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森に囲まれた!  作者: ちかず
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決意…諦めない心…。


ーエイダム視点ー


ここに来るべきではなかったのだ。

理解はしていた。

だが、欲が勝ったのだ。


もしかしたら、役に立てるかもしれぬと。


無謀な欲の為に、今!!


雪菜殿を巻き込んでいた。

こんな影など。


避けようと思った瞬間に、雪菜殿が目に入った。庇ったのは、アーノルド殿。

私は出遅れ上に、自分が巻き込まれたのだ。


激痛の中で、必死に雪菜殿をせめて巻き込ませないと硬く誓うも…結局は助けられた。


二度…命を救われた。



欲はその瞬間に消え去った。

己の分に合う役目を果たそうと。


だが、この異様な森はそんなに甘くはなかった。


次々と出会う、有り得ない事態。

そして、とうとう最悪の事態となる。


アーノルド殿が倒れた。


その倒れる数分前…

アーノルド殿が耳打ちをした。


そんな…


絶句するも、

覚悟を決めた人間の潔さがかえって重くのし掛かる。

だが、力不足でも私に託して下さる彼の心にも報いたい。


いつまでも、アーノルド殿を抱きながら泣き続ける雪菜殿の肩に手を置いて…


「さあ、彼の意思を無駄にしてはいけません。先へ進みましょう」と。

恐らく彼が望んだであろう台詞を声掛けた。


ん?


何かオカシイ…。


ぶつぶつ呟いている?!



「やるしかないわ。

とにかく、何でも試さなきゃ!!」


雪菜殿は、落ち込んで泣いていたのを既に辞めていた。


「ゲルガー。お願いがあるの。

あの樹の時間を早めてくれない?」


え?時間を早める?!

そんな事が可能なのか??


「ふふふ。

名案だが、そんな技。

私には出来ないよ?」


少しせせら嗤う彼の様子に、やはり無理なのかと理解する。

そりゃそうだ。

そんな事があったら困る!!


「いいえ。

貴方は闇を司る者。

闇は、我々に真なる休息を与えるモノです。だとすれば、時間を操る精霊は闇のみのはず」


そ、そうなのか?!

このピンチに雪菜殿の落ち着きを驚く。


『なるほど。

もしだ。もしそうだとしても何故樹の時間を早めるのだ?

奴の時間を巻き戻すのではないのか?』


彼女は首を横に振る。


「私に考えがあるの。お願いします」

頭を下げて頼む彼女の姿からは、凄まじいエネルギーを感じる。


彼女は頭を上げないままだ。

ゲルガーがニヤニヤしていると、我々を導いていた金色の蝶々が頭の周りを周りだした。



煩そうにするゲルガーが嫌そうな顔をして。


『分かった。だが、単に数ヶ月の時を進めるだけだ。我とて制約があるのだから』


それを聞いた途端に、雪菜は懐から出した何かの薬を樹のウロに入れた。


樹が一瞬、揺れた気がしたが…。


『時よ。進め・戻れ。

その揺るぎない流れの中からこの樹をそっと外せ!!


進め・進め。

樹の時間が数ヶ月の時を経る!!

あ!!』


!!!


それは、私にも何の対応も出来なかった。

何故なら、雪菜殿が素早くゲルガーと樹の間に立って何かを突き出したからだ。

完全に全員か隙を突かれた。


樹は、ゲルガーからの干渉を受けてすぐに沢山の実をつけた。

だが、それらもあっという間に枯れてただ一つの実だけが樹に残った。

これも、雪菜殿が何かを突き出したからか?


「やったわ。

この種に樹のエネルギーを注ぎ込んだはず…。」

雪菜殿。


何と…。

まさかあの、水喰い草の種の殻を樹に埋め込んだのか…。


「だって、アーノルドが我が生命を注いだはず。そう呪文を唱えていたわ。

ならば、この樹の中に眠るアーノルドの生命を種に移して…」


雪菜殿は説明しながらも、祈るような表情でアーノルドの近くに座った。


種を胸の上に置くと。


口に何かを含んでアーノルド殿の口へと注いだ。



苦悩の表情から、トンデモナイ何かを口移しで与えたと理解した。


「エイダムさん。お願い、この種をアーノルドの上で割って!!!」

苦悩の表情のまま、雪菜殿が叫ぶ。


私が慌てて、種を胸の上で割ろうとするとゲルガーが側に来て『力を貸してやろう。我が時を動かしてまで作った実だ。そら』と。


割れた種からは、何も出ない。


ダメなのか。

雪菜殿の必死の努力も、さすがに届かなかったのか…。



と。思ったその時。


「ぐっうぇーーーーーーー!!!!!!」


のたうち回るアーノルド殿。


!!!



「「アーノルド!!!」」


真っ黒な髪と目を持つアーノルド殿が転げ回っていた。



目が覚めた?!


いや、確かに彼は…


「この世界には、仮死状態という言葉はないのかしら?

気付け薬よりは、かなりキツイ薬。

ヒキオコシと言うのに似た草を煎じておいたの。や、役に立って良かったぁ。


怖かった。

すごく。本当はものすごく怖かった…」


ボロボロと宝石の様な丸い涙を次々と流す彼女の隣でアーノルド殿は未だ転げ回っていた。


彼女の手は、まだ震えていた。



強い決意。

諦めない心。


見事過ぎる心を持つ彼女の流す涙は、私のよく知る市井の女性たちと変わらぬ様に見えた。


だが、その姿こそ…

彼女の奥底に眠る強さの一端を見た…そんな気がしたのだ…。






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