野菜の収穫。
しょんぼりした様子のアーノルドに早々に根負けして家に入れる。ただし釘は刺す。
日本人の私には身分制度よりも心遣いの方が大事ですからね。
「アーノルド。貴方が何処の誰でも私にとっては単なるお客様。迎え入れるには条件があるわ。」
俯いていた顔を上げたアーノルドの目には縋るような犬の目がぁ。やめてよ。犬好きの私はこの感じには弱いのよ。それでいつも何かしら頼まれちゃうんだから。
「何でも言ってくれたまえ。」
「ふー。それよ、それ。その言葉遣いは禁止ね。
ここでは王子様のアーノルドではなく、ただのお客さんのアーノルドなの。
もちろん、誰もお世話とかしてくれないしちゃんと仕事もしてもらうから。
力仕事も土いじりもあるわよ。出来るかしら?」
ため息まじりの私の言葉にアーノルドはかえって喜んだ。何でも、単なるアーノルドになりたかったみたい。王子様って大変なのかしら?
仕事も喜んでするって言うから、お客さん第3号で決まり。
何処で寝てもらおうかと悩みながら地下室へ降りるとびっくり。
部屋が一つ増えてる??
ジェラルドが驚く私より興奮して叫んでる。
「おお、凄いよ。この家にもう認められるなんて。
この家は雪菜の希望を叶える力を持ってるから雪菜がアーノルドをお客さんと認めた途端にこいつの部屋を作ったって訳。
だけど、どんどん住人が増えるじゃん。いいの?」
ジェラルドの言葉にファンタジーの素敵さに興奮していたみたい。
最後の方は何も聞かず叫んでいたらジェラルドにまた同じ事を聞かれた。
「もう興奮してちっとも聞いてないね。ねぇ、このまま住人が増えてもいいの?」
「もちろん。私一人に出来ることをなんて限られてるもの。
アーノルド。貴方の午後の仕事はこの部屋の片づけで決まりね。
新しい部屋だから寝具とか整えてね。ほらっ、あのドアが倉庫だから。好きなものを取り出して良いわよ。」
地下室へ入った事のないらしいアーノルドは展開の速さに戸惑いつつ何度も頷いた。
地下室へアーノルドを案内して居間へ戻ったら、昼御飯を食べ終わったサイラスが待っていた。
「茶碗洗いは終わりました。次は何を?」
なんて優秀な助手かしら?
何にも言ってないのにもう茶碗洗いを済まして午後の仕事を待ってるなんて嬉しい。
今まで見た事のないスキル持ちだわ。
ニコニコしてたら、サイラスが少し赤い顔になる。
どうやらフローラは無表情だったらしい。
そう言えば顔が筋肉痛かも。頬っぺたが痛いような。
サイラスと二人庭仕事を続けた後で続いては改めて勉強する。もちろんサイラスは先生ね。
探してくれた本を頼りに色々と世界の事を学ぶ。
世界には6個の国があり、戦争は起きてない。
だが、その中で唯一他の国と絶縁状態なのがサイラスの故国ルスタ国だ。
文化レベルは、江戸時代から明治くらいかしら?
精霊信仰は、どの国にも共通しているが、その関係性の深さは色々だとか。
精霊からの恵みこそが豊かさであり、それが即ち国力となるみたい。
そうなると精霊の加護のないルスタ国の貧しさはかなりのものらしい。
「じゃあ、飢饉とか起きてるの?」
との質問にサイラスの顔は曇る。
「残念だが現状がそれだ。
しかもこのままでは更に飢餓が酷くなりやがて国民の半数以上が命を落とす事になると俺はみてる。
噂では他国へ逃れる者も続出しているらしいしな。
本当に危機的状況なんだ。
聖騎士となり他国に居たので俺自身知らなかったのが悔やまれてならない。
知らないで済まされない事態に不甲斐なさを感じているが。」
悔しそうなサイラスに事情は分からないけど、真面目な彼の性格が良く分かる。
飢餓とか、日本人の私には分からない。
でも、サイラスも痩せ方を見れば一目瞭然だもの。
ここの食べ物を分けてあげた方がいいのかしら?
でも、食料庫から出したら森から脱出出来ない私達が逆にピンチだし。
うーん。畠を広げてもっと作るしかないか。
二人でそんな話をして私が考え込み始めたら、ジェラルドが突然大声を出して外から呼んだ。
「雪菜!雪菜!大変だよ。
は、早く『にわ』まで来て!!」
慌てた様子のジェラルドに私達も急いで庭に駆けつけた。
あら?
く、暗いわね。
「これ何ーー!!」
叫ぶ私の目の先には、成長著しい作物が。
いや間違えた。成長し過ぎの作物が!!
私が植えたのは、トマトと胡瓜とほうれん草。
もちろんこちらの言葉とは呼び名が違うけど中身は一緒。
お化け達を収穫しながら、こんなの見た事があるかをサイラスに尋ねると、無いとの答え。
とにかく原因究明より収穫作業を優先にと。
ほぼ収穫作業をサイラスに頼んで、私は家の中でお化け野菜の味見をする。大きいと大味って言われる事があるから。
甘い。味が濃厚でとても美味しい。
そうしてる間にも野菜達は家の中には入りきらない状態に。
サイラスに食料庫に入れるか聞かれて待ってと答えた。ちょっと試したい事が出来たから。
畠に行くと、大量の野菜。
サイラスの話を頼りに、その場に正座をして頭を下げる。お祈りの作法は、日本式ね。
そのまま心の中で祈る。
しばらく祈っていたら、サイラスが大声上げた。
「雪菜!野菜が。野菜達が…」
頭を上げて祈りが通じた事を理解する。
今一度丁寧にお礼の為に頭を下げる。
驚くサイラスとともに家の中に。
「な、何が?何で野菜は。」
驚いたサイラスに答えた。
「野菜は大森林の精霊に頼んで、ルスタ国の人にあげたの。凄いわね、本当に精霊はいるよね。
祈りが通じるんだもの。良かったわ。
精霊へのお願いは祈りが一番って、サイラスの言った通りだったわね。」
あら?一段と驚愕の顔になったサイラスが固まっているが、その後ろから疑問の声が上がる。
「なんで?どうしてルスタ国にあげたの?」
振り向くとアーノルドが同じく驚いた表情で私に聞く。片付けは終わったのね。
「何でそんなに驚くの?
だって野菜はたった1日でこの大収穫よ。
これなら食べ切れない事を考えなきゃ。
食糧不足は、あちらが凄いなら分ければ腐らせないじゃない。もったいなくなくて良いわ。」
呆気にとられた三人をよそに、夕食作りをウキウキと始める。
こんなに美味しいのだもの。
これならもっと沢山の種類を植えて。
雪菜の計画は始まったばかり。




