色の悪化し出したのだ。
何という…愚かにも油断した自分に地団駄したい心持ちになる。
毒か…。
浮かれる前にその可能性を一番に考え対処すべきで。
「隊長!!
諦めるのは、早いです!!
コレからば…」
部下が差し出してくれてのは、雪菜殿に頂いた『救急箱』だ。
そうか…。
俺は慌てて、毒消しを苦しむ奴らの口に突っ込む。
どうだ?!
いけるか?!
かなりの猛毒だろう。
既に息絶え絶えの様子にやはり、無理なのではと諦めかけたその時…!!!
「目を、目を開けましたよ。
隊長、やはり雪菜殿は凄い。こんな凄い薬…俺初めて見ました…」
何と言う…。
俺も初めて見たさ。
聞いてはいたのだ。
だが、我々はどこかで未だ魔法使いの治癒こそが最高の治療だと信じていたのだ。
だから、『薬』を軽視してるのかも知れない。
頬に赤みをさした『最果ての一味』の奴らに一言、
「どうだ?
コレが雪菜殿の真価だ」と。
奴らが俯く。
思うところがあるのだろう…
「本来ならば、失敗した我が身は要らぬモノ。しかし…
我々とて知らぬモノではない。
彼女が、旅の中で様々な村人や病気の人間に手を差し伸べたのを知っている。
懸命な彼女に救われた中には、我々の…」
黙り込む。
『最果ての一味』に入ると、二度と故郷に戻れぬと聞いている。
奴らの中に、少し変化が見えてきたのか?
「隊長!!
見張りから連絡です。
『大森林』の中に、点滅する光を見たと」
そんな馬鹿な。
閉じた森の中を我々が窺い知ることが出来るとは思えぬ。
そう思いつつも、一縷の希望と共に精一杯近づく。
あまり近づくと、森の出す魔力に弾かれるから…
ジッと見ている俺の頭の中に彼女の台詞が響く。
「お留守してくれる人がいるの。
私達の畑も守ってくれてるしね。畑はね、やっぱり手を掛ける。
土にただ頼るのは違うと思うの」
『ただ頼る』
それは、この世界の者達の姿かも知れぬ。
精霊や妖精の力に縋り、魔法に縋り。
そして、今他世界の雪菜殿にお縋りする羽目になるのかもしれない。
「おい!!
伝令を出せ。
この地に我々の全隊員を配置する。
陛下には、俺から許可を得る」
決意を込めて命じた。
我が隊は、国の民を護るモノ。
しかし…
今、この森を護る事は…遠く我が民を護る事になるはずだと。
そう、信じよう。
雪菜殿が、森を開いて出てくるその日まで…。
例え、『オゼルの大刀』が相手でも必ずや!!
「副隊長!!
次のことをやるぞ。
一つ 我が隊の拠点作り
二つ 仕掛けする
三つ 街道に見張りを立てよ
四つ サイ村長に連絡を取り、協力を仰げ」
雪菜殿…。
最善を尽くしてお待ちします…




