アーノルド!!!!
ー雪菜視点ー
心細さを隠して、凛としたゲルガーの様子に何故かホッとする。
無論、こんなにきっぱりと『僕に任せて』と言ったいつもらしからぬゲルガーだけど…
やっぱり
足…震えてます!!
ゲルガーで間違いないわね。
でも、いつものゲルガーで二人を助けられるのかしら…、
『闇を司る力を今こそ解き放て!!理の中にある人々を当たり前の場所へ』
え?
今、ゲルガーが解く前にアーノルドが少し動いた様な…?
パリン!!
ガラスの割れた甲高い音がしてと思った時には、エイダムはいつも通りに立っていた。
「いったい…何がどうなってるんだ?!」
と、混乱真っ盛りの様子に納得。
そうねよ。
固まってた記憶はないだろうけど、辺りの様子は変わったわよね。
キラキラした子たちはもう、いないし。
エイダムさんは元どおりなのに…アーノルドは?!
半分動けるのに、半分は固まってる様子で苦悶の表情だ。
どうして?
何故、アーノルドだけこんな風に??
そんな私の疑問は…その後、すぐに答えが聞こえてきた。
「雪菜!!
コレは動けない様に止めたはずの時の中で、彼が抵抗したからだ。
もちろん、普通なら抵抗しても無駄なところ何故かアーノルドは微かにだけど、動いていたから。
じゃあ…どうすればと聞かれても僕の力じゃどうする事も出来ないなぁ」
困った様子でモジモジするゲルガーは、懐かしい感じだけど、味わってる暇はない。
いよいよ、アーノルドの顔色が蒼白で!!
『時の砂さえあれば…。』
ん?
誰?
誰かの声がした気がするわ。
あの声…聞き覚えがある。
確か…カナブンに変身したはずの砂漠の精霊の声だった気がする。
砂と言えば彼だもの。
もしかして、彼ならば…。
とは言え、何処にいるか皆目見当もつかない。もしかして、あの時の流れの中へ消えちゃったんじゃ…。
『我、砂漠を治めるモノなり。
月影に現れ、朝日の中から生まれるモノ。
その名も、『時の砂』よ。
今こそ、我の前に顕現せよ!!』
え?
何の声??
まるで地面そのものが話し出したように。
大地から、響く低く荘厳な雰囲気の声が辺りを包むように話したその時!!
私の目の前に、現れたのは真っ白な布を全身に纏うモノ。
不可思議な雰囲気も、急に現れた事もツッコミたいけど。
その手。
手に持っているのは、もしかして…。
『時の砂』?!
『コレを其処の者にかけよ。
さすれば、時の流れの中に彷徨う半身はその者に戻る。
但し…そのモノは既に人間の域より半身は外れておる。
それを忘れるな』
声は、間違いなく大地から聞こえた。
目の前の存在は、一言も発しないまま…。
何面にもカットされたキラキラ煜る瓶よりも、砂の美しさが一際素晴らしい『時の砂』。
目の前の存在から渡されて、躊躇う間もなくアーノルドへ掛ける。
もう、時は無い。
そう、分かるほどの弱った様子のアーノルドに瓶からサラサラと砂を降らせた。
サラサラサラ……。
砂は、様々な色を姿を変えながらアーノルドの周りをまるで生き物の様に回る。
螺旋に、クルクルと回りながら…僅かなはずの砂のせいでやがてアーノルドの姿が見えなくなる。
焦る…。
もし、ダメだったから。
間違った方法を頼っていたら。
出来る事のない身の辛さを。
待つ身の辛さをしみじみと噛み締めながらも、黙って待つ。
だって…。
信じるって決めた事。
『時の砂』をくれた不可思議な存在を。
回っていた砂が一斉に、地面に落ちてゆく。
まるでスローモーションの様に。
アーノルド!!!!!
崩れ落ちたアーノルドの側へと駆け寄る。
いつの間にか回復していたエイダムも側にいた。
「アーノルド?!
聞こえる?意識はある?」
呼吸は、整っている。
顔色も悪くない。
熱もない。
確認する度に手が震える…。
「アーノルド、アーノルド」
確認しながら、必死に声をかけ続ける。
届く事を信じて…。
目が?!
目が開いた?!
「あれ?
雪菜、無事でしたか?心配しました」
ケロっとした顔でスックと起き上がると私に優しく声をかけてくれたの。
でも…。
もう!!!
コッチの台詞よ!!
ありがとう。
気がついてくれて。
ありがとう。
いつも、大切に思ってくれて。
泣かないって思っても、涙が溢れた。
良かった…。




