13話 騎士の追憶その1
いっぺんに書き切る予定だったけど長くなりそうだったので分けることにしました。もう暫くだけお付き合いください。
「騎士たるもの、常に自身の良心に従うべし」
セネカルトの師、先代『聖騎士』ミランダ=ヨークの言葉だ。騎士を志し、彼女に師事するようになってからセネカルトは毎日のようにこの言葉を聞かされた。
実践することを常に心がけた。
誰かが傷つけば治し、虐げられていれば守った。初めはこの言葉に従った結果であった。しかし、次第にそれはセネカルトの自然となっていった。
働きは時間と共に周知されていき、恵みをもたらす聖女と呼ばれたりした。次代の聖騎士はセネカルトで確実だという噂も流れた。そして、
「私は後継にこのセネカルト=クインクスを指名する。セネカルトよ、これからも武を鍛え、自重し、己の心と共に歩んで行くのだぞ。」
「はい。ミランダ様より受け継ぎしこの称号に恥じぬ活躍を!」
15の時に正式にミランダによってセネカルトは聖騎士の後継者に選ばれた。この日から『神の加護』が目覚めた。実は訓練の効果がこのスキルによって増大していたのだが、セネカルトが気付くことはなかった。
18の時、勇者の集いに参加した。その場には『剣聖』を除く神の加護を持つ者が揃っていた。
「やぁ、君が『聖騎士』の加護を持つ戦士かい?僕は『勇者』の加護を持つ者、名をアーノルドという。よろしくね!」
「………セネカルト=クインクスだ。よろしく頼む、『勇者』よ。」
なんだ、こいつは。
姓を名乗らなかったことを考えると、アーノルドは平民なのだろう。これまで歴史の中で魔王を倒して世界を救ってきた『勇者』と同列の存在とはいえ、平民が爵位を持つ貴族階級の人間に馴れ馴れしい口を聞くというのはどうなのだろうか。その辺りを指摘しようとすると、
「初めまして、騎士様!私グレイスと申します!『賢者』の加護持ちです!これから一緒に頑張りましょうね!」
「初めまして、セネカルト様!アタシはコナー!『暗殺者』の加護持ちだよ!よろしくね!」
「お久しぶりです、セネカルト様。わたくし、『僧侶』の加護を受けまして。勇者様と共に、世界を救いましょう!」
「そ、そうか。」
セネカルトの詰問の機会は他の加護持ちの挨拶によって奪われてしまった。
「おいおい、つれないな、セネカルト。これから共に戦う仲間に対してその態度はないだろ?ほらほら、握手握手!」
「む………」
差し出された右手をいやいや握る。握ったアーノルドのその手からは、戦士の意地の様なモノが感じられなかった。しかも、
(こいつは本当に、世界を救うという意志があるのか……?)
身分の違う相手への軽薄な態度。
強き意思の感じられない言動。
これからの戦友への魔法による干渉
セネカルトはアーノルドに対して、この日1日で強い不信感を募らせた。
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「全く………!!!貴様ら本当に世界を救うかがあるのか!?」
程なくしてパーティに『剣聖』アリシア=ハルトマンが加わり、旅が始まった。もう既に2か月が経過し、幾多もの悪魔を倒していくつかの国を救ってきた。だがこの旅が始まってからセネカルト常に苛立っていた。理由は勇者と『剣聖』アリシア以外の仲間にあった。
「何言ってるんですか騎士様!この旅も『勇者』であるアーノルド様がいなければ成し遂げることはできないんですよ!なら、アーノルド様の負担にならない様に私達がお世話をしなければならないんです!むしろ騎士様の方こそ、なぜやらないのですか!?」
「いや、『賢者』よ、貴様こそ故郷に将来を誓い合った恋人がいたのではなかったか!?それを差し置いて『勇者』との夜伽に励むなど不貞、故郷で待つ男に対する裏切りではないか!」
「あぁ。それならもう始末しておきましたよ。ごちゃごちゃうるさかったんで、喉を焼いておきました。私、気付いたんです。「あれ」と誓った愛など偽物だったって。勇者様との、本物の英雄こそが、私に真実の愛を教えてくれるのだと。恥ずかしいですよね。『賢者』の加護を受けておきながら、愛を知らなかっただなんて!」
「なっ………!」
「おいグレイス。明日も早いんだから、口論してる暇があったら早く寝なよ。セネカルトも、下らない話をしてないで明日に備えて早く寝な。それじゃあお休み、また明日!」
もうこれ以上は無駄だと口論を切り上げ勇者のテントを出る。
「勇者様は相変わらずでしたか?」
「あぁ。あれはもう死ななければ治らんだろうな、嘆かわしい。奴のせいでここまで何人の番がその仲を引き裂かれたか。」
「グレイスさんも、シャルロッテさんも、コナーさんも。将来を誓い合った相手が居たはずですけどね。彼らとの仲はどうなっているのでしょうか。………グレイスさんは聞き捨てならないことを言ってましたけどね。」
「2人も同じだろうな。瞳が紫に染まっていた。勇者によって恋人を破滅させられ、奴の肉人形に変えられてしまった。忌々しい、魔王討伐の旅の途中でさえなければ、即座に斬り殺していたものを………!」
「仕方ないですよ、『英雄色を好む』と言いますし、このツケは旅が終わってから払わせればいいのですから!」
「………あぁ。そうだな。今は旅をすぐに終わらせることを考えよう。不貞の裁きは確実に受けることになるだろうからな!」
「そうですね。明日は魔王軍の幹部が巣食う王城への突入ですから、余計な体力を使うべきではないですね。私もそろそろ自分のテントに戻ります。お休みなさい、セネカルト様。」
「あぁ。お休み、アリシア。」
キャラクター紹介No.3
『セネカルト=クインクス』
『聖騎士』の加護を持つ黄金の正騎士。23歳。
魔法、武器術の両方において高い実力を持つ。勇者パーティの中の数少ない常識人。これまでの善行の積み重ねが勇者パーティにいる間に出た悪評もものともしない人望を作った。
黄金の鎧兜と普段は紋章の形で手の甲に納まっている巨大なランスと盾、あと常に腰に下げている剣が武器。左利き。
<ステータス>
Lv.94/99
体力:18452(S)
魔力:15411(S)
攻撃力:20076(S)
防御力:23096(S)
速力:14983(A)
精神力:20007(S)
「スキル」
『風属性魔法Lv.10』『魔力装甲Lv.10』
『呪い耐性Lv.10』『神の加護』
「称号」
『聖騎士』『反骨心』『人望厚き者』『求道者』
(装備ボーナス無しの場合のステータスです)