蠢く影?!
ーアーノルド視点ー
「だから!!!
俺にも分かんないって言ってるでしょ!!
もう、この分からず屋!!」
喧嘩をしているのは、エイダム殿とブルーレルだ。心配なのは、誰も同じだがエイダム殿の忍耐力は脆弱らしい…。
『おっ?雪菜が戻るぞ!』
ゲルガーの一言でピタッと言い合いも止む。
しかし、俺には不信感が募るばかりだ。
落ち着いた雰囲気のまま、ソファーに深く腰掛けたゲルガーを訝しげに観察してる間に雪菜が消えた時と同様に突如現れた!!
なんと…フローラと雪菜が混じった様なその姿は??
緑の目。
しかし、身体はそのまま。
今の雪菜の緑の瞳は、フローラのソレを思い出す懐かしいモノで。
しかし、やっぱり雰囲気はいつもの雪菜の様だった。
おや?
その魔力?
フローラの香りがする。
そう。フローラの逸脱した力=緑の手。
そして、一番の違いはキラキラとした光を纏っている事だ。
あれ?
碧は?
肩にいたはずの碧は、消えていた…。
まぁ、俺の目でも時折しか見えない不思議な祝卵から生まれたモノ。
『雪菜!!
飲まれるなよ?な!!』
飲まれる??
何に?
では、この姿はフローラが雪菜殿を乗っ取ろうと?
『アーノルド。
口から言葉が漏れてるゾ!!
いや、今いた世界からのお客さんだよ。
そうだ!お前だよ。
そろそろ姿を現せよ。
俺の目は誤魔化せないよ』
影が!!
雪菜の影が歪み出した?!
目を覚ましてもぼーっとしてる雪菜に不安を感じながら抱えていたエイダム殿すら不安そうに眺めていた。
見えるのか?!
あの影が…。
何かが…
実体化するのか??
歪み出した影はやがて一つのカタチを取る。
そして…
『まさかこんな場所に闇の精霊王が潜んでいるとはツイテナイなぁ。
まぁ、良いや。
初めまして、皆さん』
人のカタチはしていた。
だからこそ、不気味に見える。
砂で出来たその姿…。
「貴方、誰なの?
もしかして、砂の精霊かしら?
初めまして、雪菜です」
雪菜、真面目に挨拶とか。
こんな場面でその優しさを出さなくても。
『へぇ、俺を嫌がらない奴がいるとは。
お前、俺を怖がらないんだな?』
奴の真っ暗な瞳は何もかも吸い込みそうで思わず目を逸らした。
ここにいる全員がそうしたと思ったが、どうやら雪菜とゲルガーは違ったようだ。
「水も緑も樹々も大地もそりゃ大切よ。
でも、砂漠にもその意味はある。
お婆ちゃんが言ってたわ。
世界を創るモノは、神様が全部を必要だと定めたと。
人間だけが、自分にとって都合の良し悪しで判断するんだって!」
。。。
そんな考え方…。
聞いた事もない。
砂漠すら大切にする心とは…。
『お前さんの負けさ。
だいたい、雪菜に取り憑いて来たつもりだろうがソイツが守っているんだ。
お前さん如き吹き飛ばすさ。
何の為に連れてこられたか、考えるんだな』
ゲルガーと砂漠の精霊の話は、我々には難しい。
しかし気になる点もある。
雪菜を守るソイツとは?
まさかの碧か??
「ねぇ、精霊樹の様子を見に行きたいの。
ブルーレルが無理なら砂漠すら精霊さんなら出来るかしら?」
『ハハハ。
お前さんの、完敗だ。
雪菜の為に、道を拓くんだな!』
立ち上がるゲルガーに悔しそうな砂漠の精霊は、突如雪菜の方へ近づいた。
「ん?
どうしたの?」
触ろうとして手を止めたまま固まった?!
何が?
『無理か。
私が触れば全てを砂に変えられるのだが。
この小娘には効かぬか…。
良いだろう。
精霊樹の所なら私も用事がある。
さぁ、道を拓くぞ!!』
そのまま砂漠の精霊が扉に触れた途端!!
扉は砂に変わる。。。
目の前に広がるのは、いつか見た精霊樹への森なのか?
とにかく、此処は『大森林』だ。
『ほう。
時を超えたか?
やるな、』
え?
ええーーーー!!!
確かに樹々は小さく感じる。
閉じた森への道とは、時を超えるモノなのか?!
不安に思う我々とは別に雪菜は独り言を呟いていた。
「分かったわ。
この道を進めば、精霊樹ね?
ちゃんと、種を持っていくわ!!」
一人頷く雪菜と、我々は砂漠の精霊の跡を追う。
エイダム殿の足が震えていた。
だが、笑えぬ。
私の足も同じ始末だからだ…。




